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ぽろぽろ

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掌編小説集。こぼれおちた種のように小さな作品ばかりです。
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#物語

掌編小説 素数父さん

お盆休みになったので、「涼しいうちに」と手のひらサイズの缶ビールをふたつ持ち、近所の公園…

あまざき葉
10か月前
81

掌編小説 記憶の玉

冬晴れの並木道、すっかりむきだしになった梢の間にぽつんと丸いものが見えた。鳥の巣だろうか…

129

掌編小説 あおざめた翅

あなたは月の光のなか、彼女のもとを訪れる。小さな小さな箱のような部屋だ。その扉が静かに開…

146

掌編小説 チル散ル

父母の墓参りの帰りだった。ちりん、と鈴の音が聞こえた気がして目を上げた。 色づいた葉が、…

100

掌編小説 壁の鼻

壁に鼻が生えていた。転職に伴う引っ越しを間近に控え、洋服や鞄などを段ボール箱に詰めている…

100

掌編小説 砂のみ

少々体質の古い会社に勤めている。 定年間近の課長は「男女平等」を掲げているが、いわゆる「…

121

掌編小説 寒天みたいな

幼なじみのユリエちゃんが、失恋をしてから寒天みたいになった。 ユリエちゃんは「黒髪のバービー」と呼ばれるほど端正な美貌で、社会人になってもずっとちやほやされていた。わたしが知るかぎり、彼女は容姿を武器に会話やスキンシップを巧みに駆使して、狙った相手を「百発百中」でしとめてきたはずだ。そのあとは飽きて乗り換えるか、同時並行でつきあうかしかなくて、相手から振られるなんて初めてだった。 ユリエちゃんは正体なく泣いているうち、とろりと溶け出して透きとおり、ついに輪郭までなくしてし

掌編小説 月の子を捨てる

家に置いていた月の子を捨てることにした。 雨上がりの夜道で、秋蛍かと目をひかれ、引き寄せ…

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掌編小説 みつあめ

「秋のバラが咲き始めたから、夜の公園でピクニックをしようよ」 そう恋人と約束をした。 当…

70

掌編小説 へそで飼う

へそのごまを掃除しようとして、とりきれなかった。 そう思っていたら、ごまではなく、どうや…

67

掌編小説 海の乙女たち

「あの人にしよう」 妹が海面に顔をのぞかせて指差す。ひと気のない浜辺の小屋に、若い男の姿…

71

掌編小説 トイレット絵巻

夫が出てこない。通常は一度にひとりしか入れない、自宅内の小さな特別室。そう、トイレである…

78

掌編小説 あなたの地図

あなたの地図を手に入れた。特別な伝手を使って。 近頃は、あなたとどう接したらよいか、わか…

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掌編小説 巣立ち

卵から孵ると、わたしはもじゃもじゃの中にいた。教授の頭の上だった。くせのある柔らかい黒髪がからまりあっていて、ちょうど巣のようになっているのだった。わたしの羽はまだ弱々しく、もじゃもじゃは暑さ寒さや外敵から身を守るのにちょうどよかった。 教授が頭を洗うことはめったになかったが、そんなときは針金のような腕でわたしをひょいと安全な場所におろし、さっぱりしてからまたのせた。教授が頭をかきむしるときは落ちそうになったけれど、髪が脚にからまるおかげで、いつもかろうじてひっかかっていた