見出し画像

豚肉とピーマンとわたし

最高のダンサーになりたい。

高い身体能力。豊かな感情表現。そして圧倒的な存在感。いろいろあるけれど、記録よりも記憶に残りたい。そしてそんな素晴らしいダンサーにはそれぞれの最高があると思う。もちろんそのレベルのダンサーになると食生活にもこだわりがある。食べたものが身体になり、その身体は踊るのだ。そうだ。最高のダンサーにはこだわりがあるのだ。

最高になるために、食生活にこだわりたい。

でもどうせ食べるんならうまいものが食べたい。もういらないってくらい食べたい。僕はご飯が大好きなのでご飯がすすむような、最高のおかずがほしい。すごくほしい。

最高のおかずを作ろう

僕は冷蔵庫に走った。
豚肉とピーマンが余っていた。なんとなく炒めて食べてしまおうと思ったが、そうゆうことじゃないと僕のなかの周富徳が黙っちゃいない。

そうだった。僕がほしいのは、豚肉とピーマンのなんとなく炒めのような中途半端な気合いで作ったおかずではない。ご飯がすすむ最高のおかずである。最高を目指せと周富徳も言っている。
冷蔵庫の中には豚肉とピーマンしかないので、この食材を使っていかに最高のおかずに近づけていくかが勝負だ。

自炊は得意ではないので、まずは検索だ。

[豚肉おかずピーマン]で検索する。ピーマンをおかずに豚肉を食べるみたいになっているが大丈夫だ。『ピーマンのうま塩肉巻き』とゆうのを見つけた。うまそう。ピーマン達が気持ち良さそうに豚肉の毛布に包まれている。可愛い。平和しかない。
しかも「うま塩」ってもうネーミングだけでうまそうすぎるだろ。きっと天にも昇るようなうまさなんじゃないだろうか。一体どんだけうまいんだ。考えただけで口の中がうまじょっぱくなってきた。これはご飯がすすむ気しかしない。周富徳もおすすめだと言っている。

では作っていきましょう

1.まずピーマンを細切りにする。

これは問題ない。細く切るだけだ。でも僕が目指すのは最高のおかずなので、ただの細切りではいけないだろう。限界の1mmの細切りにした。糸みたいだ。

2.豚肉に塩こしょうを少々。片面に薄力粉をふる。

これも問題ないだろう。豚肉に塩こしょうをふるだけだ。豚肉を並べてさあ塩こしょう。と思ったときにハッとした。



「少々」............とは?



少々がどのくらいなのかさっぱりわからない。
少しなのはわかるが、どのくらいなんだろう。「少」で1振り、「々」で1振りの合計2振りなのか?
それとも肉全体に小刻みに振りかけながら「ショーッ」とする一往復を1振りとして、「ショーッショーッ」だから二往復で合計2往復ショーッショーッなのか?
それとも完全にオマエのセンスでいっちゃってSHOW!とゆうことなのだろうか。
やっぱりさっぱりわからない。

この「少々」というワードに全く答えが見出せない。塩を持ったまま立ち尽くしてしまった。考えれば考えるほどにわからなくなる。 



勘でいくことにした。



たまには自分の勘を信じてみる。塩こしょうをフルスイングする。表も裏もしっかりと。もちろん薄力粉もフルスイング。
あっという間に塩こしょうまみれの豚肉は真っ白に染まった。冬がきた。

3.巻く。

問題ない。ピーマンを豚肉で巻きまくる。

4.焼く。

心配ない。焼きまくる。

5.うま塩だれを作る。塩こしょうを少々とおろしにんにくを入れる。

まってました。うま塩だれだ。
塩こしょうをマックスフルスイングする。
気分は松井秀喜だ。ゴジラ。
にんにくも入れた。絶対にうまい。

6.うま塩だれを全体にからめる。

渾身のうま塩だれを、豚肉とピーマン達にお見舞いする。豚肉とピーマン達は次々とうま塩の大海原に呑み込まれていく。豚肉とピーマンのデュエット。まさにスペクタクル。これぞフィナーレにふさわしい圧巻の光景。



完成。




まぶしくて直視できない。最高のおかず『ピーマンのうま塩肉巻き』の完成だ。令和の歴史に名を残すであろうこの一品。一口食べれば旨さの大海原にダイブする事間違いなしだ。もう待ちきれない。レッツダイブ。


早速食べてみる。

「ん......?」

「んんんっっ!!!!!」

「カッッッ!」

おまえの勘が狂っている。


塩の大海原が僕を呑み込んだ。
一口食べた瞬間に広がる塩とこしょうのハーモニー。噛めば噛むほど溢れてくる塩分は海水。ピーマンは完全にうま塩にやられてまるで歯応えがない。飲み込めば塩に喉をやられ、もう喉がカラカラだ。一体これはなんなんだろう。
でもご飯は物凄くすすんだ。

完全に「少々」を間違えている事に気づいた。
勘も塩分も狂っている。周富徳も泣いている。記録よりも記憶に残ってしまった。

フルスイングなんかするんじゃなかった。




鈴木陽平(Dancer/Choreographer)

国内・海外問わず数多くの舞台に出演し、現在では映像作品・CMへの出演や振付・演出・舞台制作など活動は多岐に渡る

https://www.instagram.com/yohei_suzuki1122

https://twitter.com/yoheisuzuki1122

https://www.facebook.com/profile.php?id=100044025398023



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?