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春夏秋冬代行者(暁佳奈)


暁佳奈先生の作品は、

どれも私を支えてくれる大切な存在です。

本作も、

ヴァイオレットエヴァーガーデンに続き、

優しくて、暖かくて、少し神秘的な物語でした。

今回は「春夏秋冬代行者」

この上巻を元に暁佳奈さんの魅力を書き出して見たいと思います


概要
前カバー折り返しより

「春はーー無事、此処にいます」
世界には冬しか季節がなく、冬は孤独に耐えかねて生命を削り春を創った。やがて大地の願いにより夏と秋も誕生し四季が完成した。この季節の巡り変わりを人の子が担うことになり、役目を果たす者は"四季の代行者"と呼ばれたーー。
いま一人の少女神が胸に使命感を抱き、立ち上がろうとしている。四季の神より賜った季節は『春』。
母より授かりし名は『雛菊』。十年前消えたこの国の春だ。
雛菊は苦難を乗り越え現人神として復帰した。我が身を拐かし長きに亘り屈辱を与えた者達と戦うべく従者の少女と共に歩き出す。彼女の心の奥底には、神話の如く、冬への恋慕が存在していた。
暁佳奈が贈る、季節を世に顕現する役割を持つ現人神達の物語。此処に開幕。




人間の弱さを肯定してくれる物語


先生の描く世界に優しさを感じるのは、 

物語を通して、

間接的に私たちの弱さを肯定してくれるように感じるからだと私は思います。

本作の登場人物は皆、誰かに依存せずには生きていけない弱さを抱えています。

特に春の代行者の雛菊は、

幼い頃からたった一人の従者である姫鷹さくらだけを頼りに育って来たこともあり、

さくらに対する強い執着が見て取れます。

さくらの方も雛菊への想いは強く

それは、俗に共依存などとよばれる一般的には好ましくない関係性を示唆しています。

敢えて極端に言い換えてしまうならば、「メンヘラ」です。

しかしこの依存性は、現代社会では当然のように、

暗黙の了解として、矯正すべき弱さ、として捉えられています。

支えがなくとも一人で立つことのできるたくましさが、残念ながら理想とされる人間像です

しかし、人は誰もが一人では生きられない存在です

さくらと雛菊のようにはいかなくとも、

寂しい、という感情は誰もが平等に持っているはずです。

未曾有の災禍を経て、それを意識した人も多いのではないでしょうか。

現実世界は往々にしてそんな矛盾を孕んでいます。

私たちは外に発信できない自分の脆さを隠しながら、

強い振りをしなければならないことに無意識的に疲れている。 

私はそう考えています

その上で、

暁佳奈さんがすごいのは、

そんな閉塞感を優しく解きほぐしてくれるところだと私は思います

雛菊と、さくらの会話の一節にこんなものがありました

愛を唱える娘と、愛を乞う娘の間にあるのは恋ではない。
「だから、大丈夫だよ」
「……はい、雛菊様」
恋ではないが、恋よりも激しく、愛よりも純粋で。
「さくらは、貴方がいれば大丈夫です」
やはり少し壊れていたが、二人の間では正常な感情だった。


――二人の間では正常な感情だった――

どんなに壊れていようと、

客観的には、世間的には不適切な感情だろうと、

間違いのない気持ちだと思うなら、

大切にしてもいいんだよ

そう励ましてくれているような気がします


このように、あるべき人間像としては致命的な欠陥を抱えた少年少女を通して、

私たちがあけっぴろげに吐き散らすことのできない、 

沈黙のままの寂しさの蓄積を、

優しく受け止めてくれているようなシーンが多々あります。

あとがきにこんな言葉がありました。

心ない誰かに生存やあり方を否定されたとしても、
諦めなければいつかは同じ寒さを抱えた人や作品と雪夜にあえるかもしれない。
そして『また戦おう』と、思える日がくる。
そういう希望を届けたかった。

 

耐え忍んで戦機を待つ』、

そうすれば、いつかは報われる日が来る

私もそう思います

先生が届けたい思いには、

誰かに否定されても

自分だけはその弱さを肯定し、大切にして欲しい

という優しい想いがあるのかもしれない

その暖かいお人柄が、登場人物に自然と浸透しているのかもそれない。

それこそが、先生の作品に感動する要因なのかもしれない

そう思います





真に迫った心理描写


先生の作品には、緊張感を持ったシーンで、

登場人物の心の中での掛け合いが多く見られます。

ダッシュの記号を巧みに使い、

二つの視点から交互に掛け合う心理描写です。

本作からも、さくらの独走を一つ引用させていただきます。


この少女神への忠誠心は本物だと、

今、この瞬間再確認できた。

――病める時も、健やかなる時も。

義務感とは違う。

――喜びの時も、悲しみの時も。

使命感とは言い難い。

――富める時も、乏しき時も。

しいて言うならば、これは運命で。

――貴方を守り、貴方を敬い。

真実のところ、これは信仰で。

――貴方を慰め、貴方を助け。

そして信仰を捧げるべき相手はまさに神で。

――命ある限り、貴方のために戦うことを誓う。


リズミカルな調子から切迫感が生まれ、

読み進める内に、

読者は話し手の感情の昂ぶりに共鳴していき、

まるでさくらの想いが自分自身のものであるかのように感じます

何かしらの文章術なのかは分かりませんが、

心理描写に緊張と高揚を持たせる

先生の得意技だと勝手に思ってます。


以上、むっちゃむっちゃおすすめです

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