見出し画像

皮膚の思考(2) -宇宙に身を委ねて-

前回のnoteでは、皮膚が人間の本質の中心に据えられているという仮説/視点をいくつかの事例から紹介させていただきました。直接感想をメールで送ってくださった方には、新しい視点だったとの意見も多く嬉しく思っています。

ダイレクトに皮膚思考の事例ではありませんが、昨年末に他界された武蔵美術大学名誉教授の柏木博先生が『化粧業界における"メイクアップ"とは、身体の表層の見た目を変えることによって"自分自身を変える"人間の変身願望である』こと教えてくださったな、と思い出しました。

これは精神分析学者のディディエ・アンジューが著書「皮膚- 自我(言叢社 1993)」にて記していた「科学的というよりも極めて観念的という観点において、精神分析からの研究も進んでいる」という指摘にも通じるかもしれませんね。

センスメイキングでの第1ステップである感知(Scanning)は、の五感全体を使って物事をよく感じありのままに観るということは、前回も申し上げた通りで、仮説生成には極めて大切な段階となります。

しかしながら(言語モードをオフにして)ありのままに観ることは、なかなか経営やマーケティング、さらにリサーチ領域で従来まであまり重視されていなかったことも事実です。つまりロジカル思考が優先されて、演繹法や帰納法になっていたことで、本質を見失い、分析過多になってしまっていたといっても過言ではないでしょう。

「私」とは宇宙全体から考えるアプローチ

理論物理学者で宇宙研究者の佐治晴夫氏。理論の異なる視点から、人間はどこまでが「自分」であるかという発言をされています。

・皮膚の内側だけでは「私」という存在は完結していないという状況である
・「私」は脳の中に集積されている記憶や思考があってから,はじめて「私」だと言えるだろう。

「からだは,星からできている」佐治晴夫春秋社

昨日はこんなことをした、明日はこうしようと言った過去の記憶や過去の経験に基づく未来への願望が、脳の中に残っていて,はじめて「私」が「私」であるという現実がつくりあげられている。しかも,その記憶や思考は,自分ひとりのものでなく、(昨日経験したことであれば)それに関わったものごとや人物がいたからこそ、その記憶がある。だからこそ脳の中の世界は、自分の体の外に存在するものまでを広く包括しています。

つまり「私」を「私」にしているのは、自分以外の全てのものであり、それは、あらゆる全世界、宇宙にまで及んでいると考えられるというのです。

世の中は、"ゆらいで"いないと存在しない

佐治晴夫氏の言葉をもう一つ、ひろってみました。
6月27日に放送された「スイッチインタビュー  /  理論物理学者佐治晴夫×指揮者・西本智美(NHK)」をご覧になった方いらっしゃいますか?(7月6日再放送あり)。

 私共が実施しているビジョン思考(センスメイキング理論)を活用した新商品開発においても、ワークショップでの発想に"ゆらぎ"与えることが極めて重要です。あたりまえをそのままにしないで,違和感があったら、それを裏返してみる。イノベーションには、知の要素を組み替えて新結合することが必要なのです。

佐治晴夫さんと西本智美さんの興味深い今回の対談では「ドからファ」への音の転移が"天上への梯子" "より高い世界へのあこがれ"であると、二人が意気投合されていました。

ビッグバンの音、地球の声明の時の音、1977年からいまだに回っているボイヂャーから届く音、人類の生まれた音など聴いていると、人間生命の尊厳さ、心地よさ、リズムなどを感じ(これらの発言から、佐治晴夫さんが松下電器での研究職をされていた時代の、ゆらぎによる自然の風の扇風機などの背景がわかりますね)、「半分予測できて,半分予測できない開発」といった開発思想に「宇宙-自然-人間」までもを考えた美意識を感じます。これらは、私たちの商品開発コンセプトにも示唆を与えてくれますね。

聴覚- 音楽のもたらす新しい可能性

 前回もご紹介したVOGUEにて展開されている脳学者の中野信子氏の対談記事。6月3日に公開された記事のゲストは偶然にも西村氏でした。

理性と知性のバランスへの音楽の役割はとても興味深いです。
特に、ベートーヴェンの第6番田園を,可能な限り作曲当時のピッチに近づけた434ヘルツと現在の楽器442ヘルツに演奏して聞き分ける公開実験をした時の観客の反応が異なっていたことの話。
---
442ヘルツは,クリアで明るい音色
434ヘルツは,嗅覚で匂いを感じる方が複数挙手
 ---
聴覚と嗅覚まで関係しているとは…。前回最後に触れたように、音を商品開発ファクターに、考慮してもよいかもしれないというエビデンスめいた言葉に興奮を覚えました。

そういえば、以前新宿伊勢丹の新館の地下では、時間帯によりアロマを炊くことで嗅覚と購買意欲の関係を実験していましたね。こうした香りを使ったマーケティングも五感の刺激によって意識は変わる視点でもっともっと活性化していくのかもしれません。

まとめの代わりに

紀元前4世紀のギリシャへと辿り着いた哲学者アリストレスは、万人が人生の究極の目的として求めるのは「幸福」であると述べました。また"企業の目的は利益を追求することではない"ことをドラッカーは「現代の経営」明言して再評価されています。さらに三年前のダボス会議(世界の経営者会議)では、ウェルビーイングの概念により心と体のバランスを健全であることが、宣言されています。

前回と今回の2回に渡って人間を考える視点、人間がイキイキと自分らしく生きる視点として、「皮膚」から発展して宇宙と自然を生かす環境や美意識の重要性を考えてきました。皆さんはどのように受け止めていただけたでしょうか。

一方、一昨日の日経新聞朝刊に日本を代表する企業が「ESG;環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉;」を推進し、賞与に反映するという記事が第一面に掲載され話題になりました。
実際どのようなステップでこれらが改革されていくことまでは不明ではありますが、願わくはステークホルダーである顧客、従業員、経営者、株主,供給業者、などのバランスよいかつ人間の深い本質を追求した関係が望まれていくことを危惧してなりません。

(完)