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自宅待機中の中高生にオススメ本を紹介してみる

緊急事態宣言となりました。対象都府県と対象外道県で温度差があるようにも感じますが、ゴールデンウィークまでは自宅待機となっている人も多いのではないでしょうか。

そこで、僭越ながら、自宅待機になっている中学生~高校生ぐらいまでを対象にオススメの本をいくつか紹介したいと思います。

漫画編

あらためて、Amazonのリンクを張りましたが、全巻セットだと、それなりにお値段が張るなあ、、、、1巻ずつ買えばいいと思います。選んだのは、手塚治虫『火の鳥』、藤子・F・不二雄のSF短編集、みなもと太郎『風雲児たち』

この3つに共通するのは、全て連載ないし製作期間が20~30年、風雲児たちは連載41年目に突入で現在続行中の漫画です。巨匠とよばれる人たちがライフワークとして取り組んだ、大きな河の流れ、骨太のメッセージ性を味わって欲しいと思います。

その上で、各作品について。

『火の鳥』は、医学者でもある手塚治虫が、その類い希な構想力と科学知識を縦横無尽に発揮した言わずと知れた大作。永遠の命の象徴である『火の鳥』を通じて、未来と過去を行ったり来たりしながら、古来からの人種差別問題、クローン人間がいる社会、ロボットが意思を持ち統治する世界という、今で言うAI社会を予言したかのような設定、宗教問題、不老不死と輪廻転生、様々なテーマに対し深い洞察を与えてくれます。1つ1つの話は、いわゆるオムニバスになっているので、どこからでも読めます。

そして、藤子・F・不二雄のSF短編集。藤子・F・不二雄こと藤本先生は、SFのことを『すこし不思議な話』としていました。作品になっているのは、現代の常識がちょっと異なる社会。女尊男卑だったり、人が食料になっている牛の世界、殺人が合法の世界、あるいは、未来からの商人が売る不思議な機能を持ったカメラにまつわるシリーズ。正直に言って、一つ一つの設定や話の運びには、かなりエグいもの、グロテスクな設定もあるのですが、藤子・F・不二雄の絵柄とテンポ感がそれを感じさせず、『ちょっと不思議な』世界に自然と引き込んでくれて、そして、1つ1つの話が、今までの常識から一歩引いて、自分の世界を構築する切っ掛けを与えてくれます。

最後は、みなもと太郎『風雲児たち』。幕末を語るには、関ヶ原から始めなければいけない』と、関ヶ原から始めた結果、幕末に辿り着いたのが連載30年目頃という超大作。連載開始が1979年なので、私と同い年。歴史というものは、一人の英雄が打ち立てるようなものではなく、それまでの積み重ね、10年前のあの一言、20年前のあの決断、といったことが伏線となって、大きなうねりとして人間の前に立ちはだかる、でも、人が無力かというとそうでもなくて、やっぱり1人の人間の決断や熱意が歴史を動かすことも、偶然、ある人物がその場に居合わせたかどうかで歴史が変わってしまうこともある。そんな、小さな小川が合流して大河になっていくような歴史のダイナミズムと因果関係を、ギャグ漫画の手法で表現し、歴史を見る目を変えてくれます。時事ネタギャグも豊富なので40年前時事ネタとか意味が分らないのだけど、ギャグがテンポ感を崩さず、むしろ、歴史の不条理や不合理を説明するメソッドになっています。

理系と文系の橋渡し

中高生というと理系文系、それぞれ、進路を考え出す頃でしょうか。それぞれの分野から1冊ずつ。

内田麻里香さん『科学との正しい付き合い方』、主婦であり科学者でありライターである著者が、主に文系に向けて書いた『科学との正しい付き合い方』の本。その通り、『科学』というものの思考法と、『科学によって解決出来ること』『科学によって解決出来ないこと』『科学ではなく、科学者のコミュニケーションの問題のこと』を切り分けながら説明しています。ちょうどこの本が出た頃、事業仕分けがあって、科学予算が削られ、それに対して科学者が反発したこと、それに対し世論の支持が得られなかったことへの問題意識があり、ちょっと問題意識がページ数に対して過多気味ではあるのですが、著者の目的が『科学というものをどう専門家じゃない人にも共有するか』という視点が貫かれており、文系志望の高校生も1度読んで欲しいと思います。と言うより、むしろ、想定読者ど真ん中です。

そんな「科学技術アレルギー」という眼鏡を外して、視点が変わった人にとっては、科学技術はもう難しいものでも怖いものでもありません。むしろ、文系としての立場で、科学的に「疑う心」を持った人は、最強のプレイヤーとして、科学技術にかかわる話に加わることができます。忌避感やアレルギーさえなければ、科学技術の情報を読み解くことは、そう難しいことではないのですから。これまで法律や経済や経営など、自分の専門領域で発揮していた能力を、科学の分野で同じように発揮すればいいだけの話なのです。

と、正直、このタイトルと表紙だと『理系の人しか買わないだろ、、、』と思わないでもないですが、著者のエールを受けて欲しいなと思います。


一方、加藤陽子さん『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』。著者が30名ほどの中高生に対して行った歴史講義の記録。まさに、同世代に対しての語り口なので、全ての高校生が読める本。日本が戦争に至るまでのあいだに、リットン調査団、三国軍事同盟、日米開戦と3つのターニングポイントがあり、そこでの決断や偶然が日本を戦争に導いてしまった。それを、一次資料を基に丁寧に調査し、議論をし、結論を組み立てていきます。これまで伝わっていた歴史のイメージから脱却し、特に戦争関係の議論でありがちな、自分の都合の良い情報収集でなく、資料を丁寧に読みほぐし、それを基に推論を重ねていく姿勢は、文系に対し「作者の気持ちを想像する」様なイメージを持っている理系志望の高校生にこそ、『社会科学も科学』だということを、この講義を受けている高校生同様に追体験してもらえるのではないでしょうか。そして、この講義に真剣に取り組む、聞き役の高校生達の質問や視点も素晴らしい。

この講義の目的は、みなさんの現在の日々の生活においても、将来的に大人になって社会人になった後においても、交渉事にぶちあたったとき、なにか、よりよき選択ができるように、相手方の主張、それに対する自らの主張を、掛け値なしにやりとりできるように、究極の問題例を挙げつつ、シミュレーションしようとしたことにあります。

という、著者が高校生に与えようとしたこと。それを是非受け取ってください。

自分にとっての幸せを探す


本への想いが溢れすぎてしまったので、もう3000字近いのでここからはしょっていきます。

有名人の書いた本から2冊。それぞれ柔らかい語り口です。陸上選手としてだけでなく「走る哲学者」としても知られている為末大さん『諦める力』と、予防医学研究者・石川善樹さんとニッポン放送アナウンサー吉田尚記さんの対談で進行する『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』

為末大さん『諦める力』、副題が『〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉』とある通り、従来の(古典的な)、努力を重視しがちなスポーツ指導と一線を画す、生き方そのものに迫っていく本。

『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』は、人生に怒る色々な問題について、対談形式で、主にアナウンサー吉田尚記さんが聞き役に成りながら、医師である石川善樹さんの知見を引き出していきます。

この2つの本に共通する思想は、環境とか人の目とか自分に帰られないモノや、自分が『こうでなきゃいけない』、あるいは『こういうことをしてはいけない』と思い込んでいたこだわりを外して、自分自身と向き合うこと。『諦めること』は、敗北や、無責任に放り投げることでなく、自分自身と向き合うために、また自分の新しい可能性を探る余地を広げるために、余計なものを手放すということ。それを科学的な見地でつまびらかにしていくのが『どうすれば幸せになれるか考えてみた』。

この2冊は、悩み多き思春期の悩みの扉を開き、心を軽く、そして自分らしい新しい挑戦へと誘う、そんな本になるとおもいます。

世界全体を俯瞰する本

この2冊は時間をかけて読んで欲しいというか、間違いなく、時間がかかります。

長谷川愛さん『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』と、山本貴光さん『「百学連環」を読む』。それぞれ、今年の本と、日本に最初に学問が入ってきた本、新旧の両極端から1冊ずつです。

長谷川愛さんはモデルの方とは別の方です。アーティストとしても研究者としても活躍される長谷川愛さんによる、マサチューセッツ工科大学と東京大学で教えた講義、SDGsや生命倫理などの問題に触れながら、『社会』全体を『革命』していく一冊です。『「スペキュラティヴ・デザイン」とは、およそ10年前に生まれた、越境的かつ批判的なまなざしを持ち、問題解決ではなく問題提起に注力していくデザインの「態度」のこと』であり、根本的な問いから始まるアートやデザインを通して

実世界を認識し批評的に見つめる洞察力、オルタナティブや可能性を思索する想像力、サイエンスやエンジニアリングによる開発力、社会につなげていく実装力、この4つの力を育てることで、まだここにない未来をいま提示する勇気をあなたに授けます。(商品紹介より)

とあるとおり、社会を変えるための社会の見方と洞察力を高めてくれます。巻末にワークのためのカードがあり、アーティストの思考法を体験することも出来ます。

山本貴光さん『「百学連環」を読む』。西周という人を聞いたことがあるでしょうか。日本に西洋の学問を導入し、それまでに日本になかった近代学問の概念を日本語に訳し、西洋文明を導入する礎を築いた方です。この人がいたから、私たちは日本語で高等教育を受けられるようになったといって過言ではないでしょう。その、西周が、西洋の学問全体を俯瞰し、それぞれの意味するところを検討し訳語を当てはめていき、『世の中の知識の見取り図』を提示したのが『百学連関』。その僅か30ページの書物を450ページに亘り、徹底的に精読したのが『「百学連関」を読む』です。著者の山本さんの語り口が学生に話すような、とても丁寧で優しい語り口なので、大学の講義を聴いているように読み進める中、一つの本と徹底的に向き合うという『精読』のスキルが身についていきましか。

 もちろん、本の内容としても得られる示唆は大きく、そもそも『理系』『文系』と当たり前のように受け入れ、『国語』と『数学』がなぜ別の科目なのか、なんてこと自体考えたりすることはないでしょう。しかし、案内役である著者の山本さんはこう書いています。

それぞれの学術領域が分かれてあることは、はなから当然のことに過ぎず、なぜそのように分かれているのか、それぞれの学術はどのように連環しあっているのかという視点や問題意識はほとんど失われているように思われます(そうでなければ幸いです)。 果たしてそれでよいだろうか。大丈夫だろうか。いや、むしろ細分化が進めば進むほど、知識が増えれば増えるほど、その全体を見渡すための地図が必要なのではないだろうか。一つにはそんな関心から、「百學連環」をじっくり読んでみるということに取り組み始めました。そこには、新たな地図をつくるための手がかりがあるのではないかと思ってのことです。

なぜ、今のような学問の分け方になったのか、これから、『理系』『文系』あるいは、そこから『理学部』『農学部』『工学部』『経済学部』『経営学部』『法学部』『文学部』『社会学部』『心理学部』『水産学部』『環境学部』『情報学部』、、、と『専門』に向け、どんどん派生していくのが高校生という時期です。

その高校生の時に『そもそも、今の学問分類にとらわれる必要があるのか?』を疑ってみる。そして、『新たな地図』を作るために、原点に立ち返ってみる。そんなことを時間のあるときにしてもよいのではないでしょうか。

スキルを身につけるなら

今まで、視野を広げる、世界観を組み直すというような本を中心に選んできました。とはいうものの『役に立つ、身につくスキルを身につけたい』という意欲もあると思います。

スキル的なものは、個人の状況によって違います。だけど、敢えて、共通するスキルを取り上げれば、それはコミュニケーションであり、『伝える力』ではないでしょうか。

そこで、定番中の定番、30年以上読まれているベストセラーですが本田勝一さんの『日本語の作文技術』を最後にあげておきます。大学でも、1年生で「とりあえず、これを読んでおけば大丈夫」とテキストとして渡す教授モイルレベルの定番ですし、中高生でも十分に理解することが出来る教科書とも言え、その上で、ベテラン記者のような人が振り返って何度も手に取るような、そんな本です。

「目的はただひとつ、読む側にとってわかりやすい文章をかくこと、これだけである」

と、述べられているように、まさにそれに向かって、句読点の打ち方や、文の語順、修飾語の関係などを解説しています。少なくとも、『主語と述語』という英文法的な考え方でなく、『日本語の根幹は動詞』であり、「『動詞』に向かっていかに情報を整理して集めるか」というアプローチを汁だけで、自分の文が劇的に変わります。

さらに欲をかけば

木下是雄さん『理科系の作文技術』を読んでおけば、日常でも、仕事でも、日本語文章で困ることは一生ないと言いきれます。もし、私の文章が変なところがあるな、とおもったら、それは、私がこの本をちゃんと読んでなかっただけです。

そのくらいの一生モノのスキルが身につきます。

終わりに

ずっと家にいるときが滅入ると思います。でも、せっかくの与えられた時間でもあります。家の中、自分の部屋からでも、世界の広がりを感じられる、そんな本を紹介したつもりです。

本は、どんな場所にいても、過去にも未来にも世界にどこにも行くことが出来る娯楽です。

是非、この時間を有意義に、そして、『楽しく』使って欲しいと思います。

紹介した本が、その一助になればいいなと願います。

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