つながれ。
ふと青空を見上げると、白い雲を照らす太陽光の幻想的な美しさに息を飲むことがある。
そんなとき、この世界は作り物なのではないかと思ってしまう。
今自分が立っているのは小さな箱庭の中で、神のような存在が日々空を塗り替えている、そんな気がしてくるのだ。
雲の隙間から太陽の光が筋となって差してくる、その幻想的な光景を、人は「天使の梯子」と呼ぶ。
学術的には「薄明光線」と呼ばれる現象らしいけど、「天使の梯子」という呼び方の方がずっといい、だってロマンチックだから。
そんな話をしてくれたあの人は、今でも元気だろうか。
あの人とは、一度きりの出逢いと別れを経ただけの顔見知り以下の間柄。
名前も知らないし、分かるのは歳上だったということだけだけど、それも兄と同じ制服を着ていたからそう思っただけだ。
その一度きりの出逢いは、確か私が小学校5年生の時だっただろうか。
兄が写真展で入賞し、母と授賞式を見に行ったときのことだ。
静かにしなくてはいけない堅苦しい場、見知らぬ偉い大人のつまらない話。
いくら兄が入賞しているとはいえ、授賞式の場は小学生の私にとっては大変退屈だったのだろう。
私は母から離れ、一人で式場外の受賞作品の展示を見ていた。
花、動物、どこかの風景、そして誰かの笑顔。
展示場に飾られた写真たちは、誰かの目線や人生の大切な一瞬を切り抜いたもので、どれもまるで宝石のようにキラキラして見えた。
何かをこんなにも美しく残せる写真というものに、強い憧れを感じたのを覚えている。
そんな写真たちの中に、無性に心惹かれる一枚あった。
雲から光が漏れる瞬間を切り取ったそれは、まるで天国へまで届きそうな美しさで、思わず目が離せくなった。
そして、その写真を見つめる私に「天使の梯子」という呼び名を教えてくれたのがあの人だった。
私は明日で17歳になる。あの時の兄と同じ歳だ。
写真展の授賞式の帰り道、私は賞状を手にふと空を見上げると、雲の間から光が差しているのが目に入った。
どうか、あの人へ、
受賞作品
『天使の梯子』
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
余談ですが、「天使の梯子」は「ヤコブの梯子」という別称もあるのだとか。
由来は、旧約聖書創世記28章12節にある記述。
ヤコブが夢で、雲の切れ間から差す光のような梯子が地上に伸び、そこを天使が上り下りする光景を見たというお話。
これがキリスト教徒の間で広まり、やがて「薄明光線」をこのように呼ぶようになったそうです。
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