見出し画像

弱さが武器に。表現の世界は面白い。

同じ作品でも、読む時期によって感動するポイントは大きく変わる。

小さい頃は、何があっても挫けず、まっすぐに進むヒーローが大好きだった。自分もそうなりたい、そうなれると信じて疑わなかった。

しかし、現実は正義が必ず勝つようにはできていない。優しい人が生きづらくなる陰湿な環境、互いに心ない言葉をぶつけてしまうような多忙な日々。

そんな中で、あの頃憧れたヒーローは、現実の辛さを知らない幸せ者で、叶うはずのない綺麗事を語る胡散臭い人間に成り下がった。それが、自分の苦しさの当てつけでしかないということは分かっていた。そんなことしか、できなくなった自分を見て、悲しくなった。

ただし、人生はベストなタイミングで、懐かしいものと再会することが稀にある。

幼い頃よりも、少し距離をとって、現在の自分が読み始めた作品。

すると、これまで気づかなかったものが次第に見えるようになる。

年を重ねて何でも斜めに見るようになった私は、幼い頃先頭に立つヒーローに見惚れて気づかなかった、その後ろの後ろの脇役と、自然に目が合った。
ヒーローよりも能力的にも精神的にも弱いが、誰よりも人間の弱さを彼は知っていた。自らの弱さを認めて打ち明け、それに必死で向き合うキャラクターに惹かれるようになった。

更に、その眼差しはキャラクターを超えて、作者に通じていた。これまで自分を散々苦しめてきた卑屈や自意識を、作品に昇華して楽しむ表現者を心から尊敬するようになった。

どこにも行き場のなかった苦悩が、初めて自分の居場所を見つけ、深く息ができたようだった。


転けて、擦りむいて、傷だらけ。「人一倍弱い」「醜い」と感じるその手は、自分や世間を恨み殺すためにあるんじゃない。表現によって、自分を救うためにあるんだ。
弱さは、弱さで終わらせてはいけない。決して捨ててはいけない。
表現者にとって弱さは、最高の武器だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?