見出し画像

骨になれば同じ

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第3シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、メインキャラ4人のコーナーの4つ目、
「ブルーハワイ兄貴の『ソフト俺デマンド』」をお送りします。


<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。


※このコーナーのみ、兄貴以外の登場人物の、
 性別が反転したパラレルワールドの夢、という設定でお送りします。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」~



地下の撮影スタジオに、今日も今日とて下りてくる、ブルーハワイ監督。


「お疲れちゃんこ~」と声をかけると、
撮影スタッフ達が「お疲れ様でーす」と返してくれる。


監督の下、‌映像作品の撮影に携わるスタッフは、
いつもぼんやりしていて照れ屋さんの、もん太くん、
つい、ウィットに富んだことを言いたがる、さば美ちゃん、
気が強くて、常に生意気な態度の、ハバ夫くんの3名である。


監督「よし、プール行くか」

3人「プール!?」


なぜかスタジオに下りると、急に行きたい場所を言いたがる監督。


ハバ夫「泳ぎにでも行くんスか?」

監督「何言ってんだ、撮影に決まってるだろ」

もん太「プールで撮影…?」


もん太くんの頭の中で、ビキニのお姉さん達が、水しぶきの中で、
その溢れんばかりのバディを躍動させている映像が、鮮明に映し出された。


さば美「あら、もん太さんたら、また良からぬことを想像したんでしょう」

もん太「あっ、いやっ、別に…、何も」

ハバ夫「もん太の妄想は、いつも陳腐過ぎて、

    商品化に耐えないんだよなぁ」

もん太「…陳腐とか言うなぁっ!!」


ちょっとした妄想すら値付けされたことに対し、
思わず、頭のもんじゃ焼きから抗議の湯気を上げる、もん太くん。


監督「まぁ、君達はまだまだ青いよね」

ハバ夫「何ッスか、青いって」

監督「水着持ってプール行けば、

   すぐ夏の思い出が出来るとか思ってんだろ」

もん「そりゃ、プールってそういう場所じゃないですか」

監督「モンダミンは、本当真っ青だな」

もん「もん太ですっ!」

さば美「プールに行けば、照り付ける日差しに肌を焦がし、

    ひと夏の恋に身を焦がす、まさにそんな場所ですわよ」

ハバ夫「表現が、昭和かよ」

監督「熱き血潮の冷えぬ間に、なんつってな」

ハバ夫「大正かよ」


そんな、時代錯誤な会話を繰り返す彼らであったが、
何やら謎を残しながら、撮影現場への移動準備を始める一同。










「何これ…」


苔むしたプールの前で立ち尽くす、若い女性教師と少年。



それは、ある夏の日のことだった。



おそらく大分長い間、誰も使ってこなかったであろう小さなプールには、
びっしりと敷き詰められた苔の絨毯に、新緑の落葉が散りばめられていた。










事の始まりは、半年前の4月。


田舎の中学校に赴任した、24歳の新米教諭・飯島智恵は、
短大卒業後、教員採用試験に4度目の挑戦でようやく合格を果たしたが、
割り当てられたクラスは、まさかの特別支援学級。


受け持つ生徒は、瀬田孝昌という中3男子、たった1名だった。


幼少期から、話すのが苦手で、集団行動が出来なかった瀬田は、
小学校時代から、クラスで度重なるいじめを受け続けたことで、
人に怯えてしまうようになり、親や教師とも会話が出来なくなっていった。


中学に進学後も、1年の途中から不登校となったが、
親と教師間の取り計らいの末、結果的に、
同級生のいない特別支援学級に通うこととなったそうだ。


その際には、男性教諭が担任を務めたものの、3月末を以って退任となり、
その席に、この春から、新米教諭の飯島が割り振られたことになる。





着任初日。


飯島「…おはようございまーす」


おそるおそる、特別支援学級の扉を開けた飯島。


教壇の真ん前の席には、下を向いたままの小柄な少年が一人鎮座していた。


形式的に、とりあえず教壇の上に立ってみたものの、
彼を見下ろす格好となり、瀬田は全くこちらを向いてこない。


飯島「初めまして。

   今日から、瀬田くんの担任を務めます、飯島と言います」


とりあえずの就任挨拶も、全く彼の耳に伝わっている様子が無い。


特に、視覚・聴覚障害があるとは聞いていない為、
単純に、教壇の上に立つ人間の方を向くことを拒んでいるのだろう。


内心「参ったな…」と思いつつ、頭を掻いてしまう飯島。


ふとその時、幼い時分の出来事が脳裏をよぎった。





小学5年の頃、成長の過程で胸とお尻が急激に大きくなり、
体重も増え、顔もパンパンに膨らんでいた飯島は、
クラスの男子から、"牛"や"豚"など、心無い呼ばれ方をされた。


ある日も、お調子者の男子から「お前はホルスタイン牛だ」などと、
覚えたての言葉でからかわれ、飯島は激怒した。


「お前ん家は両親も離婚して、牛乳も買えない位、貧乏家庭のくせに!」
といった、聞くに堪えないような罵詈雑言を浴びせ返した飯島に対し、
「だったら牛乳も買えない俺に、お前のミルク飲ませろよ」と応じた男子。


たまたま通り過ぎた女性教諭が、それを聞いて「コラッ!」と一喝すると、
男子はヘラヘラ笑い、その場から走り去っていった。


そして、同様に飯島に対しても、「喧嘩はいけません」と叱ると、
飯島は頭を叩かれるかと思いきや、優しく抱きしめられ、頭を撫でられた。


その瞬間、さっきまで頭に血が上る程、
ふつふつと煮えたぎっていた怒りが消え、
何だか、とても穏やかな気持ちにさせられたのを、急に思い出した飯島。


ちなみに当時、その女性教諭の胸の大きさは、
成長期で膨らみだした頃の自分のそれとは、到底比にならない程だった為、
色んな意味において、「大人って凄い」と思い知らされた場面でもあった。





教壇を下り、瀬田の席の隣まで来ると、同じ目線の高さまで屈んだ飯島。


飯島「瀬田くん」


屍のように、全く反応を見せない瀬田。


飯島「もし、抱え込んでいることや一人で悩んでいることがあったら、

   いつでも話して欲しい」


一応、それらしいことを言ってみたが、特に反応は無かった。


飯島「けど、どうしても話せそうになかったら、無理しなくてもいい」


そう言うと、飯島は来ていたジャージのファスナーを下ろした。


先生と生徒、という確固たる上下関係が、
彼は非常に苦手だと聞いていた為、飯島は、
ジャージの下にあえて、生徒と同じ体育着を着て行くことにした。


飯島「何も言わずに、ただ、



   …先生の胸に、飛び込んできなさい」


一昔前の熱血教師物のドラマのようなセリフを吐いて、
自分で少し恥ずかしくなった飯島。


しかし、意外にもこちらを向いて反応してきた瀬田。


最初は目を見開いて驚いた様子だったが、
飯島が小さな声で「おいで」と囁くと、恐る恐るその顔を近づけてきた。


そして、かつての女性教諭が自分にしてくれたように、
瀬田の、まだ小さくて幼い顔を胸に抱き、彼の髪を優しく撫でた。


固く閉ざされた扉が、目の前で開いたような気がした。


触れた瞬間は、まだ少し冷たかった彼の額や頬が、
徐々に温もりを帯びてくると、
何だか自分は認められたような気がした飯島は、
つい勢いそのままに、彼の耳元で
「私は君の、クラスメイトだと思っていいよ」と伝えた。


つまらない綺麗事を言い並べるより、抱き締める方が伝わる。


新任教諭が着任初日にして、何かを掴んだような充実感を感じていると、
彼女の胸元が、何だかじっとりと湿っぽくなった。


どうしたのかと見てみると、何と、瀬田は鼻水を流しながら泣いていた。


一瞬、驚いた飯島だったが、意外にも心は冷静だった。


「大丈夫!?泣かないで!」などという言葉が、何となく頭に浮かぶも、
それも何だか嘘寒く感じ、そのまま何も言わず、彼を抱き締め続けた飯島。


クラスに馴染めず、教師が苦手で、
毎日いじめられ、親とも会話が出来なかったという彼。


何も言えない中で、本当は誰かに甘えたいという気持ちが、
心の底からあったのだろう。


結局、彼を抱き締め、体操着がベチョベチョに濡らされたのみに終わった、着任初日であった。










しばらく、そんな状態に近い日が続いたものの、
不登校には陥らず、毎日真面目に登校してくる彼の姿に、
何とも言えない感動を覚えつつ、半月が経過した。


毎朝、顔を合わせたら、必ず抱き締めることが日課となっていたが、
彼が泣き出す時間は、徐々に短くなっていった。


なかなか、話すまでには至らなかったが、首を縦横に振ったり、
拙い文字を書いたりして、最小限のコミュニケーションは、
少しずつ取れるようになってきた瀬田。


元々、中学理科が専門の飯島は、いつか教員になったら、
理科の世界がいかに面白いかを、生徒に伝えたいと意気込んでいた。


授業という授業が出来ていたとは、到底言えない状態だったが、
日を追うごとに段々と、瀬田の生態が分かってきた飯島。


ある日、理科の先輩教師に頼み込んで、
白衣と教材を理科準備室から借りると、
まるで偉い教授にでもなった気分で、白衣姿に、
普段かけないメガネをかけて教室へと入った。


飯島「瀬田くん、おはよう。


   今日は、素晴らしい理科の世界をお見せしよう」


すると、急にまた目を背けて、縮こまってしまう瀬田。


自分と同じ体操着の、"クラスメイト"と思っていた飯島が、
急に、どこぞの先生かのように白衣を着てきた為、
自分より上の立場の、知らない他人が来たと感じて怯えてしまったようだ。


飯島「あ、ごめん、びっくりしたね。ごめんね」


慌ててメガネを外し、白衣のボタンを全て取りながら席の隣まで行くと、
白衣の中の、いつも見ていた体操着姿にホッとしたのか、
乳幼児のようなあどけない顔で、自分から抱き着いてきた瀬田。


本当は、天体模型やプロジェクターを使って、いかに宇宙は未知に溢れ、
神秘的であるかという授業をやるはずだったのだが、
飯島の大きな胸の中で、瀬田は果てしなく広い宇宙を感じていた。










こんな、授業と言えるようなことをまともにやれていない中、
毎日、瀬田が登校していることに、学校側も安心したのか、
飯島の日頃の授業に対して、特に注視する様子もなかった。


形はどうあれ、教室で瀬田と2人の時間を成立できている飯島は、
夏のある日、教室に籠りっきりもアレだと思い、
気分転換にプールの授業を提案した。


「プールって、…知ってる?」と聞いたら、コクリと頷く瀬田。


「今度、プールで泳いでみようか?」と聞くと、意外にもコクリと頷く彼。


こうして教室で席に座って話を聞いているのは、
彼にとっても退屈だったのかもしれない。





通常、この中学が体育の授業で水泳を教える際には、
近場にある町民プールを使用しているが、
何でも、校舎から少し歩いた先に、普段使っていないプールがあるそうだ。


プールの広さが、クラス全員が泳ぐには狭いということで、
現状使われてはいないが、一応、中学が所有しているというプール。


以前、体育教師にその件を聞いた所、使いたいときに言ってくれれば、
プールの鍵と、消毒用の塩素剤を貸してくれるとのことだった。





「明日、プールの授業やるから、水着持ってきてね」と昨日伝えた所、
今日、水着一式をしっかり持って、登校してきた瀬田。


夏らしく、白のワンピースに麦わら帽子姿の飯島が教室に現れると、
瀬田は、何だか動揺しているようだったが、拒絶ではないのが分かった。


校舎から歩いて10分程の所に、中学所有のプールは姿を現した。




飯島「何これ…」




プールは、びっしりと苔の絨毯に覆われており、飯島は思わず驚愕。




しかし、ここまで来た手前、おめおめと引き下がる訳にはいかない。


瀬田の肩に手を置き、
「まずは、…プール掃除だね!」と言うと、
やや戸惑ったような顔を見せた瀬田。


鍵を開け、更衣室で着替えを済ませると、
藻付いたプールの前で水着姿の2人。


瀬田は、白くて細い手足をしていたが、
飯島の競泳水着姿を前に、つい頬を赤くしているようだ。


用具入れから取り出したブラシと、持参したサンダルを瀬田に渡すと、
2人で黙々と緑のプールを擦り続けた。





慣れない作業で、なかなか時間がかかったものの、
水分を取りつつ、日陰でちょいちょい休みつつ、
何とか綺麗になったプールに水を溜め、
体育教師から借りた塩素剤を、必要量だけ投入。


飯島「…あー、疲れたっ!!」


瀬田と2人で、水が満杯になったプールを見ながら、日陰で少し休憩。


その後は、何となくうろ覚えの準備運動を一緒にし、
ほとんど泳げないという瀬田に、水に慣れてもらう為の授業となった。


瀬田の胸が浸かる程度の水深の為、溺れるという心配は少なかったが、
最終的には、両手を繋いで「ブクブク…パー」の練習をするに留まった。


会話もろくにできない生徒を相手に、
ここまでの授業を出来るまでになった自分に、
何とも言えない満足感に浸りながら、2人でシャワーを浴びた。


初めてのプール体験を終え、タオルで体を拭きながら、
日陰で2人、並んで座ってボーッとしていた。


飯島「泳げるようになって、良かったね」


そう声をかけると、頷く瀬田も、何だか充実した顔をしている。


飯島は、体を拭いていたタオルを体に巻くと、
水着の肩紐を下ろし、タオルの中で水着を脱ぎ、
足元から抜いた水着を絞ると、結構な水滴が落ちた。


その姿を見つめながら、ゴクリと唾を飲んだ瀬田。



飯島「…何、見てるの?」



そう飯島が言うと、途端に顔を紅潮させて、目を逸らす瀬田。


こんなに泳げないにも関わらず、プール授業に乗り気だった彼は、
実は、意外とむっつりスケベなのかもしれない。


飯島がタオルの隙間から脚を覗かせ、「見たい?」と聞くと、
またも、ゴクリと唾を飲み、コクリと頷く瀬田。


飯島「瀬田くんが、大人になって名刺交換をするときはね、




   まず、自分から名刺を差し出さないといけないんだよ」


   
瀬田の国語能力を測ろうと、あえて少し難しい表現を使った飯島だったが、
むっつり少年の瀬田は、すぐにその真意を理解すると、
恥ずかしそうに、自分の水着をゆっくりと下ろし、
なぜか、飯島と同様にその水着を絞り、水滴を落とした。



"全然、コミュニケーションできるじゃん"



そう思って安心した飯島は、瀬田の後ろに回り、
タオルを広げると、二人羽織のような形で彼を抱き締めた。



飯島「…初めての感触はどう?」



目を見開いて、鼻息を荒くする瀬田に頬擦りすると、
うっすら生えた顎髭がジョリジョリとした感触だった。


田舎のプールは、周りも静かで誰も見ていない。


こんなに開放的な、2人だけの世界があるだろうかと、飯島は思った。



飯島「女と男、先生と生徒って、世の中、人を区別したがるけどさ。


  死んで、焼かれて、骨になったら、私も瀬田くんも大して変わらない。


  おんなじ人間なんだよ。




  焦って、一人前の大人になろうとしなくても、…大丈夫だからね」



肌と肌で触れ合った記念に、普段、思っていることを伝えた飯島。


その言葉に頷く瀬田の表情は、少しばかり笑っていた。



飯島「あれ、でも、




   …ここだけは、一人前だね」

瀬田「あっ」


白くて細い、小柄な肢体とは裏腹に、
2000年代半ばのドバイの都市を思わせるような、
急成長を遂げている体の一部に触れると、
やや内股になりながら、初めて声を発した瀬田。


彼の満更でもない表情を見つめつつ、
「やっぱり、若いと角度が凄いなぁ」と言いながら触っていると、
背後からガラガラと物音が聞こえてきて、ビクッとなった飯島。


「飯島先生っ!」


女教師が、男子生徒と二人羽織状態の所に、
黄土色のスーツに、ハゲ面メガネの、"教務主任風"の監督が現れた。


監督「あなたは一体、プールの授業とかこつけて、

   生徒に対して、何ていう行為をしているんですか!?」

飯島「あっ、ち、違うんです…、これは…」

監督「このことは、校長や教育委員会へ直ちに報告します」

飯島「そっ、それだけはご勘弁をっ!」

監督「どうしましょうかねぇ。

   もし、この件を見逃して欲しいと言うのなら、



   …私にも、"ブクブク、パー"のレッスンを、マンツーマンで…」

ハバ夫「一人で泳いでろ、このエロ河童っ!!」



令和の"マス大山"こと、ハバ夫くんの飛び蹴り一閃で、
青春のプールへと、真っ逆さまに墜落する監督。










早朝。




ベッドから転がり落ちた兄貴の顔を、
倒れたコップの水がびしゃびしゃに濡らす。


兄貴「うわっ、…マジか」


着ていたTシャツで、濡れた顔を拭き取り、
同じく濡れた床を、履いていた靴下で拭いた兄貴。


窓から、朝焼けの光が差し込んでくる。





兄貴「…何が、"ブクブク、パー"だよ」





我ながら見た夢の、あまりの下らなさに苦笑しつつ、
Tシャツと靴下を脱いで、洗濯機に放り込むと、
その足で、シャワールームへと向かう兄貴であった。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」 終わり~






その100円玉が、誰かの生きがいになります!