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探偵の尾行より怖いホームパーティー

「あなたは探偵に尾行されたことがありますか?」
と聞かれたらほとんどの人は「ない」と答えるのではないかと思う。

ある日、なんとなく気が合うメンバー6人がホームパーティで集まっていた。

6人は性別も年齢も職業もバラバラである。

その時、なぜその話題になったのかはわからないのだが、
「探偵に尾行されたことがあるか?」の問いになんと6人中5人があると答えたのだ。

なんなんだ……このメンバーは! 大爆笑であった。

かく言う私もその1/5に入っている。
自然の流れで、それぞれがなぜ探偵に尾行されたことがあるのかを語り始めた。

すでにサイドテーブルには空いたワインボトルが5~6本転がっていた。
皆テンションも上がり、饒舌であった。飲めない私だけは「シラフ」の特権を活かし、しばらく聞き手に回ることにした。

まず探偵尾行禄(備忘録風に)1人目……50代男性・会社役員
まぁ、ありがちな理由だ。浮気を疑った奥さんが探偵に依頼し、尾行されたとのことだ。
運よく白であったため、後から奥さんの告白により尾行の事実を知ることとなった。

探偵尾行禄2人目……40代女性・社長
旦那が嫉妬深く、会社社長である奥さんの会食でさえ疑っていたらしい。会食会場を出ようと外を見ると、窓ガラスに張り付いていた旦那を見かけてゾッとしたこともあるそうな。そんな旦那からの尾行依頼、こちらは旦那の行動パターンを把握している奥さんが即尾行に気付いたそうだ。

探偵尾行禄3人目……40代男性・会社員
当時離婚をしたがっていた元奥さん(現在は離婚)が、旦那側に否があればうまく離婚が出来るのではないかと、アラ探しの尾行であった。こちらは離婚時に元奥さんがもう時効よね、と話してきたそうだ。
なんとなくここで皆の目が私の方に向いたことに気が付いた。
まぁ、皆話をしたのだし、私も仕方がないかと話すことにした。
だが、シラフの私は話を面白おかしく話すようなノリでもないので無難に済ませようと思ったのだが……

探偵尾行禄4人目……40代女性・会社員(私である)
当時離婚をしたいと切り出した私に元旦那(現在は離婚)が疑いを持ったようだ。
ある日、私の視界になぜか風景として同じ人物が入ってくる!
そう、探偵だ! しかも素人の私が感付くようなバイトレベルのかなりポンコツ探偵! その日は新幹線に乗る用事があり、わ・ざ・と(ハート)反対の新幹線に乗り、出発直前にポンコツ探偵を新幹線に残して飛び降りた。ようするに「巻き」作戦成功ということだ。

なぜか、この話はメンバーにすごくウケた。
良いねぇ、皆適度に酔っぱらってて(シラフな私の独り言)

ラスト……
探偵尾行禄5人目……50女性・会社役員
彼女が口を開いて出てきた言葉は、こちらが意表をつくものだった。

「実はね、私尾行されたのではなく、尾行したの!」

これには皆「えっ!? どういうこと?」という顔をした。

そして彼女はその時の状況を思い出しながら話を始めた。
どうやら「やんごとなき理由」があるようだ。
※やんごとなき=やむをえない、ただ事ではない

彼女は4人姉妹の長女、そして事の発端となるのは4人姉妹の末っ子ちゃん。
末っ子ちゃんの旦那の行動が最近あやしいらしいのだ。
そこで、動いたのは長女である彼女!
動きが素早い「長女&3女」が「歩いて尾行」組。
「次女&末っ子」は「車で先回り」組。
そして、見事なタッグで末っ子ちゃんの旦那を追跡した。
結果はもちろん【黒】
あっという間に現場も押さえ、相手の女性と話しをした上で、今度二度と会わないよう念書を取り、事を片付けてしまったというもの。
彼女の手腕にさすがと驚きの声が上がった。

だが、私は一つ気付いてしまったことがある。

今日のメンバー6人のうち探偵に尾行されたことがない人が1人いたはずだ。

その彼(50代・会社員)が、いつの間にか、いない……
「帰る」といった素振りもなかったが、いついなくなったのかシラフの私でさえわからなかった。

やがて、周りの皆も気付いて、ざわざわし始めた。

携帯電話にかけてみたが、電源は切られている。

「プルルル……」
一人の携帯電話が鳴った。いなくなった彼からか?いや違う。
どうやら奥さんからの電話のようだった。
電話口から「あなたこんな遅くまでどこにいるの?」甲高い声が聞こえてくる。

「ピコン、ピコン」
もう1人はラインの着信音が、急に止まらなくなっているようだ。
彼女は面倒くさそうに「もう……そろそろ帰らなきゃ」っと呟いた。
こんな変なタイミングで急に連絡が入りだしたことを変に思ったのか、誰かが
「ちょっと待って、もしかしたら今このホームパーティも誰かに尾行されていない?」と言い出した。

しばし沈黙となった。
その時「ガタンッ……」と少し大きな音がして、皆が一斉に、音の先であるリビングの窓の外を見た。庭に面したリビングの窓であった。
何の音だろう、少し怯えながらも一人が窓をそーっと開けた。
そこにいたのは家主が飼っている黒猫であった。
デッキの淵に座って、何かを訴えるような目で、窓の隙間からこちらをジーっと覗いていた。

黒猫ちゃんか、良かったと皆がホッとした瞬間、
猫の後ろから小さく「ニャー」という鳴き声が聞こえた。

この記事は天狼院メディアグランプリにも掲載されております

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