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やけ酒場

"将棋界の天界"と言っても過言ではない、A級順位戦。



そこに選ばれるのは、たった10人のトップ棋士のみ。



その内7人が、2次予選で早くも姿を消すという(笑)、
まさに"兵どもが夢の跡"の様相を呈した、大荒れの一般棋戦、
それが、朝日杯 将棋オープン戦です。




無名の四段棋士が、トップ所を続け様になぎ倒すなど、
波乱が続く本棋戦を、私も兼ねてから注目していました。




しかし、その渦中で唯一、2次予選Eブロックを勝ち抜き、
A級棋士としての貫禄を見せたのが、佐藤 天彦 九段です。




ファッションセンスの高さや、芸術への造詣の深さなどから、
将棋界の"貴族"との異名を持ち、名人3期の実績を誇る佐藤九段。



その強さを存分に見せての、堂々の本戦進出となりました。






さて、そんな中。



私が今回、この朝日杯を話題に出したのは、
佐藤九段の勝ち抜いた、この2次予選Eブロックで発せられた、
ある方の"やけ酒注意報"が発令されたためです(笑)。



その方と言うのは、同じくEブロックに出場した、
46歳で、A級6期の経験を持つベテラン、行方 尚史 九段です。




Eブロック準決勝での、阿部 光瑠 六段との対局。




終盤まで形勢を優位に進め、111手の時点でAI評価値は98%。




このまま行けば、ほぼ確実に行方九段の勝利と思われましたが、
ここで、"1分将棋の怖さ"を、我々はまざまざと見せられます。




112手目に、行方九段が指した4五桂が、大悪手。




その一手が敗着となり、形勢は一気に逆転。




あっという間に行方玉は、15手詰めに討ち取られてしまい、
動揺を隠せない様子の行方九段は、無念の投了。



(abemaプレミアムにご登録の方は是非、2時間16分頃からご覧下さい)





勝利を手中に収めたかと思った瞬間、
ふと気付いた時には、盤上の自玉が詰んでいるという衝撃。



通常、対局後は感想戦が行われ、本局の内容を振り返るのですが、
あまりにも気が動転した行方九段は、投了するや否や、
急いで駒を片付けたかと思うと、そそくさと対局場を後にしました。



これを見た将棋ファンからは、「今日はなめちゃん、やけ酒だな」と(笑)、
行方九段の無念の逆転負けを案ずる声が、多く寄せられました。






私の中で個人的に、このシーンを観て思い出されるのは、
2015年の名人戦 第4局。



羽生 善治 名人に挑戦した、行方八段(当時)はこの時も、
勝ちを目前にして、痛恨の逆転負けを喫してしまいます。




すっかり憔悴しきった表情で、やむなく投了となった行方八段は、
あまりのショックからか、人目も憚らず涙を流してしまう一方、
勝った羽生名人は、まるで一仕事終えたかのような様子で、
手元のオレンジジュースを、グイッと飲み干したのです(笑)。




この時も、帰ってからやけ酒を食らったのでしょうか。




人生と言うのは、かくも辛く厳しいものであるということを、
将棋ファンの我々は、存分に思い知らされたことと思います。







私は、体質的にお酒は全く飲めないので、よく分かりませんが、
やけ酒のような、"何かを一気に、大量消費する"行為は(笑)、
大きなストレスを受けた場面では、時に必要かなと感じます。



noteでも、これまでいくつか書かせて頂きましたが、
人生の辛酸を、この10年でラッパ飲みしてきた自負はあります(笑)。




そのストレスを、もし、酒やタバコやギャンブルで発散していたら…。




そう考えると、どれもやってなくて良かったと、心から思います。




ですが、お酒が好きな人に関しては、死なない範囲であれば(笑)、
こういった形で発散するのも、悪くない気がします。




意外と人生、素晴らしい成功よりも、惨めな失敗に目を向けた方が、
より良い社会を築くヒントを得られるのではないでしょうか。






朝日杯で逆転負けを喫し、いそいそと立ち去った(笑)行方九段。






その日の彼のような、悔しさと落胆にまみれた人が立ち寄り、
思う存分飲んで、発散させられるような酒場があるとしたら、
どんな雰囲気のお店で、どんなお酒を出すのでしょう。



皆さんは、人生で心底、屈辱的な思いをした日には、
どんなお店で、どんなものを飲みたいですか?



また、お酒以外でも、どこに行って、何をしたら発散できるかなど、
素晴らしいアイデアをお持ちの方は(笑)、どしどしお寄せ下さい。



この先の人生で、"フォーアウト"、"ファイブアウト"なんて日が(笑)、
もし来るようなことがあれば、そのアイデアを実践したいと思います。






"成功するためには、〇〇しろ"なんていう教えより、
"ドン底に落ちたときには、△△しました"という経験談の方が、
皆さんにとっても、より有用な情報ではないでしょうか。



そういった意味でも、私は素晴らしい成功以上に、
惨めな失敗に目を向けていきたい、そのように考えています。





今回の、行方九段による、頓死からのやけ酒も(笑)、
私達にとっては、決して無駄なことではありません。





なめちゃんの熱い将棋に、乾杯!

その100円玉が、誰かの生きがいになります!