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恋愛|ネコをみならう

私が好きなのは、鳥。


だし、今はコツメカワウソやチンアナゴに目を奪われています。


それなのに、

ネコを飼ったら?
ネコをみならうといいよ

これは、亡くなった同級生の遺言です。

と言っても、彼とは地元を離れて以来会うことはないまま。つまり、この遺言は夢の中で聞いたものです。ある日突然、夢に現れてアドバイスされました。訃報を聞いたのは、その夢を見た後。訃報も、彼が亡くなったことで企画された同窓会があったから偶然聞くことができました。結局、参加しませんでしたが。

だから彼について覚えているのは、同じクラスだった頃のことだけです。

夏の日、プールの後のこと。タオル片手に、全裸で教室を飛び出し、階段を駆け降りながら逃げる女子を追いかけ回すといった光景。今でも描けるくらい、目に浮かんできます。ウヒャウヒャ破顔で子犬のように好意を丸出しにし、そのままでぶつかってくるような小学生。

その彼の夢の遺言が、急に、ここ数日思い出されたのです。そういえば、ネコをみならうように諭していたなと。

実は、ここ数日間、いろいろありました。急に決めた資格取得にバタバタ、アタフタしていました。なんと言っても、久しぶりの筆記試験があったのだけれど、準備らしいものなしでチャレンジしたものだから大ごとでした。あるのは、臨機応変力だけです。それで乗り越えようとしました。知識が間に合わない時の必殺技ですね。

その試験当日の出来事なのですが、簡易なペーパー試験を受けながら100点ではないとわかってしまいまして、どうやら問8が怪しいとわかっていまして、胃がギューーーンと縮み上がっていました。答え合わせをする前に得点できない問いがわかるほど辛いことはありません。

そこへ、講師が入室。「ハイ。時間です」と、前に立って、さっそく採点を始めました。一つずつ、丸をつけていたのに、

「んん?」

ちらっと、こちらの顔を見て「んんんんん??」とプレッシャーをかけてきました。そして案の定、問8を見ながら「ここはぁ…」とつぶやく。

すかさず私は、

「こっちが正解ですか?」
「そう!」

それを聞いてすぐに、シュッと、右手に持っていたペンで正解の選択肢に近づくと、彼は絶妙なタイミングで、

ダメっ!!!!


ぴしゃりと言い切りました。


そのとき私は、間違った答えを正解に書き換えるつもりはなかった。のだけれど、その場の空気は、ネコが人間の食卓の焼き魚に手を出してしまったような体になっていました。急に糺されてしまった私は、ポカンとしながらも、おずおず他人のふりをしました。どうして叱られたのかわからない動物の気持ち。そんなところだったと思います。だから、そのまま目を合わせないようにして、まだ隙をうかがっている素振りに見えなくもないような躊躇ぶりで、そっと手を引っ込めました。その右手には、モフモフがかすかに生えかかっている雰囲気でした。

次の日も同じ。で、ペーパー試験を受けました。
同じ講師が担当してくださったのですが、もう彼は、私をニュートラルな目ではみてくれませんでした。答え合わせの段になると、あからさまに警戒。昨日と同じように間違ったところをシュッと書き直すつもりでしょ?「ダメっ!!!」という顔で身構えています。いや…、それは濡れ衣ですよ。それは違います。半乾きの長袖に手を通すみたいに気持ち悪いですと、心中で少し抵抗しました。

いつもなら、先々の関係性のことも考えて「濡れ衣です」「誤解です」と大真面目に訴えかけ、意に沿わない関係を正常位ちに戻そうとするのですが、今回はそれを全面的にやめました。なぜなら、この時、私は例の同級生の夢の遺言を急に思い出したからです。これが、こういう状況が、彼のいう「ネコをみならう」ではないのか。自らではなかったけれど、なんとなく無理やりネコ側にまわされたことで、自然にネコの体ができています。

だから、ここはこのまま抵抗せず「戯れる」が正解ですよね?
なんならモフモフ肉球猫パンチですよね? と、天を仰ぎ見たのです。

やっと、夢の遺言の意味が現場レベルで分りました。ネコのことまで教えてくれる、いい講師に出会えたのかもしれません。


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追記:202/11/30添付



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