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さよならから一番遠い人


高校で出会った友人のなかでも、一番一緒にいた時間や共有した秘密や思い出が多い友人がお母さんになった。

ほんとうはもっと早くに会うはずだったのだけど、私が体調を崩してしまい、会うのが予定よりも遅くなった。

安定期に入ってから連絡をくれた彼女は「安定期に入るまでは起き上がれないほど辛かったよ〜〜〜いやあほんと、しんどかった」と言っていた。「お母さんになるのかあ」と言うと、「うん、ようやく」とお腹を撫でて嬉しそうに笑っていた。

彼女の大きなお腹に触れたとき、ちょっとだけ泣いてしまった。



彼女と私の話しを、少しだけしようと思う。



高校を卒業した後も、大学、社会人の途中までは都心に住んでいたのでかなり頻繁に会っていたのだけど、今はお互いに引っ越して住んでいるところは近くない。けれど今でも半年に1回くらいは会っている。

久しぶりに会っても久しぶりに会った感じがしなくて、高校時代、朝のホームルーム前に「おはよ」と言葉を交わしていたときと同じように顔を合わせる。

彼女とは高校3年間、ずっと同じクラスだった。

最初の頃から仲間内で仲良くはあったけれど、2人の仲が急激に深まったのは高校2年になりたてくらいだった。

隣の席になってから話す頻度も増えて「なんだこの子めちゃくちゃ楽しい」と思った。ほんとうに楽しい人だった。確信した、長い付き合いになると。

彼女は高校生の頃から「結婚したいというか、私は子供がほしい。お母さんになりたいんだよね」とよく言っていた。彼女の天真爛漫で素直で考えや気持ちをまっすぐ言葉にできるところとか同調しないところがとても好きで、私の友人はそもそもそういう人が結構多いのだけど、彼女は、そのなかでもずば抜けて周りを明るくする天才だった。

輪の中心にいるムードメーカーってわけではないのだけど、周りを明るくさせる不思議な人だった。誰にもない空気感だった。

彼女は、ちょっとだけ今の恋人に似ている。

悲しいことがあっても彼女といると元気をもらえた。気づくといつも笑っていた。親友のように感性が同じというわけでもなければ、趣味が同じわけでもないし、気の利く言葉を言うとか、欲しい言葉をくれるとかそういうわけではない。

ただ隣にいると自然と元気をもらえる人。彼女はずっとそういう人だった。

だから彼女の旦那さんに会って話しをしたとき「一緒にいるとほんとうに楽しくないですか、今後の人生ずっと一緒にいられるのが羨ましいくらいです。(彼女)は、なんでもできるって気にさせてくれるから」と言った。

すると彼女の旦那さんは「わかるわかる」と食い気味に頷いて笑っていた。

旦那さんはその後で「(彼女)よく(私)ちゃんの話しするからさ、会ったことないのに俺まで友人みたいな気持ちになるくらいだった、いろいろ話し聞いたよ」というので、「オイ〜〜一体どんな話をしたんだい」と思ったけれど、私が彼に話しているのと同じように話しているんだろうなと思った。

私も彼に彼女の話しをすることは何度もあったし、彼に彼女を会わせたくて、彼女に彼を会わせたくて、2人を会わせた。

彼女からプロポーズの報告を受けたときには、「(彼女)と結婚できる男性は、ほんとう幸せだと思うんだよ。大きな人生の壁に当たったとき、彼女が隣にいてくれるっていうのはほんとうに心強いと思う。一緒にいるだけでほんとうに元気になるんだよね、こんな根暗でどうしようもない私がだよ。(彼女)の雰囲気というか空気感ってなんか、とにかくすごいんだよね、すごいのよ」と、話したことがある。

「それにね、高校時代とくに救われた子なの」と。

高校時代私は保健室で寝るだけ寝て帰るみたいなことも多くて、学校を休むときは彼女にだけLINEで「今日行かない」とか「昼過ぎにいく」と連絡していた。

彼女はよく保健室で私が寝ているとベッドのカーテンを勢いよく開いて「次の授業も出ないんですか〜〜〜」と聞きにきた。彼女は「学校きなよ」とか「授業出たら?」とか言ったことは一度もないけれど、いつもそうやってなんとなく気にしてくれていた。

「私も眠くなってきた」とふざけてベットを半分占領してきたときは、遠回しに教室きてよと言われている気がして、彼女のかわいさに免じてその週の授業はすべてでた時もある。

彼女の隣はいつも楽しかった。

私が数学以外の科目ですべて学年1位をとったときに、「ああ〜リーチなのに数学だけ最高得点取れなくてなかなかビンゴにならないな、くやし〜〜」と言っていると彼女がニヤニヤしながら最高得点が書かれた答案用紙を私の顔の前でちらつかせたなんてこともあった。

「え!?」と私が驚いて答案用紙を掴んで見ていると彼女は「ビンゴ阻止!」と楽しそうに笑っていた。当時はすごく驚いたし、なんでなのかわからないけどその事実が嬉しかった。

「数学、教えてあげよっか」とドヤ顔で見下ろされたので「え、うん数学教えてほしい」と言い返すと、私の素直さに驚いたのか彼女は一瞬目ん玉を丸くして、誇らしげに隣に座って教えてくれた。

学生時代、成績が良い生徒っていうのは理由なくその科目の先生に気に入られたりするから、そのせいでほかの子たちに聞こえるようにいろいろ言われたことがあった。

先生のうちのひとりに、授業中何人かの生徒に質問をなげかけて誰も正しい答えが出せないとき、最後に決まって私を指す人がいた。(いま思うとかなり迷惑な話し)

最初の方は私も普通に答えていたけれど「またか」「最初からそうすればよくね?」「だる」みたいな小言が増えてきて。まあ毎回同じ子たちなんだけど。

授業のあとに私が机で突っ伏していると前を通るときに「お気楽でいいね」と聞こえるように言われることもあった。(お気楽とは?)

友人と思ってもいない子たちから言われたことだし、ほかにだいすきな友人がいたから傷ついたりとか悲しくなったりはまったくしなかったけれど、単純に疲れてうんざりはしていた。

だからある日ピークに達してしまい、その先生の授業で指名されたときに、バレないように、惜しいくらいで間違えた答えをわざと言った。

自分にがっかりしながらも、内心「もうこれでいいや、めんどくさいし」と思った。

けれど、そんな私の隣の席に居た彼女が「なんで嘘つくの?」と言った。それも周りに聞こえるような結構な声の大きさで。

私が驚いて言葉に詰まると、「全問解答とかちょーかっこいいのに!」と言った。その場で泣きそうだったけど、なんかもう彼女の度胸というか強さというか、すごすぎて泣くよりも笑ってしまった。

その授業のあとで、その科目の先生に「最後に毎回私だけを指すのはやめてほしいです」と伝えにいった。先生はちょっと申し訳なさそうにしていた。先生を責める気にもならなかったし、小言を言う子たちに対する怒りも微塵もなかった。

私がいま伝えたいことは。

そのときすぐに伝えたかったのは彼女に対してのありがとうだけだった。

「ありがとう、一気にいろんなこと吹っ切れた気がする」と伝えたら彼女は「嘘ついて答えたとき、(私)、あーやっちゃったわって顔してた」と爆笑していた。「嘘…」というと「ほんと」「なーにやってんだよと思ったからそのまま言っただけだよ」とスカートを翻して前に進み、「移動教室だよ、いこ」と笑ってくれた。

この日のことは、長々と細かく日記にも記してあった(ので記憶も濃い)。

そのくらい彼女の「なんで嘘つくの?」という言葉や声や表情は、私のなかのわだかまりを一瞬で取り去るものだった。それはそれはインパクト抜群だった。

親友とは高校も一緒だったのだけど、彼女は私の親友に対しての接し方もおもしろかった。

親友と私は、これまでと同じように高校でも互いに違う友人といたし、ほんとうに人見知りが激しい子だから親友が私の友人と接することはほとんどないのだけど、

そう、彼女の場合はおかまいなし。

体育の授業で親友のクラスと同じになり親友がいると「あ、(親友)ちゃんいるじゃん、なにしてんだろー」と私より先に親友のところに走っていって親友は声をかけられてびっくりして身体がはねている、ような光景をよくみていた。

私と親友は基本的に2人でいるのが当たり前で、第三者がいると変な感じになるから、グループでどうこうは全くと言っていいくらいになかった。

だけど、だけどね、気づいたら流されるように親友と同じチームで体育を受けていたことがあって、私も親友も困惑しながらはちゃめちゃに楽しんだ。

それも彼女の不思議な力ってやつなのかな。きっとそうだった。彼女はそういう子だった。

親友は「なんていうか、底抜けに明るいってわけじゃないのに思い切りがよくて真っ直ぐで、それでいてまったく嫌味がない人だ…すごい……」と、2人で遊んでいるときに彼女のことを何度も褒めたり関心していた。

「異性だったら絶対惚れてたって思う」と私が言うと、「だろうね」と親友も納得していた。

彼女はとにかくすごかった。すごいや、って何度も思った。

昔から形容できる言葉がうまく見つからないのだけど、ほんとうに心から友達になれてよかったと思っている。もちろん高校で出会った友人みんな、大好きだし大事だし、出会えてよかったと思っている。

けれど、そのなかでもやっぱり、高校で彼女と出会えたことは私のなかでかなり大きかったと思う。親友が「私からも感謝したくなるくらいには」と言っているくらいだから(保護者?)。


彼女とはほんとうにいろんなところを飛び回った。旅行先で体調を崩して病気のことを打ち明けたときも「そういう反応すると思った」という反応をしてくれた。

私が何度も彼女に思ってきた「すごいや」って言葉を、同じように彼女は大人になってから何度も私に言ってくれた。

「やっぱりすごいや、ずっとそう思ってきたけど、やっぱりすごいよ」と、彼女が私の何に対してすごいと感じてくれたかはわからないけど、そのあとで「(私)とは縁が切れないっていう確信がなんとなく、ずっとある」と言ってくれたことがほんとうに嬉しかった。

彼女の子供か、彼女がお母さんか。
嬉しいな。あ〜なんだかほんとうに幸せだ。

今回は、彼女の方から私に会いにきてくれた。

彼女は別れ際、「この子が生まれたら、元気になって今度は(私)が会いにきてね」と言ってくれた。「もちろん、絶対私から会いに行くよ」と答えて私たちは別れた。



☺️


出産がんばってね。
元気な男の子に会えるのを楽しみしてるよ。


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