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ぽろぽろ

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掌編小説集。こぼれおちた種のように小さな作品ばかりです。
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記事一覧

掌編小説 教えて、アイコおばさん

教えて、アイコおばさん。ダイニングで座っているアイコおばさんに話しかける。 アイコおばさ…

あまざき葉
7か月前
78

掌編小説 素数父さん

お盆休みになったので、「涼しいうちに」と手のひらサイズの缶ビールをふたつ持ち、近所の公園…

あまざき葉
9か月前
80

掌編小説 記憶の玉

冬晴れの並木道、すっかりむきだしになった梢の間にぽつんと丸いものが見えた。鳥の巣だろうか…

131

掌編小説 あおざめた翅

あなたは月の光のなか、彼女のもとを訪れる。小さな小さな箱のような部屋だ。その扉が静かに開…

145

掌編小説 チル散ル

父母の墓参りの帰りだった。ちりん、と鈴の音が聞こえた気がして目を上げた。 色づいた葉が、…

101

掌編小説 壁の鼻

壁に鼻が生えていた。転職に伴う引っ越しを間近に控え、洋服や鞄などを段ボール箱に詰めている…

99

掌編小説 砂のみ

少々体質の古い会社に勤めている。 定年間近の課長は「男女平等」を掲げているが、いわゆる「お茶くみ」は、依然、わたしの役目となっている。朝は誰よりも早く出社して準備し、管理職や来客の姿があれば、タイミング良くのみ頃のお茶をお出ししなければならない。 わたしを育てたお局様はとっくに退職している。新卒の男性社員が入ってきたときにバトンタッチを試みたが、だめだった。自動販売機の設置やペットボトルの活用も夢のまた夢である。 わたしが主担当の仕事でもみくちゃになっているときに、担当

掌編小説 寒天みたいな

幼なじみのユリエちゃんが、失恋をしてから寒天みたいになった。 ユリエちゃんは「黒髪のバー…

83

掌編小説 月の子を捨てる

家に置いていた月の子を捨てることにした。 雨上がりの夜道で、秋蛍かと目をひかれ、引き寄せ…

86

掌編小説 みつあめ

「秋のバラが咲き始めたから、夜の公園でピクニックをしようよ」 そう恋人と約束をした。 当…

71

掌編小説 へそで飼う

へそのごまを掃除しようとして、とりきれなかった。 そう思っていたら、ごまではなく、どうや…

68

掌編小説 海の乙女たち

「あの人にしよう」 妹が海面に顔をのぞかせて指差す。ひと気のない浜辺の小屋に、若い男の姿…

71

掌編小説 トイレット絵巻

夫が出てこない。通常は一度にひとりしか入れない、自宅内の小さな特別室。そう、トイレである…

79

掌編小説 あなたの地図

あなたの地図を手に入れた。特別な伝手を使って。 近頃は、あなたとどう接したらよいか、わからなくなっていた。何を考えているかわからない。遠慮をしているうちに距離があいてしまった。待っていても縮まりそうにないので、地図の力を借りて、そっと心にわけいってみようと思った。 筒から丸まった紙を取り出す。手漉き和紙のような厚みと柔らかさだ。広げると、真っ白である。だまされたのかもしれない。半信半疑で、枕の下に敷き、眠りにつく。 いつの間にか、あなたの心のなかと思われる場所にいる。手