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だから甘えてよ、できる限りを尽くして甘やかすから。


体調を崩してしまい、とても公共交通機関を使ってひとりで遠出したりおでかけしたりできるような身体ではなかったとき、楽しみにしていた予定をひとつ断ることになったことがあった。

入院していたとか手術をしただとか治療中だとか、そういうことを言うと余計な心配をかけてしまうだろうから詳しいことは言わずに体調を崩しているとだけ簡単に話した。

会う予定だった人たちは、みんなわりとバラバラなところに住んでいて予定を合わせて、やっとみんなで会えるはずの人たちだった。それだけにショックだったし悔しかった。

当日会おうと予定していた場所はみんなの中間地点となるところだったけれど、そこまで行けるだけの体力も自信も許可も私にはなかった。

はじめ断りの連絡を入れたときは「日にちずらそうよ」とか「場所変えようか?」とか言ってくれたけれどそんなこと私だけの都合でできるわけがない。「大丈夫だよ」となんとか説得をした。

「次はぜっっったいに行く!」と、グループ通話で元気に意気込んで誓った。元気になりなよという自分に対するプレッシャーをかける意味でもあった気がする。

それまでグループLINEで打ち合わされていたけれど、私に気を遣って「新しいグループ作って話そう、通知うるさくしちゃうし」と1人の子が提案してくれていた。

正直ありがたかった。

でもグループLINEで交わされるやりとりを見ながらみんなの楽しそうな様子を想像して元気をもらうつもりでもいたから、ちょっと寂しくもあった。

治療をつづけて少しずつ回復はしては駄目になってを繰り返し、その度に「やっぱり行けそうかも」「やっぱり無理か」と気持ちも波を打っていた。

諦めきれなかったのだと思う。それほど大好きでかなり久しぶりだったし、ものすごく会いたい人たちだった。

いい加減諦めよう、とみんなに会えないことを受け入れてからは、吹っ切れたような気もしたし、活力にしてきた大きな楽しみがなくなって少し放心状態でもあった。

仕方ないと言い聞かせては、仕方ないってなんだよ。と悔しくなって泣いたりもしたし、何も今こうならなくてもいいじゃんか。と誰に対してもぶつけられない怒りややるせなさを日記に書き殴ったりもした。

そんな日々のなかで、ある夜、会うはずだったグループのうちのひとりから突然電話がかかってきた。

「夜遅くにごめんね、起きてた?」と言われ「ぜんぜん起きてたよ」と返すと、食い気味に「あのさ、(私)が住んでるところのすぐ近くまで行けば、会えるの?」と言われた。私は何を言っているのかすぐには理解できず驚いて言葉に詰まった。

「え。…え?」と私が戸惑っていると「体調悪いしか聞いてないから、詳しいことはわからないし無理に聞くつもりもないんだけど、体調が悪くて会えないってことは、もしかして移動とかが難しいのかなって話してて」

「なら、みんなでそっちに行けば会えるんじゃ?ってなって」と言い、「会いに行って会えるなら、全然会いに行くよむしろ行かせてよ」と友人の明るい声が真っ直ぐ私の耳に届いた。

私が泣くのを堪えて黙っていると、友人が焦ったのか少し早口でまた話し出し、「(私)だってすごく楽しみにしてたし、会いたくなくなったってことは絶対ないのはわかるし、だからなんか、理由あるんだろうなって。そういうとき甘えないから」

「だから、もうこっちからちょっと強引にいってやろうよって話してたの」と照れた声で笑っていた。

堪えきれず私は「なんなんだよ〜〜」と笑いながら泣き出してしまった。

こんなことを想われて泣かずにいられる人がいるなら相当理性的な人間だなと思う。

「(私)っていつも段取りとかしてくれるでしょ、みんなに声をかけてくれるでしょ。なんでもしてくれるからみんなそれに乗っかってるわけじゃないんだよ、(私)が誘うからみんな来るんだよ。

ダサい話だけどたぶん私が同じことしてもこんなに集まんないもん。行こうかなって思わせてくれる人が居ないんじゃやっぱり寂しいし、つまんないよ。」

「それでいて気を遣うから本当のことは多分言ってくれないし、でもそれでも全然いいけど」「でも」

「だからたまには甘えてよ、できる限りを尽くして甘やかすから」

と言ってくれた。言葉を必死に選ぼうとしてくれたのだろうけど、うまい言葉が出ずもういいやとなりながら、友人は友人らしさを詰め込んだ曲線を描くこともない真っ直ぐに刺さる言葉を伝えてくれた。

甘えてよ、できる限りを尽くして甘やかすから。という言葉がずっと反響していて、大粒の涙が目から落ちた。真剣なことを言ってくれているけれど、友人の明るさが深刻な雰囲気にはさせず、それが心地良くてなおさら泣けてきた。

「なんか…、(私)がいつも言ってくれるようなこと!真似して言っちゃったじゃん!私が言うと頼りないけど!」と友人が大声で笑うから私もつられて「なにそれ」と大声で笑えてきた。

私はひと呼吸置いて「会いにきてほしい、近くまで来てくれたら会える」「みんなに会いたい、すごく図々しいお願いだけど!」と言った。

友人は「ほらね〜〜〜〜!!強引にいく作戦成功した!!」とまた大声を出し、「会いに行って会えるなら、そんなの行くに決まってるじゃん」と言ってくれた。

その後、ほかの友人からも電話やLINEで連絡をもらった。

みんなに会えるのは嬉しかったし、そんなことを想ってくれていたこともほんとうに嬉しかった。でも当初会う予定だった場所の計画もあったしみんな楽しみにしていたのに、場所を変えていいのかという不安はあった。

「場所変えちゃっていろいろ楽しみにしてたのにいいの?ほんとうに大丈夫?」とグループLINEで聞くと

「みんなで集まれることの方が重要!」と電話をしてきた子から即返信が返ってきて、その後で「(私)がいることの方が重要!」と続いて違う子が返してくれた。その後につも続いて同じような言葉が送られてきた。

みんなが来てくれるということが決まってからはじめていく定期健診で、看護師さんに「あらら!なんかご機嫌?」と言われてしまうくらい、周囲から見たらルンルンしていたらしい。私は子供か。

*****

結構前の話だけれど、みんなと会ったその日のことまで書いているととても書ききれないし、その日のことは私の中で大事にしまってあるので、noteには詳しくは書かない。言うまでもなく最高の日だった。心の底から楽しい時間だった。

私はお酒は飲めなかったけれど、アルコールが入っていなくてもみんなを見ていれば十分酔えたし、不思議と身体も調子が良かった。

心の健康は当たり前として、身体のためにも笑うって大事なんだなと思ったし、立派なモチベーションなんてものはないけど、楽しみがあると私はやっぱり頑張れるらしい。

ずっと友達でいようねって大人になればなるほど口に出して言うことが難しくなって、照れ臭くなるけど、やっぱりみんなと友達でいると思うんだよ。「ずっと友達でいようね」「変わらない関係でいたいね」そうやって言葉にしたくなっちゃうんだよね。

恋人といる時間と友人といる時間は、私のなかでは違う充実度があって、それも特に、女友達でしか埋められないものがある。

男女で仲良い友人たちと合うのももちろん大好きだけど女友達だけで集まったときにしかないあの雰囲気や空気感も私は大好き。

異性の友人も同じように大切だけれど、どうしたって境界線はあって。

一緒に温泉に入って仕事の話や恋愛の話をしたり、コスメや洋服を見て同じ感度でワクワクしたり、失恋した時にただ笑い飛ばしてくれたり一緒に泣いてくれたり、そういうのってやっぱり女友達としかできないし、そういう時に頼っちゃうのはあの子たちなんだよなって。

出会った時も思ったけれど、数年経過した今でも何度も思うよ。私はあなたたちと友達になれて、ほんとうに良かった。出会えてよかった。


だから、私からも言わせてね。


いつでも甘えてよ。できる限りを尽くして甘やかすから。





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