「ふつうじゃない視点」が、面白さにつながる
先日、脚本家の三谷幸喜さんがテレビで話した「読書感想文の書き方」が話題になりました。
三谷さんはそこで、『桃太郎』について読書感想文を書くなら、と例を挙げてこんなことを言っています。
太字にした部分、ネガティブ思考で面白いな〜と思いながら、わたしはドキッとしたんです。
三谷幸喜は、桃太郎の視点じゃなくて「おじいさんとおばあさんの視点」で話してる!
おじいさんとおばあさんの視点から見る『桃太郎』
みなさんもよくご存知のこの昔話は、ひと言で言うと「桃太郎が鬼を退治する」話。桃太郎視点で描かれる、勧善懲悪の物語です。
そんな物語で感想文を書くとしたら、解釈の幅がなさすぎて大変そうだし、つまらないものになってしまいそう。
ところが、三谷さんの感想は面白い。
「昔は川上から桃が流れてきたら拾っていたかもしれないけども、あれを読んで、余計なことには巻き込まれたくない、桃を拾うのはやめようと心に誓った。」
三谷さんは「自分はこう感じた」を主軸にしていますが、面白さを引き出しているのは、この感想が「おじいさんとおばあさんの視点」であるところ。
もし、桃太郎の視点のまま感想を書こうとするとどうでしょうか。「家族に感謝して、自分も周りで起きている悪いことは見過ごさない勇気を持ちたい」みたいになりそうですよね。
いい子だね〜と言われて平均点くらいは取れるかもしれません。ただ、良くも悪くもふつう。
三谷さんの「余計なことには巻き込まれたくない、桃を拾うのはやめようと心に誓った。」ほどのインパクトはありません。
『桃太郎』の中では、主人公は桃太郎であり、おじいさんとおばあさんは名前も設定もとくにない「モブキャラ」です(ひどい)。
でも、だからこそ三谷さんはそこに目を付けた。日の当たる主人公ではなく、あえて日陰の脇役、モブキャラの視点から物語を見直した。
物語の別の側面を言葉にしたのです。
そこで立ち上がるのは、桃太郎のハッピー鬼退治ヤッホーストーリーではなく、「桃太郎の世話をしたり団子を手作りしたりする面倒に巻き込まれるおじいさんとおばあさんのストーリー」。
三谷さんがやったことって、実は広告やコピーライティングでもよく使われるテクニックなんです。
「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」
2013年に、「新聞広告クリエーティブコンテスト」という広告賞でこんな作品が最優秀賞に選ばれました。
鬼の子どもが、涙ながらに父親が殺されてしまったと訴えます。誰にかと言えば、そう、桃太郎。
この作品は、審査員からも非常に高い評価を受けました。
審査員の言葉にあるように、ここで評価されたのは「視点」です。
三谷さんは「おじいさんとおばあさんの視点」で『桃太郎』を捉え直していましたが、この作品では「鬼の子どもの視点」。
キャッチコピーを手がけたコピーライターの山﨑博司さんは、こうコメントしています。
『桃太郎』において、ヒーローなのはもちろん桃太郎。鬼は、悪者です。
物語が生まれてから今までずっと、語られてきたのは桃太郎の活躍でした。鬼退治という言葉もそう。殺されて当然、くらいのニュアンスです。
でもじゃあ、“退治”される鬼側の気持ちはどうなんだろう? 彼らの言い分は? 状況は?
物語に対する視点を変えるだけで、見る人を立ち止まらせ、考えさせることができる。深いキャッチコピーですよね。
「ふつうじゃない視点」が、面白さにつながる
桃太郎の視点からは見えないことが、おじいさんやおばあさんの視点、鬼の子どもの視点からなら、見えてくる。
常識や通説、慣習となっている見方、ステレオタイプを疑ってみること、「ふつうじゃない視点」で捉え直すことが、面白さにつながります。
みなさんも、読書感想文にかぎらず、文章を書くとき、コピーライティングやアイデアを考えるときにはこの「視点」を意識してみてください。
それは、物語の豊かさや世界の多様性を知る一歩にもなるはずです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。なかなか面白い視点だったよ〜という方はスキやフォロー、コメントをよろしくお願いします!
文:シノ
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