見出し画像

言葉の宝箱 0462【寂しさも辛さも吹き飛ばす美味しい六皿】

『鴨川食堂』柏井壽(小学館文庫2015/5/13)


鴨川流と娘のこいし、トラ猫のひるねが京都の東本願寺近くで営む食堂には看板がない。店に辿り着く手掛かりはただ一つ、料理雑誌『料理春秋』に掲載される“鴨川食堂・鴨川探偵事務所―“食”捜します”の一行広告のみ。縁あって辿り着いた客はもう一度食べてみたいものに出会えるという。人生の岐路に立つ人々が今日も鴨川食堂の扉を叩く。寂しさも辛さも吹き飛ばす美味しい六皿。『鍋焼きうどん』―番おいしかったものにもう一度出会うのは難しい。窪山秀治は数年前に妻を亡くし、定年後に新たな伴侶と巡り会った。彼女は秀治の大好物だけうまく作れないという。

『ビーフシチュー』
プロポーズされたレストランが思い出せない。師走に入ると京の都もせわしない。二人の老婦人が55年の食を求めて看板もない食堂に入っていった。『鯖寿司』
おいしさに勝るのは思い出というスパイス。総理大臣である岩倉友海が探しているのは、50年も前食べさせてもらったおやつがわりの品だった。
『とんかつ』
“おいしい”の一言を忘れる料理人はいない。大分でピアノ教師をしている広瀬須也子の元夫は京都でとんかつ屋を開いていたが、余命三ヶ月だという。『ナポリタン』
おいしいものを食べると泣けてくる。浜松に住む女子大生美月明日香が探しているのは祖父が旅行先で食べさせてくれた黄色いスパゲティだった。
『肉じゃが』男のソウルフードはおふくろの味。六本木ヒルズ在住の実業家伊達久彦は亡き母が作ってくれた肉じゃがを食べてみたいという。
6話連作短編集。


この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?