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「紹介予定派遣の元社員、任天堂提訴 雇用拒否不当と訴え」のニュースの見方

紹介予定派遣を利用して派遣就労していた保健師2人が直接雇用を拒否されたのは不当であるとして派遣先である任天堂を相手取り地位の確認を求める訴訟を起こしました。
紹介予定派遣の直接雇用をめぐる訴訟は初めてとの事です。

紹介予定派遣は、労働者派遣のうち、派遣元事業主が労働者派遣の開始前または開始後に、派遣労働者および派遣先に対して、職業紹介(派遣労働者・派遣先間の間の雇用関係の成立のあっせん)を行い、または行うことを予定してするものとして平成12年12月1日に解禁されました。
その後、派遣労働者の直接雇用を促進し、円滑かつ的確な労働力需給の結合を図るための手段としていっそう有効に機能するよう、平成16年3月1日施行の労働者派遣法改正で明文化されるとともに、規制も緩和されることとなりました。

紹介予定派遣において派遣社員として働く期間は、同一の労働者について6ヵ月を超えてはならないという制限が設けられていて、実務的には3~6ヵ月程度の期間を設定している事が多いように思います。
日本の労働法制では雇用契約が成立した上での試用期間満了による雇用解消は非常に困難であり、本当の意味で労使が相手方を一定期間の就労によって見極めた上で、両者合意の上で雇用契約を成立させるために導入された制度と言えます。

厚労省発表のデータ(2017年4月1日~2018年3月31日の)によれば、49.7%の人が紹介予定派遣から直接雇用されています。

・紹介予定派遣で派遣された労働者数:38,239人
・紹介予定派遣から直接雇用された労働者数:19,008人

意外な点は直接雇用に繋がらなかったケースでは、派遣先の拒否よりも派遣社員側が辞退する事の方がかなり多い事です。

また、直接雇用は必ずしも正社員で就職するとは限らず派遣社員として働いていた会社に直接雇用されれば、契約社員やアルバイトでもよい事になっており、更には派遣時の職務内容と職業紹介時の職務内容が相違していても差し支えないとされています。(派遣時は一般事務、職業紹介時は営業等でも可)

法令上も統計上も紹介予定派遣制度と直接雇用の成立との間の結びつきは強固なものであるとまではいえず、派遣先に直接雇用される事を前提として労働者が紹介派遣制度を利用している実態も伺えないが故、直接雇用されることに過剰な期待をして労働者が利用するような仕組みではないように思います。

報道によれば任天堂側の「産業医との円滑な協力体制の構築に至らなかった」に対し、原告側は雇用契約が成立していたとして、「拒否は解雇にあたる」と主張されているようです。
また、契約が成立していないとしても「直接雇用される合理的期待があったのに、不当な理由で拒否された。保健師2人は産業医からパワハラを受けた」とも主張されているようです。

法令をみても、現実的な運用データをみても、特別な事情がない限りは雇用契約が実態として成立しているという主張はさすがに無理筋でしょうし、おそらく原告側弁護士もそれを理解しているが故、予備的に雇用契約が不成立の場合でもパワハラ等を根拠とした損害賠償について言及しているのだろうと思います。(こちらが真の争点なのでしょう)

万一、本件で任天堂に直接雇用義務があると示されたならば紹介予定派遣制度そのものの根幹を揺るがすことにも成りかねず、これまでそれなりには効果的に機能してきた紹介予定派遣制度が本件を機に積極的に利用できない事になるのであれば派遣先にとっても労働者にとっても雇い方、働き方の選択肢の機会損失になるのではないでしょうか。

紹介予定派遣制度が非正規労働者拡大の原因となっているならば縮小や廃止も検討すべきですが、利用は労働者派遣のごく一部であり、派遣期間も半年以内と制限された仕組みですからその影響は伺えず、廃止による社会的不利益の方が大きいように思います。

〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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