見出し画像

芸術と工業化が融合するアラビア流モノづくり

フィンランドの『アラビア』。今や世界有数の陶器ブランドとしての地位を確立している。陶器というと「伝統的なデザインを踏襲する」印象があるが、アラビアは世界に供給するメーカーでありつつ、新しいデザインを生み出し続けている。そこには芸術と工業化を融合させたアラビア流のモノづくりの体制がある。

芸術家へ表現の自由を与える「アートデパートメント」

アラビアの歴史やデザインの系譜についてわかりやすく紹介された下記の本によると

アラビアには『アートデパートメント』という部門が伝統的に存在し、そこに在籍する芸術家はアラビアの全面的な出資により自身のインスピレーションで自由な表現活動をすることが許されているという。

1931年には陶芸家のクルト・エクホルムが雇われ、翌年にはアートデパートメントのアートディレクターに任命されました。ビルゲル・カイピアイネンをはじめ、多くのアーティストたちが雇われ、エクホルムの手腕により、アラビアの芸術勢が向上し、1937年のパリ万博博覧会やミラノ・トリエンナーレなどの国際舞台で大成功を収めました。代表取締役のグスタフ・ヘルリッツも芸術が果たす役割に理解を示し、生産方法が単純化し、大量生産によるスタンダード化が進む中で、ますます芸術家に表現の自由を与える必要があると考えました。ー『フィンランドのアラビア手帖』パイインターナショナル,2013,p11

大量生産によるスタンダード化が進む中で芸術家による表現の自由が必要という考え方がアートデパートメントの根幹にあるのは興味深い。

アートデパートメントのモットーは、作家が完全に自由に創作できること。直接、利益をもたらす義務などは一切ないことが画期的でした。結果的には、作家やデザイナーによる技術や素材の発展が製品開発への貢献に結びついたのでした。ー『フィンランドのアラビア手帖』パイインターナショナル,2013,p97

利益から解放された完全に自由な表現活動が、結果的に製品の発展に結びついているということが、アラビア流モノづくりを支えているのである。

アートデパートメントで活躍する日本人デザイナー

さて、そんなアラビアのアートデパートメントは当然ながら非常に狭き門であり、卓越した技術や芸術性を持つ者にのみ門戸が開かれている。この書籍が出版された2013年時点では8名のアーティストが在籍し活動を続けているが、その多くが長年アラビアで働き、功績を残してきたヘリヤ・リウッコースンドストロムなどのいわゆる「殿堂入り」した巨匠たちである。その8名の中に、日本人がいるのをご存知だろうか。

それが、石本藤雄氏である。

石本氏は以前こちらの記事でも紹介したとおり、マリメッコを定年退職したテキスタイルデザイナーであったが、そのキャリアの途中から陶芸へと創作活動の幅を広げ、1989年からアラビアの客員作家として多くの作品を生み出している。(石本さんの出身が砥部焼のある愛媛県出身であることも少なからぬつながりを感じる)石本氏のつくる花の陶器は大胆な中にも繊細さがあり、その作品を見ていると日本で生まれた彼の感性という種子が遠くフィンランドという土地で花開いた奇跡を感じずにいられない。石本さんの陶芸作品(およびマリメッコ時代のテキスタイル作品)については下記の本に詳しい。

石本さんのような経験豊富な殿堂入りした巨匠たちが大半のアートデパートメントだが、それだけではなく、Heini Riitahuhta(ヘイニ・リータフタタ/1975年生まれ)やKim Simonsson (キム・シモンソン/1974年生まれ)などの若手が在籍していることもまた、芸術の前において経験や年齢は関係ないという平等の精神が息づくフィンランドらしさを感じる。


フィンランドに訪れるたびにコツコツと購入したアラビアのお皿やコーヒーカップは、我が家の食卓に彩りを添えてくれている(タイトル写真)。

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?