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地域の課題解決の鍵はテクノロジーと協働。UIJが取り組む、日本の未来を支える挑戦とは?

吉永隆之/1980年千葉県生まれ神奈川育ち。大学卒業後、IT企業2社を経て、10年間、企業の業務システムに携わる。2012年に会社員として働きながら自由大学に携わり、それがきっかけで会社を退職して福島県の浪江町役場に勤務。タブレット配布事業のプロジェクトリーダーを務め、任期終了後は神戸市役所へ。UIJの前身、UIKからプロジェクトに携わる。

学生時代はバンド活動に明け暮れて留年も経験しました。やりたい仕事のイメージも持たず、流れで就活を始め、唯一内定を出してくれたIT企業でシステムエンジニアとして働きはじめたんです。そのあたりの背景は浪江町役場で働いていた頃にgreenz.jpで取材していただいた記事がわかりやすいです。

そんな浪江町役場での経験から今度は神戸市役所で任期付きの職員として働くことになるんですが、社会の課題への問題意識をもつようになったのは、この2つの自治体での経験が大きいんです。

問題意識のきっかけは
浪江町役場、神戸市役所での
職員としての経験から

社会課題に課題意識をもったのは、東日本大震災と浪江町役場のプロジェクトでの経験が大きいです。原発事故により全国に避難していた町民コミュニティを再生させようというプロジェクトで、タブレットで動くアプリを開発したのですが、僕らの思いをちゃんと実現できるIT企業を探すのに苦労しました。

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写真は2014年7月から2016年3月までの福島県・浪江町職員時代

通常の自治体は公募をかけてプレスリリースを出して応募を待つという流れなのですが、ただ待っていてもいい会社が応募してくれるわけではない、そもそもそのプロセスに問題があると感じていました。仕様書の書き方も何を実現したいか企業の方にわかるように書くように工夫しましたし、東京や大阪の企業に売り込みに行って、「ぜひ提案してください!」と声をかけてまわりました。でも本来は地元(福島)の企業と一緒に取り組めるのが理想です。

もうひとつのきっかけは神戸市役所での経験です。神戸も多くの地方都市と同じく人口減少が進んでいるのですが、「若者に選ばれる街」を目指して様々な施策を打ち出しています。私は、企業誘致やスタートアップを支援する部署で、この課題に取り組んでいたのですが、ただ補助金があるからといって、神戸で事業所をつくったり、起業するわけではないんですよね。 神戸市と一緒に事業をしたり、事業活動ができるフィールドを提供して、関係をつくることが大事なのです。

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まとめると、地域にいいプレイヤーが必要であり、地域に人を呼び込んで地域の経済を活性化させる方法をみつけたいというのが僕の課題認識です。そこにうまくピースがはまったのがUrban Innovation KOBE(以下、UIK)という神戸市のプロジェクトです。

今まで自治体の中で隠れていた課題を表に出すことで、「それならうちが解決できるよ」という会社とマッチングし、ともにサービス開発を行い実証実験を行うプロジェクトです。神戸の外の会社がほとんどですが、プロジェクトに参加することで神戸に関わってもらえる。そうすると地域に根ざすとか、新しい関係性がつくれるとわかってきたんです。これはうまくいけば、神戸市だけではなく、浪江町でも展開できることではないかと思います。

時代の流れも感じています。新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの行政のしごとのあり方が変わらざるを得ない状況に立たされています。大きな変化への対応には、課題を一緒に解決してくれる企業やスタートアップとの協働が、重要だと考えています。

経済産業省でもデジタル・トランスフォーメーション(注1)を推進する会社を支援し、省庁のIT化をすすめる施策を打ち出しています。

(注1)METI DX:
経済産業省のデジタルトランスフォーメーション特設Webサイト
https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/index.html

また、GovTech(ガブテック)(注2)の流れが世の中的にひとつの産業になりつつある。この流れに乗って、自分たちも地域の課題を解決できるように推し進めていきたいと感じました。

(注2)政府(Government)と技術(Technology)を組み合わせた言葉。GovTechは政府や地方自治体の業務効率をICTを活用することで高めて、行政職員や住民の双方が煩雑だと感じているような手続きをスムーズにする流れであり、日本では神戸市がいち早く取り組んでいます。

UIKに取り組んでいると気づくのは、本当に地域のために社会のために何かしたい、というスタートアップ企業が多いことです。「ものすごく売り上げを立てたい」とかではなくて、「自分たちのノウハウを社会に役立てたい」という心意気を持った企業がたくさんいらっしゃるんです。

東灘区役所のご案内係の現場にITを導入、
その後の劇的ビフォーアフター

今自分が取り組んでいるプロジェクトマネージャーの仕事を東灘区役所での具体例(注3)をもとに紹介します。

(注3)詳細 神戸市 東灘区 総務部 総務課
行政窓口をスムーズに案内できるツール(区役所UX/UI改善実験)
https://urban-innovation-japan.com/project/20181st/higashinadaku-customerservice/

最初に行うのは、現場から課題をあげてもらい、課題を分析することです。

神戸市の区役所の窓口には案内係の人がいまして、来庁された市民の方の案内や、さまざまな質問に答えています。何でも答えられるように、分厚いマニュアルをもって対応されているのですが、派遣スタッフの方が担当されていて、人の入れ替わりが定期的にあります。その度にゼロから教えたり、調べるのに時間がかかったりという苦労がありました。

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マニュアル、各種申請書類、地域のイベント情報など資料が膨大です。

次に協働する企業さんを探します。

手を上げてくださったのはACALLさんという神戸の企業で、無人受付のソリューションを企業向けに提供している会社です。その分野で業績が伸びていて、行政向けにサービスも提供しようと考えておられたところでした。なおかつ開発者自身が東灘区民であり、地元のために何かしたいという熱い思いをもっておられました。

ACALLのシステムをベースに、タブレットを使ってご案内できるような検索システムを開発しよう、という取り組みがはじまりました。

ここからプロジェクトマネージャーとして協働を支援します。

ACALLさんと東灘区役所の職員を手引きするのがわれわれUIJ(当時はUIK)事務局の役割です。UIKでは、4ヶ月の協働期間で、サービスの開発から実証実験まで行うため、やりたいことをすべて実現するのではなく、必要な部分のみにフォーカスする必要があります。システム開発に不慣れな自治体職員に「開発はこういうプロセスですすめます」と話しながら、その過程では「今この短期間で開発するのであれば、こういう機能はいらないのでこちらに集中しましょう」とか線引きをしてあげる必要があります。

ITが魔法の道具のようにすべて解決してくれると思っている方もいらっしゃる一方、プロジェクトに参加してくれる企業さんは、神戸市で最小限の機能検証を行い、うまくいったら他の都市にも展開していきたいと考えているので、双方の期待値をコントロールしたり、交通整理することも必要です。

課題の見える化もお手伝いします。

課題に取り組む際、困り具合が数値化できていると、効果が検証しやすくなります。先ほど紹介した案内係さんの例ですが、「実際どんな問い合わせがあるのか」だとか「案内に何分かかっているか」ということを東灘区役所の職員がストップウォッチ片手に実際に計測してくれました。このような見える化の作業のお手伝いも行います。

委託契約であればベンチャー企業に丸投げしてしまいがちですが、このプロジェクトがいいのは協働プロジェクトなんです。自治体側も一緒に汗をかいて、サービスをつくっていく。そういうことを体験してもらう場でもあるんです。

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つくりながら改善していく、高速PDCAも実践していきます。

UIKでは、アジャイル(注4)的な開発プロセスを採用していて、一気に完成形を目指すのではなく、ユーザーテストを行って改善していきます。例えばこのプロジェクトでは、プロトタイプができたタイミングで、神戸市のすべての区の受付を監督してもらっている人たちに来てもらい、実際に触ってもらいながら「どういうのであれば使いやすいですか?」とヒアリングしました。

(注4)仕様や設計の変更があることが前提の開発。本当はアジャイル開発自体は手法ではなく、思想って話をしたいのですが、長くなるので割愛します。参考にこちらを。https://www.ipa.go.jp/files/000065601.pdf

「一度タブレットで検索した情報をもう一度見たいときに入力し直すのが面倒なので、検索履歴が見れるようにしたい」だとか、「わりと制度の名前が変わりやすいので古い制度の名前も知りたい」とか、「保険証は種類がたくさんあるので写真を並べて指差しで確認してもらえるようにする」とか、そういう意見を吸い上げてサービスをブラッシュアップしていくようにしました。

このようなプロセスを通して、初めて受付に立つ人でもすぐに案内できるようなシステムをつくることができました。多くの新聞などのメディアにも取り上げられましたし、他の自治体からも導入の問い合わせがあったり、開発に携わった職員我々もいいサービスが開発できたことに誇りを持っています。

UIJは自治体の悩みが共有された
プラットフォームになりたい

東灘区役所の事例はうまくいった成功事例ですが、難しい部分もあります。自治体職員もベンチャー企業もどちら側もやる気がある場合でも、制度や既存のルールが邪魔をして、うまくピースがはまらない場合もあります。実際、参加する自治体のみなさんにも取り組む際に、「成功率は半分ぐらいです」という話をしています。

また取り組んでみてわかってきたのは、神戸市でうまく課題が解決しても、他の自治体に横展開できるかといえばそうではないと知りました。神戸市で改善したやり方を他の困っている自治体に当てはめようと思っても、あまり仕組みが統一されていなくてバチっと当てはまらないこともあります。

具体例を出すと、神戸市で医療費の控除を受けるために医療機関から送られてくるレセプトチェックのエラー情報を手作業で処理していたのですが、一部RPAを使って自動化させることに成功し、月間約40時間の処理時間を短縮することができました。このツールを県内の自治体に横展開しようとしたのですが、実際は業務プロセスが違うなどでうまく展開できませんでした。

ということは、逆に言えば自治体が何に悩んでいるかが他の自治体にも共有されていれば、もっと課題解決の精度があげられるはずです。同じ課題を抱えている自治体同士で、事前に情報交換したり、あるいは共同で課題に取り組むことができてもいいはずです。

さらに、参加するスタートアップ企業にもメリットがあります。例えば、ある課題に悩んでいる自治体が、自治体が全国約1700自治体のうちに1000ぐらいあることが可視化されればそこには思い切って参入しやすいですよね。UIJはそういった自治体の悩みが共有されたプラットフォームになりたいと考えています。それが実現されれば日本の未来を支える仕組みになるはずです。

全国の自治体の課題に取り組む、
プロジェクトマネージャーの仕事

いまは神戸市周辺だけですが、これからは全国の自治体の課題に取り組んでいくために、UIKから名称をUrban Innovation JAPAN(以下、UIJ)に変えました。そのために課題解決の精度をあげて、スピードをあげていきたいのでその仲間を募集しています。

この仕事はめちゃくちゃ面白いです。いろんな地域の課題に向き合えるのが楽しいですし、基本的に社会の課題に取り組みたいと手をあげてくれる自治体職員の方やスタートアップの方とお会いするのでみんなやる気があって刺激になります。

行政ならではの課題って、普段市民生活しているとぜんぜん気づかないことも多いので、とても勉強になります。今取り組んでいる給食献立のアレルギー表示の課題も、保護者の方や学校の先生などにインタビューをしながら、どうしたら当事者の方々に安心して給食を食べていただけるかを考えたりしています。

UIJにはどんな人が向いているか

UIJでは全体的にテクノロジーを使って課題を解決していくのでITの知識やスキルがある程度あったほうが良いですが、みなさんの意見をちゃんと平等に聞いて、何がベストかを冷静に判断できる人、組織の枠を超えて協働した経験がある人がUIJに向いていると思います。ファシリテーター的役割とも言えるかもしれません。

組織の枠を超えてここまで読んだ内容は共感できるという方は、一度お気軽にご連絡ください。


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松村亮平(長田区役所の事例を収録)


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