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当たり前なことなど何ひとつもない『精霊の守り人』

こんにちは、石川由弥子(ゆみこ)です。

みなさんは本屋に行く時はだいたいこのジャンルを見る、と決まっていますか?私はベストセラーの棚をみて、新刊の棚を見て、と回るルートが決まっています。 私は長年電子書籍の会社でお世話になっていたのですが、普通の本屋さんでは見ないコーナーの作品に出会うことが往々にしてあります。それが、今回紹介する作品、上橋菜穂子さんが書かれた児童文学書『精霊の守り人』です。

今日は、電子書籍だからこそ出会えた、大人が読んでも十分面白い、小説『精霊の守り人』をご紹介します。

『精霊の守り人』のあらすじ

舞台となるのは、異界と人の世界が交錯する世界 ── 。
腕ききの女用心棒・バルサはある日、川におちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを助ける。チャグムは、その身に得体の知れない“おそろしいモノ”を宿したため、「威信に傷がつく」ことをおそれる父、帝によって暗殺されそうになっていたのだ。
チャグムの母・二ノ妃から、チャグムを守るよう依頼を受けたバルサは、幼ななじみの薬草師・タンダの元へ身を寄せる。そして、バルサとチャグムは、タンダとその師である呪術師のトロガイから驚くべきことを告げられるのだった ── 
チャグムに宿ったのは、異界の水の精霊の「卵」であること、孵化まで守らないと大干ばつがおこること、そして、異界の魔物がその「卵」をねらってやってくること ── 。
帝のはなつ追っ手、さらに人の世の力をこえた危険から、バルサはチャグムを守り抜けるのか? バルサとチャグムの出会いから始まる、「守り人」シリーズの第1作。

『精霊の守り人』のおすすめポイント

主人公は女用心棒のバルサ。彼女がひょんなことから第二皇子・チャグムを助け、縁ができたところからこの物語が始まります。バルサの生き方や価値観がとても素敵なのですが、今回はたった1冊の物語の中で大きく成長したチャグムについて書いていこうと思います。人との出会いを通して、人として大きく変化していく皇子・チャグムからみる、本作のおすすめポイントをご紹介します。

1.身分が人を創るのか、環境が人を創るのか

バルサと初めて出会った時のチャグムは、帝の子どもとして育ち、「神の子」として生きていました。当然、自分で着物を着ることなく、体も人に洗ってもらってもらい、何一つ自分で行うことはありませんでした。しかし、命からがら脱出してきた後では、皇子としてではなく一般人としていきることになります。

父君と母君の子であることが、決して変わることがないように、皇子であることも、けっして変わるはずのないものだ、と昔は思っていた。だが、なんとたやすく、皇子でなくなってしまったものか!身分など、いくらでも変わりうるものなのだ

12歳にして、自分の身分の不安定さに気づき、それがいかに当たり前ではなかったのかと知ります。

野宿もしたことがない、宮中言葉しか使えない、体力だってない。そんなところから、チャグムはこの旅の中で大きく自らを変化させていくのです。チャグムを見て思うのは、本当に人はどこに身をおくかで変わるということ。身分によって人が作られるのではなく、あくまでもどこで生きるかだなと強く感じました。

2.人は1人では生きられない

宮中にいることから多くの人にお世話をされ、大切に育てられてチャグムですが、亡命の旅の中では、追手から命を狙われます。危機的状況を切り抜け、バルサの古くからの友人で薬草氏のタンダの家でしばらく息を潜めることになります。

そこでチャグムは生きることは命をいただくことや自分の身は自分で守ることなど、宮中にいては触れることのなかった「当たり前のこと」を学んでいくのです。

チャグムは決して1人で生きているのではなく、自分を大切にしてくれる人たちや自然の恵みのおかげで、決して当たり前のことではないと改めて気づきます。

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人との出会いが世界を広げる

チャグムとの長い長い旅を通して、人と出会って歩み寄ったり、関わり合ったりすることで、人はどこまでも大きく変化できるものだなと感じました。自分の置かれている状況を俯瞰できたり、自分の過去や感情を受け入れることができたり、1人だけではできないことって意外とたくさんあるもの。自分の住んでいる世界が、全ての世界ではないと知ることもとても大切です。小さな世界で生きていたチャグムも、バルサやタンダと出会い、生活を共にする中で、より思慮深く、逞しくなりました。何ひとつ当たり前ではないこと、今ある状況に感謝すること。

私も人と出会うことを億劫に思わず、人との出会いを通して、自分の世界を広げていきます。

ではまた〜

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