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私の所属学科と履修授業について

春学期が始まりました。
1セメスターを終えて、ようやくアメリカ大学院生生活にも馴染んできたように感じます。

さて、今更ですがそもそも私は一体何をしているのかについて発信できていなかったことに気づきました。秋学期を振り返って履修した授業と私のプログラムについて書いてみたいと思います。

この記事はあくまで私の所属しているプログラム、コロンビア教育大学院の社会組織心理学修士号(Social-Organizational Psychology, M.A.)についての情報です。海外大学院受験を予定している方は、志望するプログラムのOBGに連絡をとってみてください。

Teachers Collegeはどんなところ?

コロンビア大学に所属する大学院17校のうちの一つで、教育を主軸にする大学院としては全米最大かつ最古の大学院です。「教育」大学院となっていますが、大きくは教育(Education)、保健(Health)、心理学(Psychology)の3つの分野が存在します。教育分野であれば、幼児・初等教育、国際比較教育や科目ごとの教育(英語や数学など)、音楽・芸術教育など。保健分野であれば、身体運動学や栄養学、そしてカウンセリングや認知心理学まで様々な心理学の分野があり、全部で100以上ものプログラムがあります。(中にはデジタルゲームデザインという分野で、教育に活用できるゲームを作っている研究室もあります。研究室に行くとPS5やNintendo Switchが置いてありますよ!)

教育大学院に行っていると言うと、「先生になるの?」とよく聞かれますが、上記のようにそうとは限りません。TCのミッションは、"Creating a Smarter, Healthier and More Equitable World." つまり、すべての人々の人生のチャンスを最大限に生かすために、人々の身体的、栄養的健康や心理的ウェルビーイングを支援し、恵まれた人々と恵まれない人々のギャップを克服することを使命としています。

こちらのページのデータによると、TC全体ではフルタイムよりパートタイムの生徒が多く、女性:男性が8:2と女性が多く、留学生はアジア系が最多で80%を占めているようです。もちろんプログラムごとに異なります。

著名な卒業生は、クライアント中心療法を提唱した心理学者のカール・ロジャースや、サイモン&ガーファンクルの後者の方、アート・ガーファンクルなどでしょうか。心理学者のエドワード・ソーンダイク(条件付け研究の礎となった試行錯誤学習などで有名)も長年TCで教鞭をとっていました。他にもたくさんの著名な卒業生が活躍しています!

Social-Organizational Psychology M.A.プログラムの概要

日本語では、「社会組織心理学修士号」となります。(以下、S-OP)
簡単にいうと「職場の心理学」で、人材や組織をどのようにマネジメントすればより効率よく、かつ働く人が幸せな職場を作ることができるか、という心理学になります。

2022年秋学期の入学者は88名。そのうち18名は、アイゼンハワー・リーダーシップ・プログラム(ELDP Program)といって米軍から学びに来ている方たちです。ミリタリーを除いて70名のうち、留学生は約20%なので10数名程度。日本人は修士・博士合わせて私一人です。マジョリティはアメリカ人で、フルタイムの仕事をしながら通っている人たちも多いです。平均年齢は30歳で男女比は女性のほうが多いです。募集の段階で、就業経験2年以上推奨なので社会人経験者が多いですが、学部からそのまま来た人も普通にいます。学部の専攻や職業は心理学関係とも限らず、小学校の先生や経理部など様々なバックグラウンドの生徒がいます。

飛び級で21歳でインドから留学してきている子もいれば、50歳くらいの軍人さんもいて、みんな同じクラスで学んでいるので、本当にダイバーシティに富んでいます。日本だったら大学院でも大体同じような年齢と経験をもった人が集まるので、このようなクラスで学べるのはアメリカならではだなと思います。ただし、他のプログラムは中国人留学生が多かったり同じ年齢層が多いなどと聞くので、S-OPはTCの中でも異色だと思います。

秋学期に履修した授業について

初めてのセメスターは必修となっている4つの授業を取りました。
それぞれご紹介します。

① Organizational Psychology(組織心理学概論)
この授業は組織心理学の歴史と理論を包括的に学ぶクラスです。
組織心理学は、個人レベル・集団レベル・組織レベルとミクロな視点からマクロな視点まで3つの領域にまたがっています。

〈個人レベル〉
・入社前の性格テストや適正試験は入社後の仕事のパフォーマンスを正確に予測できるものなのか?
・個人の認知の歪みが職務評価に与える影響(例えば、最近大きなミスをした社員がいつもミスをしているように感じて実際より低い評価をつけてしまう、など。)
・どのように社員のモチベーションを維持させるか。そのためにどのような報酬体系が適しているのか。

〈集団レベル〉
・ダイバーシティとは何か。職場でどのように扱われるべきか。
・グループとチームの違いは何か。どのように形成され発展するか。
・グループで意思決定するときに陥りがちな罠とは(同調圧力、グループ思考、タダ乗りなど)
・どのようなリーダーシップがチームを促進するのか。

〈組織レベル〉
・組織文化とは何か。どのように検証できるのか。
・組織文化が組織に与える影響はどんなものか。
・どのようなプロセスで組織を変革させられるか。

以上のような内容を勉強しました。
毎回テーマが違うので面白かったですが、予習も大変でした。


② Understanding Behavioral Research(研究法)

この授業は、組織心理学でデータ収集と分析を行うときに必要な知識について学びます。あまりがっつり統計という感じではなかったです。
研究のデザインの仕方、仮説の立て方、内的・外的妥当性や信頼性を脅かしているか、質問紙で調査をするときの質問の聞き方と注意点など。
心理学で学位をとったことのある人はある程度基礎があるので、わりと簡単なほうの授業かなと思います。
ただし、組織心理学という分野は実験室でデータ収集することはほとんどなく、職場などでのフィールド調査を主としています。
その点、ランダムサンプリングのないパターンなど教育学で使われるような実験デザインが登場したのがちょっと大変でした。


③ Group Dynamics: Systems Perspective(グループダイナミクス)
精神力学に基づいた集団のダイナミクスに関する授業です。
正直、秋学期の中でこのクラスが一番難しかったです。
要約すると以下のような内容を学びました。

(1)人はそもそも何をもって「集団」と認識しているのか。集団の中で何が起きているのか。
B.A.R.Tモデル:Boundary(境界)Authority(権威)Role(役割)Task(タスク)というものがあり、4つの視点から集団を考察します。
Boundary = 集団の境界(誰が集団に属していて誰がそうでないか)はどのように発生するのか。
Authority = 集団の中のヒエラルキー(誰に意思決定の権限があるか)がどのように他のメンバーに影響するのか。
Role = メンバーがどのような役割を担うのか。その流れはどのように発生するのか。
Task = その集団は何をしなければいけないと認識しているのか。

(2)スケープゴートはなぜ起きるのか、どのように回避できるか。
スケープゴートとは、集団が背負いたくないものを特定の人に全部押し付けるような流れのことです。生贄というか、一人の人に全部責任転嫁するイメージです。部署が成果を出せなかったとき、暗黙のうちに誰か一人のせいにしていませんか?その人の意見をわざと無視したり、その人のミスだけを過剰に追及したりしたことはありませんか?
この内容では、もし自分がそのようなグループのコンサルタントとして介入したら、何をすべきかということを学びました。

(3)Bionによるグループの防衛規制について
個人がグループに属すると、グループの一因になりたいという気持ちとグループから独立していたいという曖昧な心理状態に置かれた結果、リーダーへの依存や闘争/逃走などの防衛規制が起きるという内容です。

(4)Alderferによるグループ間のダイナミクス分析
Alderferはグループ間の関係性を分析するにあたって、5つの視点から考察すべきと述べています。B.A.R.Tと類似していますが、グループの境界と権限の所在、どのような内輪ネタや専門用語を持っているか、お互いのグループにどんな感情を抱いているか、グループのリーダー同士の関係性はどうなっているのか、ということを観察します。

この授業には、Group Relations Conferenceという名物イベントがついてきます。「私生活で今辛いことがある人は参加せず自主研究プロジェクトを選んでください。」という注意書きと、最終日には必ず泣き出す人が出るという噂を聞いて、恐々参加してみました。確かに泣き出した人いました。
この経験は本当に特別で濃厚で忘れられないものになりました。
詳しく記事に書き起こそうと思うので、ちょっとした小説くらいになりますが、また書き終えたら公開します。

④ Functions of Organization(組織の機能)
通称「ミニMBA」と呼ばれるクラスで、会計・金融・マーケティング・経済・ビジネス戦略について学びます。MBAほど一つずつ深くはやらず、基本的な内容だけサラーッとやるのですが、これが必修科目となっていることが我がS-OPの個性だなと思います。
なんといっても教授がすごかった。人生で出会ったことのないスーパーウーマンでした。MA・MBA・Ph.Dを全部持っており、ゴールドマンサックスで働きながらPh.Dを取得し子供を3人産み、リーマンブラザーズに引き抜かれた6日後にリーマンショックを経験し、現在はモルガンスタンレーで450人中10人以下しかいない貴重な女性フィナンシャルアナリストの一人です。最初の授業で先生が自己紹介を終えたあと、あまりのパワフルさに圧倒され教室がシーンと静まり返ったのが印象的でした。

そんなスーパーウーマンが一番最後の授業で行ったことは何だと思いますか?彼女はお気に入りの本を2冊持ってきて、みんなの前で一節を読み上げました。

1冊目は、「朝起きたら必ずベッドメイキングしろ。」という本です。
ベッドメイキングをすれば、その日すでに1つ何か物事を達成したということになる。どんな嫌なことがあっても、綺麗なベッドに戻ってこれる。その小さな積み重ねが人生を変えるんだ、ということです。

2冊目は、"You are a badass at making money"という本です。先生はこの本の一節から「お金持ちになりたいと言うことを恥じる必要はない」という文章を読み上げました。アメリカにも金銭的な欲求を公にするのは恥ずかしいことだという感覚があるんですね。意外でした。経済的な成功を追求することはむしろ大切だし、そのマインドセットを持ち続けろとのこと。
そして、「あなたたちの健康と何よりも経済的な成功を心から願っています。」と締め括って、そのまま立ち去って行きました。かっこいい・・・。

授業と課題はどんな感じ?

基本的にはリーディングが課されます。むしろ事前に本を読んでくることが学びの8割で授業はそれを補足してくれたり、ディスカッションなどアウトプットの機会をくれるというイメージです。
量は少ないなラッキー!となるときで指定図書1章や論文2本だけなど、しんどいなとなるときで指定図書4章+論文2本などですね。
ページ数と感覚でいうと、30ページくらいなら楽勝だぜ、60ページでクッ…耐えろ私、100ページで…せめて…要約だけでも…となる感じでしょうか。ちなみに1授業あたりなので、何コマもとっているとさらに増えていきます。

中間と期末に筆記試験を課すタイプ、セメスターに渡って複数のレポートを出すタイプ、グループプロジェクトタイプなど評価の方法は様々です。ただ、日本の大学のように出席100%などという授業はありません。例えばレポート3本30%ずつ出席10%など分割されているので、油断できないようになっているなと思います。
授業はアウトプットを重視していて、教授が一方的に喋っている授業などは生徒からの評判が悪くなります。日本の大学みたいに生徒が寝て過ごしたり、楽単だから人気などということはありません。みんなどんどん手を挙げて発言するので負けてられませんね。

ちなみに授業の基本単位は1コマ100分で、セメスターに渡って毎週授業があるパターンや、週末だけ、1コマ3時間で半期だけなど授業のスケジュールはバラバラです。
私の秋学期は、①②③が100分毎週、④が3時間で学期後半だけでした。
春学期についてはまた学んだことを振り返って別記事にしたいと思います。

2セメスター目も無理しすぎず、しかし貪欲に学びを続けていきたいと思います。
私の学科についてご質問などある方は、Twitter(@Ryoko_Tokuoka)などでどうぞお気軽にご連絡ください。




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