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日記じゃないもの

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#小説

【二次創作】『人切り以蔵』の終盤

【二次創作】『人切り以蔵』の終盤

――以蔵が自白する前夜のこと

「先生が俺に毒入りの弁当を食わせるとは」

 他の寝静まった頃、以蔵はひとり獄中のなかでその悔しさに歯を軋ませて、この有様についてふつふつと考えていた。

「俺がこの勤王党のためにどれだけ尽くしたか先生は忘れたのか。それに労をねぎらうどころか、散々忠義を尽くしたこの俺を口を割ると決めつけて、切り捨てるだと。いつまで俺を無下に扱えば気が済むのだ」

 以蔵は、

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【掌編小説】Aの取り調べ調書

【掌編小説】Aの取り調べ調書

――ええ、私がやりました。こういうの「間違いありません」と容疑を認めています、ってよく聞きますよね。へへっ。あ、すいません。 

――あいつは高校の同級生でした。面白い奴だったんですよ、殺しましたけど。それが、社会人になって金の無心をするようになって…。周りはみんな断っていたらしいんですが、高校の頃のあいつを知っているだけにどうも嫌いになれなくて、でもそれがよくなかったんだ。あいつは僕の良心につけ

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【掌編小説】キュートアグレッション

【掌編小説】キュートアグレッション

 彼女は自分のことが大好きであった。本当の彼女は彼女自身にしか理解できない、真に自分のことを愛せるのは自分だけだと本気で信じていた。自分だけがこの寂しい世界の唯一の理解者だった。だから、誰からも見向きもされない日にも平気であった。彼女の心は、いつも自分を見てくれていたからである。 

 それと、鏡が苦手であった。鏡は心に映る現実から引き戻すからだ。素顔のままに鏡に立っていることは彼女の生きる自信を

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【掌編小説】火事

【掌編小説】火事

 信号を無視して、一時停止を突っ切る。咎めるものは何もない。 

 この地区は3年ほど前に避難命令が出て、私以外にはだれも住んでいない。街全体がもぬけの殻なのである。 

 この地区の話を人づてに聞いたとき、彼はココこそが楽園だと信じた。そして、旅行がてらにノコノコやってきた招かれざる客であった。 

 しかし、1週間ほど経ち、「私のやりたいことって一体なんだっけ」と片隅にあった空虚な気持ちが当初

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