実は内定式
先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第2シリーズを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、エンディングをお送りします。
<人形劇 登場人物>
・もんじゃ姫
→本作の主人公。
頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。
・さばみそ博士
→頭の上にさばの味噌煮が乗った、
語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。
・ハバネロ姉さん
→メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。
・ブルーハワイ兄貴
→頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。
~エンディング~
4月1日。
かつて、就職活動中にケンタッキーで出会った、
もんじゃ焼を頭に乗せた女性から受け取ったメモを手に、
そこに記載された住所の場所へと、
スーツ姿で向かった、元・大学4年生の男子。
オフィス街ではなく、同じようなビルが乱立していない為、
指定の場所には、さほど迷うことなく辿り着くことが出来た。
目的地の施設に入ると、大ホール入口の前に、
"実は内定式"と毛筆で書かれたボードが立て掛けられていた。
男子「"実は内定式"…?」
そんな名前の式典も、人生で聞いたことは無かったが、
どう考えても、指定された会場はここ以外あり得ない為、
とりあえず、中に入ってみることにした彼。
すると、会場の真ん中には、立派なオードブルが用意されており、
スーツ姿の、同年代の若者達が、各々の皿に料理を乗せていた。
ホールに入るや否や、一人の女性が近づいてきた。
「こんにちはー。
…あっ、ケンタッキーでバッテリー貸してくれた方ですよねっ!?」
それはまさに、ここの住所のメモを渡してくれた女性だった。
男子「あっ、こんにちは。お久しぶりです…」
女性「お久しぶりです!
もうすぐ、式典が始まりますので、
どうぞ、あちらのオードブルで、お料理を召し上がって下さいね!」
男子「あっ、はい」
そう話すと、女性はどこかへと立ち去って行った。
オードブルの周囲には、座りやすそうな座席と、
広いテーブルが、そこかしこに置かれており、
スーツ姿の若者達は、好きな場所に自由に座っては、
近くの若者と会食を楽しんでいるようだ。
彼らも自分と同じく、内定が貰えなかった人達なのだろうか。
こうして集められて、会食をするのは良いのだが、
一体、これは何を目的とした集まり、というか"式典"なのか。
頭の中が"?"で一杯となった彼だが、
朝も食べておらず空腹なので、ひとまずオードブルへと向かった。
すると、いよいよ式典が始まるのか、先程の女性が壇上に立った。
女性「皆様、本日はお忙しい中、
"実は内定式"にご列席頂き、誠にありがとうございます」
何が始まるのか、と思い、若者達も壇上に注目した。
女性「本日、この場所に来られているということは、
皆様は、今日時点で一般企業からの内定を、
残念ながら、得ることが出来なかったということでしょう」
急に現実に引き戻され、暗い表情になる若者達。
女性「ですが、それは勘違いです!」
若者達「えっ!?」
この女は何を言い出すんだ、という顔で女性の方を見た一同。
女性「皆様は、ご自身で気付かないうちに、
"実は内定"を得ているのです!!」
若者達「はぁ…?」
特にこれまで、紙でもメールでも電話でも、
内定の"な"の字すら、見た覚えも、聞いた覚えもない彼ら。
女性「本日、お越し頂いている大学卒業生の方々は15名。
就活中にお会いして、私が何らかの形で助けて頂き、
"きっと、この方は誠実な方だろう"と判断した方をお招きしました」
それを聞いて、周囲の若者の数を確かめた彼ら。
確かに数えてみると、ここに自分以外で14名が参加している。
女性「この話を受け、
"そのような若者に、是非ウチが内定を出したい!"と、
喉から手が出るほど、懇願している経営者が、
…こちらの方々です」
女性が両手を左右に広げると、左右の舞台袖から、
演劇のエンディングさながらに、ズラズラと大人達が姿を現す。
女性「個人事業主、小規模事業者、…総勢60名の経営者の方々が、
皆様に内定を出したくて、出したくて、本日ご参加頂きました。
日本で、今この会場においてのみ、
正社員の有効求人倍率は"4.0倍"です!」
覚えたての経済指標を女性が口にすると、会場の一部から笑いが起こった。
何だかよく分からないが、"まだチャンスはあるのかもしれない"。
3月には、このまま一生ニートで終わることも覚悟していた彼だが、
ここに来て、一縷の望みが繋がったような気がしてきた。
女性「若者の皆様は、どうぞオードブルのお食事をお楽しみ下さい。
他のお料理も出来次第、随時お運びする予定です!
是非、ここで出会った同世代の方々と、ご交流頂ければ幸いです。
その間、壇上にいる経営者の方々が、
皆様にそれぞれ、個別にご挨拶を差し上げますので、
若者の皆様は、彼らのお話に是非、耳を傾けて頂ければと思います」
女性がそこまで話すと、経営者達はぞろぞろと降壇し、
名刺を手に、ホールの四方八方へと広がっていった。
女性「ここまでが、今回の式典の概要です。
私からの説明は以上とさせて頂きます。
…ご清聴頂き、誠にありがとうございましたっ」
慣れない敬語で、たどたどしく話し切った女性に、
参加した若者達から、温かい拍手が送られた。
続いて、別の若い女性が登壇し、マイクを受け取る。
「本日は、ご列席頂き、誠にありがとうございます。
この冬に中小企業診断士の認定を受けました、ユリと申します」
先程のもんじゃ頭の女性と違って、聡明な話し方をする人だと感じた彼。
ユリ「今、日本には300万者以上の中小企業があって、
その8割以上が、従業員5名以下といった"小規模事業者"です。
皆様が、これまで目にしてこられたような、
広告料を払って、就活サイトに名前を出せる企業様というのは、
はっきり言って、全企業数の1%にも満たない、ほんの一部です」
中小企業診断士の、テキスト冒頭に書かれている内容を話しただけで、
会場の若者達からは、「へぇーっ」や「ほぉーっ」という声が上がった。
ユリ「しかし、毎年4万者以上の中小企業が、
高齢化・後継者不足を背景に、休廃業に追い込まれており、
何と、その6割近くが黒字の事業者です」
続いて、中小企業白書の冒頭に書かれている内容を話すと、
これまた、「えぇーっ」や「うそーっ」などの声を上げる若者達。
ユリ「就職氷河期で、世の中には内定を貰えない若者で溢れ返る一方、
毎年4万者の事業者が、若者に来てもらえず、
やむなく事業を畳むという、この状況…。
私は、中小企業診断士としては、まだ卵から孵化したばかりですが、
今回、このようなお話を頂いて発奮しました。
…若者の皆様、経営者の皆様。
今日の機会を大切に、お互い手を取り合って仕事を続けていく道を、
是非、考えてみて欲しいと思います。
私も一緒に、精一杯考えます。
素敵な出会いを見つけられることを祈っています。以上です」
新米・中小企業診断士ユリの、"所信表明演説"に心を打たれ、
一部のオジサン経営者達には、つい感極まってハンカチを濡らす人も。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、ユリの話を聞いて、
"もしかしたら、あの就活っておかしかったのか?"
という気持ちが、僅かながら湧いてきつつある彼。
続いてマイクを渡されたのは、40代位と思しき、
今時なかなか珍しい、かなり主張強めなソバージュの女性だ。
「えー、就活生の皆様、初めまして。
私、社会保険労務士20年やってます、ナオミと申します」
挨拶だけで、気の強そうな人だということが、十二分に伝わってきた。
ナオミ「今日、ここに集まっている経営者の人達は、
皆さん、若い方々に来て欲しくて、来て欲しくて、
来て欲しくて、もう仕方ないという人達です。
彼らは全員、若い皆さんに内定を出す気満々ですが、
是非よく話を聞いて、経営者の人達の"本気度"を確かめましょう」
まるで、世の中が"売り手市場"かのような、強気な言葉を吐くナオミ。
ナオミ「それでね、今回面白いポイントがあります。
実際の職場なんて、話を聞いた位じゃ何も分かりません。
ですので、是非皆さん、各職場に足を運んで、確かめて下さい。
前日の午前中までに連絡を入れれば、全社、見学も体験もOKです」
初めて聞く斬新なシステムに、若者達から「おぉーっ」と声が上がる。
ナオミ「そして更に、ここに来ている事業者は全て、"副業・兼業OK"です。
午前中はA社、午後はB社とか、
月・火はC社、水・木・金はD社、とかね。
色々と、試してみて欲しいと思います!」
思わず呆気にとられた彼。
普通、一つの会社に"骨を埋めるつもりで"とか、そんなんじゃないのか。
ナオミ「どうせ一つの会社で、一人の人生、面倒見切れやしないんだから、
若者の皆さんも、臨機応変に色んな会社と繋がって、
たくさんの経営者や顧客から、感謝される存在になりましょっ」
何やらこの式典は、新しい時代に向かって、
新しい働き方を模索するイベントのようだ。
しかし、経営者の一人が頭をポリポリ掻きながら、
「しかしこれ、労務管理が複雑になるけど、大丈夫かなぁ~」とこぼした。
ナオミ「社長、大丈夫だって!
各事業者の方々の労務管理は、私もサポートするし、
今回の取り組みに、後輩の社労士の子達も参加して、
見てくれることになってます」
それを聞いて、「なら、安心かぁ~。よかった、よかった」という、
経営者達に対し、鋭い目を向けてナオミは言い放った。
ナオミ「ただし!
いくら、若い人達が熱心に働いてくれるからと言って、
そこに胡坐をかいて、ひどい労働環境で
酷使するような事業者を見つけたら、
…その時は、タダじゃ済まないわよぉ~っ!!」
ベテラン社労士ナオミの、蛇のような睨みに、
思わず恐れおののく経営者達。
ナオミ「若者の皆さん、私もあとで名刺をお配りするので、
何か気になることがあったら、いつでも連絡してくださいねっ。
よろしくお願いします!私からは、以上でーす!」
主催者側の女性3名が挨拶を終えると、
いよいよ会場は、本格的な名刺交換会と化した。
すると、彼の隣に3人の若者が座った。
男子「…こんにちは。就活生の方ですか?」
そう聞かれて、
「いや、俺ら、最初にマイク持ってたもんじゃ頭の友達」と答える男。
もちろん彼は、お気楽・能天気男のブルーハワイ兄貴だ。
その傍らには、さばみそ博士と、ハバネロ姉さんもいる。
兄貴「どうだい青年、就職氷河期ってヤツは?」
男子「そうですね…、なかなか厳しかったですけど…。
今日のイベントで、何か掴めたらと思います」
博士「こればっかりは、若い学生さん達の責任ではないですからねぇ」
姉さん「でも、オジサン世代も、皆必死だぜ?」
周囲を見ると、若者達に対して汗水垂らしながら、
一生懸命、名刺を配り歩いている経営者の人達の姿が。
彼の近くにも、一人の経営者が名刺を持ってやってきた。
「初めまして。私、千葉でヤギ牧場をやっとります!よろしゅう頼んます!」
彼も立ち上がって名刺を受け取ると、確かに、ヤギ牧場の社長とあった。
男子「こちらは、社員数は何名位なんですか?」
社長「それがお恥ずかしながら…、
私と、もう1人女の子と、2人でやっとるんですわ!」
男子「2人っ…!?」
世の中には、いろんな会社がある。
従業員数3桁以上の企業にしか応募しなかった彼は、
いかに自分が世間知らずであるかを、改めて思い知らされた。
社長「ちょっと遠いかもしれんけど、交通費は全額支給します!
自然の中でヤギと触れるのは、これはえぇもんですよ!」
男子「はぁ…」
明るい口調だが、今一つ響いていないことを瞬時に察知した社長。
社長「…あ、あとね!
私は、残念ながら、ヤギのことしか分からんです」
男子「へっ…?」
社長「最近、ウチの牧場で、若い人達がドローン体験なんかも始めてて…、
結構、それでお客さんも増えてきつつあるんやけどね。
…やっぱり、私には若者の気持ちっていうのが、
どうしても掴めへんのです!」
男子「そうですか…」
若者の気持ちは、出来れば頑張って分かってもらいたいと思う反面、
牧場で、ドローン体験をやっているという点は、少し興味深い。
社長「せやけど、若い人の就職活動の苦しみっていう点で言えばね、
…ウチで働いてくれてる、マリエちゃん。
彼女の右に出るものはおらんですわ!」
男子「そうなんですか?」
社長「彼女も氷河期世代で、200社受けてな。
何とか入れた企業がブラック企業で、2ヶ月でそこ辞めて。
その後、派遣社員になった思たら、即派遣切りに遭って…。
一時期は、引きこもりみたいな時もあったんやけど、
知り合いのツテで、ウチで働くようになってからはね、
もう、かれこれ5年近くやってくれてますわ」
男子「それは…、苦労されてきた方なんですね」
人生に躓いているのは、自分だけではないと、改めて知った彼。
社長「だから、もしですわ!
千葉も遠いし、ヤギも興味ない、っていう人もやね。
就活で辛かったこととか、この先不安なことがあるんやったら。
…私やなくて、是非、彼女に全部ぶつけてみて欲しい!
きっと、真摯に答えてくれる、思いますわ」
男子「社長ではなくて、ですか」
社長「…私には、正直分からんっ!!」
若者の前でも、あまりに自分を飾らない社長の姿に、
思わず笑ってしまった彼。
彼の就活史上初めて、心を動かされる経営者に出会った瞬間であった。
~エンディング 終わり~
その100円玉が、誰かの生きがいになります!