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「人間は聞く耳なんて最初から持ってない」社会心理から見る 映画『DON'T LOOK UP』[Vol.3]

『Don’t Look Up』
2021年上映
監督/脚本:アダムマッケイ
キャスト:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープ、ティモシー・シャラメ 等

本作を扱う過去記事は以下リンクから。作品の大体のあらすじもそちらをチェック!

なぜみんなそんなに分からず屋なんだ!

本作では、半年後に地球を100%滅亡させる規模の隕石(彗星)が落ちてきているのにも関わらず、人はその現実を直視しない様が描かれている。

視聴者である私達は「なんでそんなに分からず屋なの!?」と登場人物の現実逃避や、頑なに事実を認めない姿に焦ったさを感じたのではないだろうか?

なぜ人は正しい情報を正しく処理できないのかを基礎的な社会心理学を用いて考えてみる。

①現状維持バイアス「苦労するなら今のままでいいや」

現状維持バイアスとは「何かを変化させることで現状がより良くなる可能性があるとしても、損失の可能性も考慮し、現状維持を選ぶ傾向」の事を指す。人間はメリットとデメリットを比較するとどうしてもデメリットの方がインパクトが強く感じてしまう習性がある。また、一度手に入れたものに対して、それが手元になかった時よりも価値が高いものだと感じ、手放したくなくなる傾向がある(保有効果)。

隕石が落ちて来て地球が滅ぶというならば、いろいろな事を変える必要がある。しかし生き残るという大メリットを持ってしても、人は現状維持バイアスにより変化を拒否するのだ。

②確証バイアス「都合の悪いことは無視」

確証バイアスとは、自分の仮説や考えに沿うような情報のみ集め、反するものは無視する習性の事を言う。人間はいかに非科学的あろうとも、でまかせであろうとも一度物事を信じると、それを信じ続けるために必要な情報のみを集めるのだ。

本作を鑑賞中に感じたであろう「なんでそんなにわからず屋なんだ!」という焦れったさ。それもそのはず。そもそも彼らは考え方を変える気などなく、自身の仮説や考えを守ってくれることにしか興味がないのだ

③内集団バイアス

内集団バイアスとは自身が所属する集団(内集団)やその集団に所属するメンバーを高く評価したり、好意的に感じる習性のことを指す。

オリンピックなどで自国の選手をえこひいきし、実際よりも高く評価することが良い例である。

しかしこの内集団バイアスには厄介な部分がある。それは内集団を優位にしたいがあまり、外集団を攻撃したり足を引っ張ったりする誤った行為に陥りがちだということだ。これは外集団の様に根拠があるわけでなく、自己肯定のための攻撃である。これは多くの差別事例に見られる傾向である。

①②③の実例:大企業病

例えば「大企業病」。「大企業病」に陥った会社は、新しい仕組みが会社にとってメリットをもたらすとわかっていながら、変化のリスクを恐れ旧来のものにこだわり会社のアップデートが遅れることを指す。これは変化メリットよりもリスクを重要視している姿で、紛れもなく①現状維持バイアスが働いている。加え「自社は問題ない」という仮説を信じるあまり、どれほど効果的かつ妥当な革新的アップデート案でさえも②確証バイアスが働き、無視し、一度信じたことを保守することのみを優先するのだ。さらには③内集団バイアスが働き、保守派の能力を過信し、革新派の足を引っ張り、追い出そうとすら試みるのである。

①②③の実例:コロナパンデミック

次の実例はこの数年間私達を苦しめ続けているコロナウイルスのパンデミックで見られる。

「ワクチンは毒だ」「パンデミックは人口調整のための意図的な陰謀だ」「コロナはただの風邪」「ワクチンにはマイクロチップが入っている」のように様々な意見が飛び交ったのは記憶に新しいだろう。

特に「コロナはただの風邪」などは「生活が変えるのは大変だ…」と現状維持バイアスが作用しているように見て取れる。

また、どれだけ非科学的な説であっても人は一旦それを信じてしまうとそれに沿った情報ばかり集めるようになりどんどんと深みにはまっていくのである。いくらその仮説が間違っていると証明する意見が出ても拒絶するようになる。それが世界トップレベルの医者や学者が唱えている事でもだ。これは②確証バイアスである。

そして③内集団バイアスにより相反する意見を持ったコミュニティーを攻撃し、コミュニティー同士の会話をほぼ不可能にしてしまい、さらなる分断を呼び、正しい情報が埋もれていくことになる。そしてお互いを愚か者と呼び差別などに発展している。

聞く耳なんて最初から持っていないのが人間

本作でも、「隕石」を巡って様々な意見を持った集団ができる。そして揉めに揉めるも、結局は自分が所属するコミュニティーの正当性を語り続けるだけで議論は成されず、本来大事である「じゃあどうする?」を議論しようとしない。そう、人間は聞く耳なんて最初から持っていないのだ。

-YOHUKASHI BLOGについて-
1989年東京生まれ。
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