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こびととサンタ

突然書きたくなったので、エッセイをひとつ。

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 私は小学校中学年の頃、さとうさとるさんのコロボックル物語シリーズを読んだ。おそらく、シリーズものとしてはこれが初めてだったように思う。たしか親に勧められてだったと思う。最初は、絵が少なく、文字が小さくて、読めるだろうかと不安だったが、それは杞憂に終わった。虜になったのである。続きが気になってしょうがない。学校での社会性に馴染むのが苦手だった私は、中休みも昼休みも、家に帰ってからも、どんどん読み進め、親に次の巻を強情ったものだ。表紙を飾り、要所にも登場する、村上勉さんの絵も好きだった。

 さて、読書感想文を書くわけではない。書いてはみたいが。もしかしたら実際読んだときに書いていたかもしれない。
 私はこの作品群にのめり込んだ。本気でコロボックルを信じていた。コロボックルとは、物語に出てくる小人だ。「ふきの葉の下の人」というアイヌ語で、アイヌの伝説にも登場するという。これは当時、まだスマホどころかガラケーだって持っていない頃、父のパソコンを借りて調べた。当時の私は北海道に憧れた。
 でも、もしかしたら、探せば近くで見つかるのではないか。
 勢い余って、本気で公園や木々、草花のあたりを探したものだった。
 結局会えなかった。コロボックルにも、トトロにも。
 大人になった私には、もう会えないかもしれない。ついさっきまで、あんなに探し回っていたコロボックルたちを、大人の私は忘れていたくらいなのだから。信じていても会えないのに。
 しかし、ふと思い出した。それは、みなさまのサンタさんのお話を読んだからだ。

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 みなさまやみなさまのお子さんとのサンタさんのお話が好きだ。思い出だったり、今のお子さんと見守る親御さんだったりのエピソードは、寒さも吹き飛ばす温かさを持っている。サンタさんの物語も好きだ。とっても素敵なサンタさんのお話を読めるのは、寒いこの季節のよさの一つかもしれない。
 サンタさんとの思い出でいうと、こんなことがあった。
 一度、ませた同級生に「サンタさんはいないんだ、お父さんお母さんなんだよ。」と言われた。私はその言葉が信じられなかった。でも、当時尊敬していた彼女が確信的に言うので、だんだんそうなのかも…と思うようになった。
 帰って、考えた。そして、動いた。
 うろ覚えでなぜその行動を起こしたかはもう忘れたが、私は母の目を盗み、家計簿を見た。母は、毎日丁寧に家計簿をつける人で、節約に厳しい人だった。父が生活費の中から買ってきたものも、すべて事細かに記していた。ついでにイベントごとがあればその記録も兼ねていた。「いっさんせいごう」という謎の言葉を唱え終えると、元の引き出しになおしていた。父の自由なお金のことなどはまだ知らなかった。だから、家計簿に書いてあれば、同級生の言うことは正しい、そうでなければ私が正しい。そう思い、クリスマスまで、母がいないときに家計簿を読んでいた。
 とうとうクリスマスまで、それらしい支出は見当たらなかった。
 同級生にはその話はしなかったように思う。胸の中で、やっぱりサンタさんいるじゃん、と誇らしげに思っていた。家の中で一人、笑みがこぼれていた。
 この話には続きがある。
 そうして、サンタさんはいると確信した私は、翌年、父や母にそれとなく「今年はサンタさんに何をお願いするの?」と聞かれた際、「サンタさんにだけ教えるの。秘密。」と頑なに口をつぐんだ。両親は途方に暮れただろう。数日おきに尋ねても、こどもの私は口を割らない。トイザら●のチラシを見ているのを覗かれようものなら、「内緒。」と隠れて探した。何を願ったかは今となっては忘れたが、イブの日、サンタさんに手紙を書いて、枕元に置いておいた。
 翌日、サンタさんから届いた包みの中に入っていたのは、願ったものではなく、本だった。
 申し訳ないが、その書名は忘れた。残念ながら、冒頭の本ではない。その本は、馴染みの本屋で親と本を探しながら買ってもらった記憶があるからだ。
 それで、サンタさん不在説がまたふつふつと湧いたものの、なんだかんだあり、六年生まで信じていた。
 後年母に話したら、家計簿のことは全然気づいてなかったそうだ。そして、出所が父のほうと両祖父母で、家計簿にプレゼントは載らなかったそうだ。

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 夢見がちなこどもだった。ファンタジーが好きで、空想の世界に浸るのが好きだった。国語の教科書の「くじらぐも」が好きで、それを読んでからずっと、学校の窓の奥の雲を見つめていた。雲に関心を持ち、雲の上に寝っ転がることをうっとりとしながら想像した。「ちいちゃんのかげおくり」に涙し、同級生とかげおくりをした。かげおくりの神秘的な幻のほうに意識が移った。もちろん、今でも話を覚えている。「白いぼうし」のあまんきみこさんの作品だと大人になって知り、驚いた。
 ファンタジー世界の住人に憧れた。空想と現実の境界が曖昧になりながら、人知れず、こびとや森に住む「変な生き物」を探した。こどものときにだけ訪れる、不思議な出会い。それも信じた私は、必死で探すも見つからず、物語にヒントを求め、条件を考えていた。家計簿のこともそうだが、妙にリアリストな一面もあった。心から、ただ、会いたくて。

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 ファンタジーながら、両者とも共通して、本当にいそうなリアリティーさがあった。それは、生み出した作家さん、監督さんのリアルを追究する探究心と表現力のなせるわざだ。さとうさとるさん然り、宮崎駿さん然り。編集者さんやクリエイターさんのお力もあるだろう。さとうさとるさんの見事な筆致、宮崎駿さんの描く緻密な設定、本当に存在するような登場人物、美しい情景。虚構と事実、真実の混ぜ具合が絶妙なのだと思う。それゆえに、受け取り手は物語に没入する。何より、優れた作り手は、受け取り手を信じ、委ねているのではないか。信頼関係が、作り手の手を離れても、作品を作品たらしめるように思う。

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 サンタさんがいるのなら、プレゼントはいらないから、サンタさんに一目会わせてほしい。相棒の赤鼻のトナカイも紹介してほしい。こどものいるお宅を周ってひと休みするなら、ここで休んでいってはもらえないだろうか。きっと、たくさんの家を周って疲れているだろうから、温かいスープでも飲んでいってくれたらうれしい。
 街にはたくさんのサンタさんが行き交う。制服は着ていない、こどもたち一人一人の、無二のサンタさんたち。サンタさんたちが、無事こどもたちの笑顔を見られたらいい。
 どこかに隠れ、こびとたちも生きていてくれたらいい。どうか温かい場所で、生き延びてほしい。でも、寒冷地出身なら、寒さには強いのかな。あなたたちにも会えたら、幼い頃の私が飛び上がってうれしがるだろう。

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