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現代人が、趣味として『麹をつくる』意味 vol.2 『発酵とはチームマネジメント』

現代人が、趣味として『麹をつくる』ということの意味合いについて、自分なりに思うところを書いてみるシリーズです。

発酵とは環境を整える作業

ところで、そもそも、「発酵」ってどういう意味合いを持つ現象なのでしょうか。

私は、その一つの説明は、「微生物が活動しやすい環境をコントロールする作業」という説明です。

様々な微生物が、これまた様々な環境で生息しています。我々の生活環境に近い条件で活動する微生物もいれば、海底の奥底、火山の噴出口など、我々からすると極端な環境で生息する微生物たちもいます。

切り口としては、酸素があるかないか、温度が高いか低いか、水分が多いか少ないか、pHが高いか低いか、、、、といった観点で、微生物はそれぞれにとって好ましい環境が存在します。

そして、発酵という作業は「なるべく目的とする微生物だけが活動し、目的としない微生物は活動しないような環境を人為的につくり出す行為」とも言えます。

麹をつくるために温度を整えたり、適正な水分になるようにしたり、あるいは、味噌造りなどでは塩分を投入したり、清酒造りでは乳酸菌などを活用してpHをコントロールしたり、、というのは、「なるべく目的とする微生物だけが活動できるように環境を整える作業」と言うことが出来ます。

そして、私たちが発酵食品を作るとき、私たちは原料を混ぜることしかできません。例えば、味噌を造るときは、塩と水と麹と大豆を混ぜることしか、人間には出来ません。

混ぜた物を、味噌にしてくれるのは、麹菌、酵母菌、乳酸菌などの微生物たちなのです。

発酵とはチームマネジメントだ


さて、発酵食品づくりで身につくマネジメントについて書いていきます。

自分に出来ないことをやってもらうマネジメント

”私たちが発酵食品を作るとき、私たちは原料を混ぜることしかできません。例えば、味噌を造るときは、塩と水と麹と大豆を混ぜることしか、人間には出来ません。”と書きましたが、

リーダーである自分に出来ないことを、プレイヤーにやってもらう、その成果を信じて待つ、という感覚を養うのも、発酵食品づくりで養える感覚だと思います。

VUCAと呼ばれる不確実な時代の中で、多様性ある個人を率いなければいけない現代のリーダーは、自分が精通していない分野、自分が出来ない分野の人材も活躍させなければいけません。一人の人間が全ての分野に精通することは無理です。

すなわち、『名プレイヤー=名監督』ではありません。自分に出来ないことは、任せるしかない。

まず、マネジメントの第一歩目、『自分に出来ないことを信じて任せる』と言う感覚を身につけるのは、できあがりを微生物に任せるしかない、発酵食品づくりで養える感覚だと思います。

命令で動かすのでなく、環境を整えて動いてもらうマネジメント


そして、それぞれの微生物たちは、『自分たちが味噌を造ろう』と思って活動しているわけではありません。それぞれの微生物たちは、自分たちが勝手に活動していて、その、『勝手な活動の結果の集合』が、結果として、発酵食品になっているわけです。

これは、人間組織にも置き換えることが出来ます。

個々の構成員に対して、上意下達で「この目的のために、あれをしなさい、これをしなさい」と命令をして成果に向けて動かしていくマネジメントがあるとしたら、

発酵のマネジメントは、「個人個人の自由な行動を、統合することによって、チームの成果に繋げる」タイプのマネジメントと言えます。

あくまで、個々の構成員は自分のために動くのですが、でも、それを足し合わせることによって、望ましい結果が自然と産まれてくる、というのは、多様性の時代に相応しいマネジメントではないでしょうか。

そして、個別の微生物が力を発揮できる環境を整えるように、一人一人の力が発揮できるように環境を整える。

相手を動かすときに、命令で直接的に動かすのではなく、環境を整えることで自然と力を発揮してもらう、という間接的なアプローチ。

これは、練習しないとなかなか難しいスキルです。特に、『社会を変えたい』『相手を変えたい』という意欲の高い人ほど、『直接に人を動かしたい』という焦りを抱えやすく、上意下達な命令型のリーダーシップになりやすいです。結果が出なくて相手を信じ切れないと不安と焦りが募ります。

「リーダーは環境を整えること、あとは、相手が動いてくれると信じるしかない」という、相手に委ねるリーダーシップは、結果を待つまでの忍耐力と相手を信じる心が必要です。

ただ、これは、私は、スキルとして身につくと思っています。そして、それを身につけるのに、「環境を整えたら麹菌を信じる」という麹づくりは、なかなかに優れたワークだと思います。

『個々の自分たちのために』を統合するマネジメント

また、”『個々の自分たちのために』を統合して結果を出す”と言うのも、正直、なかなか難しいスキルです。

メンバーの『自分のために』を上手に組み合わせて、チームとしての結果に結びつける仕組み作り、あるいはチームとして目指す結果に対して、メンバーの個人のモチベーションとの接点を作っていくシステム作りをするという、リーダーシップとしてのスキルが必要です。

これも、私は、スキルとして身につくと思います。

これは、麹づくりから更にステップを進めて、並行複発酵(←今回はこの言葉の説明はしないです)の食品づくりから学ぶことが出来ます。

乳酸菌、酵母菌、麹菌など複数の微生物が、それぞれは勝手気ままに活動しているのだけど、その活動の組み合わせが、実は、自然とpHコントロールになっていたり、それぞれに栄養を補給する関係になっていたりと、まるで、チームワークがそこに予め存在していたかのような動きをする。

これが、日本の発酵食品づくりの魅力であり、リーダーであるなら、チームマネジメントとしても大いに学ぶところがあります。

それぞれ異なる個性あるプレイヤーが、それぞれの持ち味を統合できるシステムを設計し、それぞれに持ち味を発揮できる環境を整え、環境を整えたら、あとはプレイヤーを信じて見守っていく。

発酵食品づくりを通じて、こういうマネジメントスタイルが身につくのではないでしょうか。

まとめ

まとめると

・自分の能力では出来ないことを、やってもらうと言うマネジメント

・相手を命令で動かすのではなく、環境を整えることで相手に自然と動いてもらう、『信じて待つ』マネジメント

・自然と発揮された個々の能力の発露を、上手に統合して全体としての悔過に繋げる仕組みやシステムを作るというマネジメント

これを学ぶことが出来るのが、現代人が趣味として麹をつくることの意義で在り、麹づくりから学べる態度の一つではないでしょうか。

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