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言葉の宝箱 0345【あとでやろうとしていたことが、いつのまにかできなくなる、いつか行こうと思っていた場所に、結局行けないで終わる。人生はどんなに欲張ったって、一人にひとつしかないからさ。すべてのことを体験することは不可能なんだ。俺らが死ぬまでにできること、見られるものは、ごくごく少ししかないんだ。だったら、手に入らなかったもののことを惜しむより、手に入れたものを喜んだほうがいいよね】

『愛より優しい旅の空(鉄道旅ミステリ2)』柴田よしき(角川文庫2015/11/25)


 思わず時刻表を手に取り、路線図を眺め、
地図を引っ張り出して見たくなる鉄道旅
『夢より短い旅の果て』に続く第2弾、文庫オリジナル、
『歌う電車【京急電鉄/東京モノレール】』『青い蝶【南阿蘇鉄道高森線】』『避暑地の幻【中央本線~小海線】』
『希望の海(一)【東北本線~那須電気鉄道】』
『希望の海(二)【釜石線~山田線~三陸鉄道北リアス線】』
『線路は続く』の六話連作短編集。

あとがきにもあるが、連載中に東日本大震災があり、
いろんな意味でその影響を受けている。

・一人で電車に乗っていてふと、このまま遠くに・・・
ずっとずっと遠くに行ってしまいたい、と思う瞬間って、ないかい?
誰だって、そう、僕にだって君にだって、
逃げ出してしまいたい現実というのはいつもつきまとってる。
人としてこの社会で生きていれば、それが当り前のことなんだ。
だけど僕らはそう簡単に逃げられない。
逃げてしまったらすごくたくさんのものを失うことを知っているし、
悲しませてしまう人がいることも知っているからね。だけど・・・
電車に乗っているとさ、自分の足で歩いているわけじゃないのに、
からだも心もずんずん運ばれて行くだろう?(略)
あ、今ならできる、このままどこまでも降りずに乗っていれば、
何もかも捨て去って逃げてしまえる。そう思う一瞬が、来るんだ P31

・人は、旅をしながら生き、旅をしながら死ぬのだな、とその時思った。
毎日毎日、家を出てどこかに行く。
会社や学校のこともあるし、
ただ買物に近くのコンビニに行くだけかもしれないけれど、
どんなに短く日常的な移動であっても、それは「旅」なのだ。
なぜなら、いつかは家に帰ろうと思って前に進んでいくのだから。
そしてそれが旅である以上は、その旅の間に様々なことが起り、
様々なものを見聞きして、人生が少しずつ豊かになっていく。
飛行機でも船でも鉄道でも、旅立ちのときめきは未来への期待だ P35

・いつまでも愛し合えますように。
素朴だけれど、とてもとても難しい願いごと P211

・どんなに自分の人生に満足してる人でも、
心のどこかでは、まったく違う人生に対する憧れってのがある P215

・あとでやろうとしていたことが、いつのまにかできなくなる、
いつか行こうと思っていた場所に、結局行けないで終わる(略)
人生はどんなに欲張ったって、一人にひとつしかないからさ。
すべてのことを体験することは不可能なんだ。
俺らが死ぬまでにできること、見られるものは、
ごくごく少ししかないんだ。
だったら、手に入らなかったもののことを惜しむより、
手に入れたものを喜んだほうがいいよね P334

・もう迷わない。いつも、いちばんいい未来だけを、見つめて生きる P376

・………… 素敵だね、って笑顔で言ってくれた。
素敵だね、香澄ちゃん。でもね、って。でもね。
誰かの役に立つってことは、けっこう難しいことかもしれないよ、って。
人はまず、自分を大切に生きることが大事だと思う。
それがきちんとできていないと、
誰かの役に立とうとしてもきっとうまくいかないし、
ましてやそれを仕事にするとしたら、大変な責任を背負うことになる。
自分で自分を大切にしてやらないと、とても務まらないよ。
・・・その時はわたし、不満だった(略)
でも少しは大人になった今、(略)
理解できる。自分を犠牲にして他人や社会の為に生きるって、
そんなに簡単なことじゃない。
いい加減な気持ちで始めても、
責任がまっとうできずに途中で投げ出してしまったら、
かえっていろんな人達に迷惑をかけることになる。
誰かの為に、誰かの役に立ちたいと思ったら、
まず自分の為に、自分を大事にすることから始める。
そして自分がしっかりと二本の足で立って、
責任の重さを肩で支えられる自信がついた時、
誰かの為に生きることを考えろ・・・ P458

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