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昔からあるものに名前をつけ直す「レトロニム」を知っていますか?

みなさんは「レトロニム」を知っていますか? 新しい薬の名前? メトロノーム? いえいえ。

「レトロニム」は「再命名化」という意味です。例えば、電話。携帯電話が登場して、家庭にひく電話を「固定電話」と呼ぶようになりました。あるいは、本。電子書籍の登場で、単に本と呼ばれていた印刷物は「紙の本」として区別されるように。

あるもの・ことに新星が現れ市民権を得ることによって、それまでのもの・ことを再び名づける必要が出てくる。これがレトロニムです。

わたしは朝日新聞のコラムでこの言葉を知ったのですが、レトロニム前後の単語を並べてみると、そのもの・ことに起こった変化がわかって興味深いなと思いました。


言われてみれば「裸眼」もレトロニム

こんな身近なものもレトロニムです。

左:レトロニム 右:新しいもの・こと
日本茶 紅茶、コーヒー
日本画 西洋画
裸眼 メガネ、コンタクト
有観客 無観客
対面授業 オンライン授業
デーゲーム ナイトゲーム
回らないお寿司 回転寿司

日本茶や日本画は明治以降、貿易が盛んになり海外からの輸入で種類が増えたため、日本固有のものと区別したのでしょう。裸眼や有観客、対面授業には技術の進歩が、デーゲームや回らないお寿司には社会の流行が関係しています。

他に有名なのは、レッサーパンダ。もともとパンダと呼ばれていたのに、あとから発見された白黒模様でおなじみのジャイアントパンダがパンダと呼ばれるようになったため、「レッサー」がつけられたとか。ちょっとせつないレトロニム。

最近だとマスクもそうです。ここ数年マスク着用が強く推奨されて常態化し、マスクをしないことがやや否定的に「ノーマスク」と名づけられた。同じ状態のことが、今ではマスクをはずそうとする気分を受けて「マスクフリー」とも呼ばれていますね。

読売新聞のWeb記事では、お笑い芸人のダイヤモンドがレトロニムをテーマにつくった漫才が取り上げられています。

このネタでは、「レトロニムしなくていいのにレトロニムしていく」ボケが展開されます。例えば、

有賃乗車
有銭飲食
農薬野菜

すると「まだ一定のラインを越えてないんだから、わざわざ言うな」とツッコミが入ります。

そうです。あるもの・ことにレトロニムが必要になるのは、新しいもの・ことが一定のラインを超えて流行し、無視できないほど普及してから

この「一定のラインを超える」とはつまり、現実的になるということ。もし「有賃乗車」がレトロニムとして成立するとしたら、それは無賃乗車が一般化する、タダ乗りが普通になったときです(治安大丈夫そ?)。

レトロニムを考えることは、ネーミングをつくること

ダイヤモンドのネタでは、社会情勢や流行と関係なく、「自分が新しい言葉をつくる」と意気込んでレトロニムを乱れうちしてきます。そこで出てくる言葉は違和感がすごくて笑ってしまうのですが、レトロニムを考えることはネーミングをつくることなんだ、と気づかされました。いくつか紹介します。

不自然ローソン

近い将来、健康志向が強まってナチュラルローソンが全国を席巻したとき、青いほうのローソンをなんと位置づけるべきか。ネタの中ではナチュラルの対義語として「不自然」と再命名していました。歩いていて突然「不自然ローソン」の看板を見かけたら、興味がわいて品ぞろえを確認したくなりませんか?

とろけないチーズ

あの定番商品もネタに。どうでしょう、わざわざ「とろけない」とうたうチーズがあったら。「チーズでいいだろ!」とツッコまれていましたが、何か特別な製法なのかも…?と深読みしたくなる。「絶対にとろけないチーズ」「とろけるわけがないチーズ」など、とろけなさをエスカレートさせていくとよりネーミングっぽくなります。

シェフのがんばったサラダ

これはすでに商品名として流通していそう。シェフの気まぐれサラダ的なおしゃれサラダが世の中にあふれたとき、普通のサラダを「がんばった」と一味違う表現で打ち出すのは効果的です。「某有名シェフが監修していないサラダ」や「テレビで全く紹介されないサラダ」など、バリエーションを広げていくのも楽しいです。

レトロニムとは、魅力を再発見するネーミング

話題の生成AIをはじめ、これからもあらゆるイノベーションが起きて、今あるもの・ことは絶えず進化していくでしょう。

新しいもの・ことが出現してレトロニムが必要になるとき、それまでのもの・ことが持つ価値は何だったのか、見つめ直すきっかけになります。

スマホのレトロニムである「ガラケー」はガラパゴスケータイの略ですが、その名の通り独自の進化を遂げたことや機能性がシンプルなことでまだ根強いファンがいます。

新しさは常に古さを上回ると思われがちですが、古くなったもの・ことにも、魅力は残っている。レトロニムはその魅力を再発見し、言い表すネーミングなのではないでしょうか。


文:シノ

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