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『発酵を学ぶということ』の多様性 文系・理系・アートの狭間に

今日は発酵を学ぶ多様性という話。noteを見ていたところ、(リンクを張ろうかどうか迷いましたが、直接張ることは避けます。)現役の大学生でしょうか。

「私は発酵を社会との関わりから学びたかったのに、理系の発酵学科に進学してしまった。苦手な理科の実験に取り組むのは苦痛でしかない。せっかく、理系に来たのに、流通系のゼミで社会学的なことを卒論にする。でも、それが自分のしたいことだ。」

というような内容でした。(読み違えていたらごめんなさい。)そう、発酵って、文系・理系、両方の切り口があります。もっといえば、芸術、アートとしての切り口だってあります。

私も、「発酵について教えて欲しい」「発酵について喋って欲しい」という依頼をよく受けます。ただ、そのとき「発酵について知りたい」というのが、実は千差万別です。

 私も、講演の時など、ここの擦り合せをちゃんとしないと、主催者、私、お客さんの以降が微妙に食い違って、余り盛り上がらない講演になったりします。

最近は、それが分ってきたので、「今日のお客さんが求める「発酵について喋って欲しいこと」ってなんだろう?と、打合せ段階、そして、最初10分ぐらいの感触で話す内容を微調整するようにはなりました。

さて、どのような『発酵を知りたい』があるのでしょうか?

「発酵が培ってきた日本文化を知りたい」であれば、それは学校の教科でいえば「日本史」になりますし、大学の進学先としては史学科というとこになるでしょうか。

あるいは、「発酵が培ってきた地域の人との関わりを知りたい」であれば、学校の教科では「地理」になりますし、大学の進学先としては社会学になってくるでしょうか。

「発酵という産業の成り立ちを通して、地域のまちづくりや経済を考えたい」であれば、学校の教科でいえば「政経」「現代社会」あたり、そして、大学の進学先としては、政治学や経済学あたり、

「発酵食品を日常の食生活に取り入れる料理の方法を知りたい」であれば、学校の教科でいえば「家庭科」ですし、大学では家政学部

「発酵食品をとるとなぜ健康になるのかをしりたい。健康に活かしたい」であれば、学校の教科でいえば「保健」で、栄養学部や保健学部でしょうか。

「発酵食品が製造されるメカニズムや製造技術を知りたい」「発酵食品に関わる微生物の働きや動きが知りたい」であれば、学校の教科であれば「生物」で、大学では農学部

「発酵食品を中心にした資源循環や地域環境から学びたい」であれば、学校の教科であれば「地学」で、環境学部や資源学部といった学部でしょうか。

さらに、その微生物の働きをより分子レベルでおっていくと、学校の教科でいえば「化学」であり、理学部の範囲に入ってくることもあります。また、実際に製造現場でトン単位の製造を行うようになると、工学部の知識も必要になってきます。最近では、コンピューターによるデータ解析も進んでおり、情報学も触れておく必要もあるでしょう。

また、角度を変えていくと、「日本の発酵文化を世界に発信したい!」であれば、絶対に外国語は必要です。

そして、

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これは、当社の宣材写真ですが、「発酵の美しさを表現する」「発酵を切り口に社会をデザインしていく」ためには、芸術学部で養われるアーティスティックな感性だって、必要になってきます。また、いわゆる『デザイン思考』もアートを学ぶことで養われるでしょう。『発酵』×『デザイン』については、超専門家の小倉ヒラク君がいるので、これ以上はそちらに任せます。


全部が繋がっています。


『発酵を学ぶ』ということ


『発酵を学ぶ』というのは、全方位外交だと思います。発酵を知れば知るほど、発酵に関連する、様々な分野の知識が必要になって、「社会学」「歴史学」「生物学」「工学」「経済学」「農学」「理学」「地学」「文化人類学」「芸術学」「栄養学」「家政学」「保健学」、いろんな分野の知識が、頭の中で、ゆっくりと有機的に結びついて、新しい価値や視点が生み出されていく、それが『発酵』を学ぶということだと思います。

そう、まるで、麹菌や酵母菌や乳酸菌が生産した、様々な物質が時間をかけて絡み合って、一つの発酵食品を作り上げていくように。

だから、最初に紹介した学生さんには、決して、理系にいた時期が無駄になったとも思わないで欲しい。社会学的切り口でも、ある程度まで行くと、絶対に理系の知識が必要になります。

というより、生物学、微生物学的な根拠と理論を持ってないと解釈できない場面が来ます。そして、技術を知らないで文系知識だけでやろうとすると、壁にぶち当たる場面が絶対来ます。

そのとき、今苦手に感じていた、でも、それを知識として学んでおいたこと、微生物の扱いを技術として持つということの感覚、センスが養われていることが、きっと助けてくれます。

実際、生物学的知識が無いために、肝心の所が「空想」や「思い込み」で、雰囲気で処理してしまう人、時には誤った知識の記事を書いてしまう人、たくさんいます。でも、ちゃんと発酵の専門学科で、技術を、そして、生物学の基礎理論を学んだ経験を持つなら、一段上のレベルに必ずいけます。

苦手なことは、無理してやらなくていい。得意なことで勝負すればいい。でも、苦手なことも、タバコの副流煙を吸うように、少しでも吸っておけば、自分の得意と化学反応して、幅を広げてくれます。

全ての分野に精通している人なんていません。だからこそ、『発酵』に関して、どういう掛け合わせを自分が持っているかが大切。それが、自分にしかない強みであり、自分にしか出来ないことが、きっとそこにあるはずです。

苦手なことでも、実際にやってみたということが大事。さらに、苦手なことがあると言うことは、それが得意な人やその分野に対して、敬意を持てるということ。苦手意識は、是非、そういう風にポジティブに変えて欲しい。

苦手だからこそ、自分が不得手な分野の人に対して敬意を払えるようになります。自分が苦手なことを痛感した、そして、それに敬意を払えるようになった。それは一生の財産になっていきます。

発酵の切り口は無限にあるので、自分が興味を持って得意とする切り口で、発酵という業界に関わっていただけるのなら、発酵業界に少しだけ早く入った人間として、とても幸せです。一緒に頑張りましょう。そして、楽しみましょう。


今日の話はここまで。

そして、発酵に関心を持っていただいた若い皆様に心からの感謝と、エールを込めて。

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683