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「LGBTQ+の人権は軽んじられている」当事者が語る法律とパートナーシップ制度の問題点。非当事者は日常で何ができるのか?

LGBTQ+に対する法整備が不十分とされる日本社会において、同性カップルを婚姻に相当する関係と認める「パートナーシップ制度」が全国的に広まっている。パートナーシップ制度ができた背景、法律の問題とは?個人がLGBTQ+当事者のために何ができるのか?

(写真:赤羽馬鹿祭り(2018年)。本人提供)                                                               

OECD諸国で同性愛に対する受容度を比較した時、日本の順位は36ヶ国中25位にランクインする。またLGBTに関する法整備では35ヶ国中、34位だ。日本の法律ではLGBTQ+への権利を保障していなく、ひいてはハラスメントや差別からLGBTQ+の人たちを守れる社会の在り方からはほど遠い。

その中で、2015年に各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め、証明書を発行する制度として同性パートナーシップ制度(以下:パートナーシップ制度)が東京・渋谷区、世田谷区でできた。2021年10月の時点で、パートナーシップ制度は全国130の自治体で施行されている(日本全国の自治体人口の約4割に値する)

パートナーシップ制度が施行されるようになった経緯、現在の日本における法律の問題、当事者ではない個人ができることを、Raninbow Tokyo北区の代表・時枝穂さん(以下:時枝さん)に伺った。時枝さんは、自身がトランスジェンダーであり、全国の自治体におけるパートナーシップ制度の普及や、結婚の平等(同性婚の法制化)の実現に向けたロビイング活動等を積極的に行っている。

(聞き手:袁盧林コン、河辺泰知)

(写真:時枝穂さん。本人提供)                                                                                      

パートナーシップ制度成立は、当事者たちの地道な活動から

ーー(同性)パートナーシップ制度が日本でできた経緯を教えて下さい。

時枝さん:パートナーシップ制度が出来た経緯として、2000年代頃から北欧や欧米で同性婚に関する動きが広がっていた背景があります。同性カップルの法的保障を求める動きが主に先進国で広がり始め、2001年にオランダで世界初の同性婚が実現しました

一方、日本では同性カップルを保障する制度はなかったものの、そのような当事者がいるという認識は多少なりとも存在していたと思います。事実、1990年には「府中青年の家」裁判 (同性愛者が合宿利用中に受けた差別、嫌がらせに対して対処するように要請)がありました。この裁判は日本で初めて、同性愛者らが自分たちの人権を勝ち取った裁判でした。

日本で初めてパートナーシップ制度ができたのは東京都の渋谷区と世田谷区です。経緯は割愛しますが、きっかけの一つとして、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんと現在の渋谷区長・長谷部健さんの出会いがありました。トランスジェンダーの抱える苦労や、同性カップルはパートナーがいても結婚できず、財産をパートナーに贈与できない、病院での面会ができない、など様々な問題に直面していることを訴えました。「そのような問題が少しでも解消できれば...」ということで動いてくれたのが長谷部さんや、トランスジェンダー当事者で世田谷区議の上川あやさんでした。

自分の身近にLGBTQ+当事者や、同性カップルの当事者の声が聞こえてくると、現状の課題に対して、自分は何ができるかと考えたり、市民の声をいかに区政に反映させていくのかと考えるのは議員の仕事だと思います。「議員として、自治体として何かできないか」と考えて実現できたのが(同性)パートナーシップ制度です。

(写真:花川北区長面会(2020年)。本人提供)                                                           

――日本は欧米・北欧などの西洋諸国などに比べると性的マイノリティの人権を制度として保障するという点に置いて遅れをとっていると思うのですが、これはなぜだと思いますか?

時枝さん:まず、日本と欧米・北欧では「同性愛者」への理解に対する前提が異なると考えられます。欧米・北欧などの西洋諸国ではキリスト教の考えが根強くあり、同性愛者を迫害、または宗教として認めない場合や、同性愛者の性行為を禁止する法律がありました。また、ナチス・ドイツでは同性愛者を理由に迫害、殺害されてきた過去があります。そのような背景から「LGBTQ+の人たちの人権を守って行こう」という動きがありました。

日本はどちらかと言えば、そのような(同性愛者を差別する)制度や法律がないところから急にパートナーシップ制度ができたので、「LGBTQ+の人たちが急に現れ出した」と思っている人もいると思います。でも、実際にはLGBTQ+の人は以前から社会で生活していて、それが近年になり可視化されるようになったということだと思います。そのほかにも世界ではさまざまな国々で、宗教上の観点などから同性愛が禁止されています。

(写真:イベント・セミナー(2020年)。本人提供)                                                    

現在の法律は根本的な解決にならない

ーー 現在の日本の法律がLGBTQ+の方々に対して抱える課題は何でしょうか?

時枝さん:日本の法律における課題点は沢山ありますが、ここでは三つお話しします。

一つ目は、LGBTQ+を包括的に守る法律がないことです。例えば、LGBTQ+、またはSOGIを理由に不当な差別を受けた時にそれを禁止する法律が日本ではまだありません。パワハラ防止法が一部改正されて、「アウティングの禁止」など、少しずつ社会は変わってきていますが、あくまで防止義務であり、努力義務的な感じはあります。そういうところでまだまだLGBTQ+の人権が軽んじられていると感じます。

二つ目が、同性婚です。先進国を中心に同性カップルの法的保障や、同性カップルが婚姻できる法律がありますが、日本にはまだありません。

三つ目は戸籍上の性別を変更するための法律です。日本では性別変更する際に手術の要件を課しているのが非常に問題になっています。日本ではこの三つの法整備が現状課題となっています。

一方で、(同性)パートナーシップ制度にも問題はあります。(パートナーシップ制度などの)要綱や、条例は自治体によって差があり、パートナーシップ制度は個々の自治体が自主的にやっているという認識です。実際には、LGBTQ+への理解が広がったり、民間企業での取り組みや福利厚生などサービスに、パートナーシップ制度を活用した、同性カップルへの対応が含まれるなど、多少なりとも効果があります。

しかしながら、法的に婚姻はできませんし、権利保障もないです。パートナーシップ制度だけでは、いつまで経っても家族扱いされず、国が差別の要因を作っている構造になっています。なので、国で法律として作られることで一律的に権利が保障されることが重要だと思います。

(写真:赤羽馬鹿祭り(2018年)。本人提供)                                                             

違和感と「自分自身」を大切に。

ーーLGBTQ+の方々の権利が守られ状況が改善されるために、当事者ではない人たちが日常においてできることはありますか?

時枝さん:当事者の方が身近にいなかったり、学校で性的マイノリティに関する授業を受けたりなどの機会がなければ関心を持つ人はおそらく少ないです。「はじめから“LGBTQ+が直面する問題”に関心を持つ人はいない」と考えることもできます。でも、その中で関心を持った人が、何ができるかというところだと思います。

まず、自分の住んでいる自治体へ意見を届ける陳情・請願などの、物申せる制度があることを私は知らなかったです。私の場合は身近にそういったことを教えてくれる議員さんがいました。だから何か社会を変えていきたいと思った時は、議員さんや行政に関わっている人とご縁があると、そういうことを学べるチャンスがあります。社会の情勢や、政治にちょっと関心を持つのが大事だということです。

今、若者でも(LGBTQ+やジェンダーなどを巡る)政治に関心を持っている人は増えてきていると思います。特に海外への留学経験がある人は「日本はなんて遅れているんだ」と意識が高いです。そういう感覚を大事にしてほしいです。自分が矛盾や違和感を感じた時や、社会のルールに「あれ?」と感じる時はみんなあります。「困っている人たちがずっと困ったままなのは何かおかしいな」など。そういうことに敏感になれるような社会の風土が必要だと思います。

そこ(自分が矛盾や違和感を感じた時や、社会のルール)を紐解いていくと、日本人の幸福度がすごく低かったり、自殺率が高かったりする事実とも繋がっていきます。色々な問題が複合的に重なっているので、何か一つを解決したらみんなハッピーになるわけではありません。だから広い視野で物事をさまざまな視点で多角的に捉えていくことが大事です。

誰しもが、生活の中で、親や家族との関係、好きなことがわからない、仕事の悩みや、人間関係がうまくいってない、将来の不安などのさまざまな問題を抱えながら生きています。誰もが社会課題に対して、アクションができるというわけではありません。

「できる人は社会貢献して、出来ない人は行動しない」という二元論を言っているわけでなく、自己犠牲にならないようにすることも大切です。可哀想な人のために頑張らなきゃいけないという使命感を持っている人もいますが、自分が倒れると元も子もないです。私自身もそういうところを大事にして活動しています。マイノリティの人を「可哀想な」人たちという視点でフォーカスしすぎないことも大事だと思います。

また、話が少しずれてしまうかもしれませんが、まずは自分自身を大切にすることも大事だと感じています。自分の心に焦点を当て、日々の暮らしの中で、好きなことを楽しんだり、ワクワクしたり、小さな幸せを見つけたりすることも大事だと思っています。一人ひとりが自分自身の気持ちや感情を大切にしている良い状態であることが、他者への思いやりにつながり、結果的により良い社会を創っていけると思っています。

(写真キャプション:赤羽新聞。本人提供)                                                             
(写真キャプション:大学講演(2018年)。本人提供)                                                                      

執筆者:河辺泰知/Taichi Kawabe、原野百々恵/Momoe Harano
編集者:袁盧林コン/Lulinkun Yuan、宮川周平/Shuhei Miyagawa
インタビューを受けてくれた方:時枝穂さん。自身がトランスジェンダーであり、LGBTQ+に関する活動を主に行っている。自治体に対する政策提言やパートナーシップ制度を自治体に広める運動を行っている。Rainbow Tokyo 北区の代表を務める一方、Marriage for All Japanやプライドハウス東京の運営にも携わる。



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