描き講習
先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第3シリーズを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、メインキャラ4人のコーナーの2つ目、
「もんちゃんの『夢見なハイキック!』」をお送りします。
<人形劇 登場人物>
・もんじゃ姫
→本作の主人公。
頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。
・さばみそ博士
→頭の上にさばの味噌煮が乗った、
語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。
・ハバネロ姉さん
→メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。
・ブルーハワイ兄貴
→頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。
~もんちゃんの「夢見なハイキック!」~
アトリエにて一枚の油絵をついに完成させた、
抽象絵画の大家・モンジャリアン。
思わず、その出来栄えの素晴らしさに見惚れてしまっている様子。
モン「サバミソールよ、ワシの超大作を見るが良い!」
弟子のサバミソールを呼びつけると、得意気に見せびらかした。
モン「どうだ、見てみろ。今さっき、出来立てホヤホヤの作品じゃ」
サバ「おぉ、…これは素晴らしい!さすが先生でございます」
モン「そうだろう、そうだろう。
これが、何を描いた絵か分かるか?」
師匠の絵画にミソを着ける訳にもいかず、
とりあえず褒め称えたサバミソールだったが、目の前の作品が、
何をモチーフに描かれたものなのかが、まるで分からなかった。
サバ「そうですね、これは…、
…焼き上がったばかりの、マルゲリータ・ピザでしょうか?」
モン「"ひまわり"じゃ!!」
モンジャリアンに一喝され、思わず絵を二度見したサバミソールだが、
何度、目を凝らしてみても、窯から揚げたてのピザにしか見えなかった。
サバ「はっ、…これは、大変申し訳ありません」
モン「全く、君もまだまだ、芸術を見る目が足らんというものだよ」
この分では、この師匠の芸術世界を理解するのは、
大分先の未来になりそうだとと感じたサバミソール。
モン「ところで、サバミソールよ」
サバ「はっ、何でしょう」
モン「わしは、そろそろ個展を開きたいのじゃ」
サバ「個展ですか…。
それですと、ある程度の点数、作品を揃える必要がありますね」
モン「そうか、…それは困ったのう」
サバ「どうされましたか」
思わず、頭を抱えてしまうモンジャリアン。
モン「あいにく、わしの作品は、これ1点しか無いんじゃよ」
サバ「何と!?」
それでは、ただの"ピザ展"になってしまうと、途方に暮れるサバミソール。
サバ「そうなりますと、作品を作り溜めてから、また日を改め…」
モン「そうじゃ!」
急に、何かを閃いたモンジャリアン。
モン「サバミソールよ、ちょっと車を出してもらえるかな」
サバ「お車ですか?」
急な思い付きで2人が向かった先は、近くの公立高校だった。
ある教室のドアを、躊躇いもなくガラガラと開けるモンジャリアン。
モン「ごきげんよう」
教師「はっ…!?」
一瞬、驚いた様子の教師だったが、
モンジャリアンの顔を見てさらに驚いた。
教師「あ、あなたはもしや…、
あの抽象絵画の巨匠、モンジャリアン先生ですか?」
モン「いかにも」
自分の名が知れ渡っていることに、思わず鼻を膨らますモンジャリアン。
モン「この学校の授業が、大変素晴らしいということを、
かねてから聞いていてね。
是非、一度見させてもらおうと思っていたのだよ」
教師「…先生からそのようなお言葉を頂けるとは、身に余る光栄です。
こんな授業でよろしければ、どうぞご覧になって下さい」
特に、巷でこの学校の授業が評判ということもないのだが、
モンジャリアンに褒められて、俄然、やる気を出した教師。
気合の入った声で、世界史の偉人の名前を読み上げ、
チョークをカンカン言わせながら、黒板に謎のカタカナを書き並べている。
生徒達の席を歩いて回る、モンジャリアンとサバミソール。
どう見ても、悪い生徒達には見えないのだが、
誰一人として、黒板の方を向いている者はいなかった。
モン「君は、何を読んでいるのかね?」
ある女子生徒に話しかけると、夢中で読んでいたのか、
ハッと驚いた様子だったが、ちょっと恥ずかしそうに答えた。
女子「…"こっちむいて!みい子"です」
モン「おぉ、君、素晴らしいねぇー!」
サバ「いやいや、授業中に堂々とマンガを読むのは、いかがなものかと…」
モン「何を言っておる、サバミソールよ!
この作品は、この絵柄の割に、内容はかなり社会派なんだぞ」
女子「そう!さすが先生、分かってらっしゃる!」
自分の趣味を肯定されて、つい笑顔がこぼれる女子生徒。
モン「もうかれこれ四半世紀以上続く、大傑作と言ってもいい作品じゃ。
インドネシアでも大人気なんだぞ、知っておったか?」
サバ「そうなんですか…!?」
とても社会派マンガとは思えない絵柄に、
驚きの表情を浮かべるサバミソール。
モン「その愛情を忘れることなく、もう四半世紀読み続けなさい」
女子「ありがとうございます!」
世界史の授業そっちのけで、マンガの続きを読みだす女子生徒。
教室を全体的に見回すと、雑誌を読んでいる生徒や、
スマホをいじっている生徒、携帯ゲームに夢中な生徒、
女子同士で、小さい紙切れに何かを書いて回し合っている生徒など、
概ね、ただ制服を着て教室に来ている"だけ"の者がほとんどの様子。
日本の学校教育の存在意義を、つい疑ってしまうサバミソールをよそに、
ある男子生徒の席の前で「おやっ」と立ち止まるモンジャリアン。
モン「君、これは…点描画かね?」
男子生徒は、ノートの片隅に一生懸命、
シャープペンで点を打ち続けていた。
点と点が無数に集まり、それが線となり、顔となっていった。
サバ「これは、どなたのお顔を書いているんですか?」
男子「えっ?
あぁ、…落合陽一の顔描いてました」
確かに、よく見るとその点描画は、落合陽一の似顔絵だった。
顔の横には、雑な吹き出しで"落合博満です"と書かれている。
サバ「落合違いですな」
モン「君、ちょっと…クククッ、おいたが過ぎるよ…」
点描画の画力と、ギャグのしょうもなさのギャップに、
思わず、笑いをこらえきれないモンジャリアン。
サバ「落合陽一がお好きなんですか?」
男子「いや、特には」
モン「良いねぇー、君。掴み所がなくて」
渾身の点描画をまじまじと見つめるモンジャリアンの姿に、
男子生徒も、やや嬉しそうな表情を見せる。
モン「この作品、少しの間だけ拝借してもいいかな?」
サバ「ちょっと、先生…!」
男子「あ、全然、良いっすよ」
そのノートのページを切り離す男子。
それを受け取ると、大事に封筒に入れ、
サバミソールの持つ大きなバッグにしまったモンジャリアン。
サバ「こんなものお借りして、先生、どうされるおつもりですか?」
モン「まぁ、見ていなさいって」
サバミソールの疑問を適当に聞き流すと、違う列を歩いて行った。
モン「おっ、君、何だねそれは?」
ある女子生徒の席で、足を止めるモンジャリアン。
サバミソールが見ると、プリントの裏に、
何やらカラフルなお弁当の絵が描かれていた。
女子「あっ、これは…キャラ弁です」
サバ「キャラ弁?」
以前、海苔や卵焼きを駆使した、ドラえもんやピカチュウのキャラ弁が、
ニュースで取り上げられていたのを思い出すサバミソール。
彼女の弁当の絵には、キャラクターではなく、
男性の顔を模した海苔が、ご飯の上に乗っているようだ。
モン「これは、誰の顔なのかね」
女子「はい、…一応、三宅裕司さんです」
サバ「三宅裕司がお好きなんですか?」
女子「そうなんです。
私、いつか女優になって、
"SET(スーパーエキセントリックシアター)"に入りたいんです」
モン「素晴らしいねぇ~!
その夢、叶えた暁には、ワシも舞台まで足を運ぼうかな」
女子「本当ですか、ありがとうございます!」
役者志望なだけあって、声量が大きい。
教師から、「君、うるさいよ。授業中だぞ」と叱責を受ける女子生徒。
そんな中、悪びれる様子もなく小声で、
「ちなみに、この美味しそうなおかずは何かね」と聞くモンジャリアン。
女子「はい、これは私の大好きな、永谷園の"麻婆春雨"です」
サバ「これは、スポンサー激怒案件ですね」
モン「まぁ、細かいことは気にしなさんなって」
彼女の描いた、カラフルなキャラ弁の絵を、
愛おしそうに眺めるモンジャリアンは、机に名刺を一枚置いた。
女子「これは…?」
モン「今度、そのキャラ弁、実際に作ってみなさい。
出来たら、その写真を送ってきたまえ」
サバ「ちょっと、先生。何をお願いしてるんですか」
女子「分かりました!今度、作って送ります!」
モンジャリアンの突然の依頼に、女子もすっかり乗り気で答えた。
その後も、他の列の生徒や、他の教室の生徒の席を歩いて回った2人。
練り消しで恐竜を作る生徒や、折り紙でスターウォーズを再現する生徒、
立体的なトリックアートを教科書の上に展開する生徒など、
様々な芸術作品に触れ、それらを拝借して回ったモンジャリアン。
校舎を出た後、「そんなの借りて回って、
一体どうされるおつもりですか」と聞くサバミソール。
モン「ここまで来て、まだ分からんのか。
彼らの芸術作品を集めて、展覧会を開くに決まっておるだろう」
サバ「それは、…もはや個展とは言えないですね」
モン「細かいことは、この際どうでも良いんじゃ。
これは、実に様々なメッセージを、世に発する展示となる」
サバ「いや、しかし、授業中にあのような過ごし方をするというのは…」
モン「分かっておらんなぁ、サバミソールよ!!」
サバミソールの方を振り向いて、モンジャリアンは言った。
モン「"永遠への突入"。
彼らが、学校の授業の中で感じた"永遠のような時間"。
それこそがまさに、芸術を作り出す原動力となるのじゃ」
サバ「永遠のような時間…!?」
師匠の口から出た、抽象的過ぎる言葉に対し、
未だ理解が及ばないサバミソールに、
「また、車を出してくれるか」とモンジャリアン。
サバ「先生、今度はどちらへ?」
モン「言うまでもないだろう」
2人を乗せた車は、この地域の生徒達が通っているという、
夏期講習真っ只中の進学塾へと向かった。
~もんちゃんの「夢見なハイキック!」 終わり~
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