「東京大学×アート」プロジェクトに参加した話

ある夏の暑すぎる日、オーバーヒートして働かない脳を急激に覚醒させたツイートがあった。

アートと研究…だと…?

近年よく見る、アートとプロダクトを掛け合わせて相乗効果を創出するマーケティング(例えば鉄道娘だとか)に興味を抱いていたわたしは、脊髄反射で参加申請のリプライを飛ばした。

高井伸さんの発信から参加させていただくことになった、この「東京大学×アート」プロジェクト。詳細は以下、高井さんの素晴らしいnoteをご覧頂きたい。

要するに、

無機材料科学の研究者/桂ゆかりさん設計の「STARRYDATE webシステム」を、アートでアウトプットし、一般消費者が直観的に分かるようにしてみよう!

という、とても革新的なプロジェクトである。
STARRYDATEについての詳細説明は、以下に桂さんのご解説をご覧いただければと思う。

ところで、一瞬話が脱線するが、わたしはプロデューサーである。
映像広告の企画制作と、それに連動した販促施策の運用を得意としている。媒体を問わず、広告というモノが好きで好きでたまらないプロデューサー、それが私、志村ユウカである。

本プロジェクト参加後、DMで交わされた会話の中で、桂さんが以下のメッセージを発信された。

我々研究者のやっている研究ってごちゃごちゃしてて難しくて、人の心に全然届かないので、もっと違う形にできないかなって思ってました。

なるほど。
なるほど。

「伝わりにくいものを、アート=クリエイティブの力を借りて訴求する」…

広告と同じ原理だと気付いて、俄然やる気が出た。

早速「STARRYDATE webシステム」について調べ始めたところ、即、ある壁にぶち当たった。

そもそも、データって、なんだ?

「昨年のデータください」だとか「データベースから引っ張ってきます」だとか、毎日のように使っている単語である。しかし、いざデータをアートとして可視化しようとしたとき、その本質がまったく分からなかった。

『大日本百科事典』(小学館, 1980)は、データという言葉を次のように定義している。

データ(data) : データム(datum)の複数形で、「論拠・基礎資料、実験や観察などによって得られた事実や科学的数値」などを意味する。「与える」意のラテン語ダーレ(dare)の受身形からでたもの。

漠然と、「データ」という単語は、「数字」だったり「コンピュータが処理する情報」だったり、何かしらの理数的情報と漠然と認識してきたが、元来データという単語は「客観的かつ再現性のある事実/数値」という意味らしい。つまり、必ずしもコンピュータ分野の専門用語というわけではなかったということだ。
語源となったラテン語のdare(発音/ˈdɛə(r)/)について調べてみると、この単語は「与える・提供する・供給する」という意味もあり、これらの事実からわたしは以下の仮説を導き出した。

「データ」とは、「判断材料とするために得られる知恵」である、と。

おそらく、世間一般における”データ”に対する理解度は、わたし同等なのではないかと感じた。手足と同じように、多くの人にとって、気付いたらそこにあって、気付いたら使い方を意識しなくても使えている存在。
そこで、「データ」への理解度が低いわたしのようなクラスタ向けのクリエイティブを創出したいと考え、一般消費者が「なんか、いい感じじゃん」と興味を持てるようなSTARRYDATAのアイコンを作ることにした。

制作に入るにあたり、現状コンピュータ分野を表現する場合、どのようなイメージが多用されているかを調べてみた。

「オーケーグーグル、データのイメージを出して」

検索結果は、グラフや回路が大多数。どことなくサイバーなアートワークで、いかにも理数系!なオーラが漂っていた。
これらを目の当たりした結果を、恥を忍ばず述べようと思う。

小学4年生で数学アレルギーを発病し「さんすう」から先に発達できなかったわたしの脳ミソは、右折時にクラッチ操作を誤ったバイクの如くエンストした。

もしかしたら「データ」という概念への理解度が低い層には、わたし同様理数アレルギーを持っている人もいるのではないか。そう考え、アウトプットの完成形は「かわいらしく、親しみがある」クリエイティブにしようと決意し、制作を開始した。

まずは、データ=理数系のイメージを前面に打ち出さない表現を考案する。
一般的に用いられるデータのモチーフとは、グラフや数字である。しかし、理数系アレルギー持ちにとってこれらのモチーフは、アナフィラキシーショックを起こしかねない。
よってこれらの要素を、以下に置き換えてみた。

01アートボード 1

そう、リンゴである。

ニュートンがリンゴをみて引力を見つけたと云われたり、キリスト教の禁断の実はリンゴという説があったりと、「知恵」の比喩表現として印象がある果実。データを「判断材料とするために授けられる知恵」と解釈するのであれば、持ってこいである。
何よりも、リンゴのフォルムは丸くやわらかい。おまけに、Apple製品のおかげで一般消費者にも馴染み深いモチーフである。つまり「かわいらしく、親しみやすい」という面でも、良い役割を果たす。
よってこのモチーフをメインとし、そこにSTARRYDATEの要素を落とし込んでいくことにした。

Starrydataプロジェクトは、過去に出版された膨大な論文から、グラフ画像中の実験データを抜き出すことにより、実験データのオープンデータベースをつくるプロジェクトです。

上記は、STARRYDA PROJECTのトップページにあるメッセージだ。
この一文を「知恵」という単語を使い、アートとしてアウトプットしやすいよう、文学的表現に置き換えてみる。

Starrydataプロジェクトは、過去に出版された膨大な論文から、グラフ画像中の知恵を抜きすことにより、知恵の泉をつくるプロジェクトです。

ここからさらに、リンゴ要素強めてみる。

Starrydataプロジェクトは、昔の研究者が書いた膨大な論文に描かれた「知恵の絵」の中からリンゴを拾い集めて、飲みたい人みんなが飲めるリンゴジュースをつくるプロジェクトです。

ものすごくアホっぽいと感じるだろうが、伝わりにくいものを直観的に伝えるためには、幼稚園児でも理解できるほど咀嚼するのがわたしの性癖である。お許し願いたい。

そして、上記から導き出されたモノが、以下である。

12アートボード 1

大きな書籍と光りを放つリンゴ、それを囲む手。

大きな書籍=過去に出版された膨大な論文
リンゴ=データ
手=ヒトの手

を表現しており、手の形は見た人がそれぞれの解釈をできるよう、あいまいでミニマルな形状にした。

リンゴを摘み出そうとしているようにも、
書籍に吸収させようとしているようにも、
書籍を支えようとしているようにも、
書籍を自分で読もうとしているようにも見えるのではないかと思う。

仕上げに、桂さんがSTARRYDATAに込める「想い」を味付けする。
プロジェクト名の由来、星空である。

トップデータだけを集めたデータベースは、一等星しか見えない都会の夜空のよう。けれども特性の悪いデータだって、星のように輝く努力の結晶。
そんな満天の星空のようなデータベースが作りたいと思いました。

上記メッセージを読んだとき、膨大な論文からグラフを読み解きデータを抽出するという作業は、壮大で無限の宇宙を手探りで旅するようなイメージが湧いた。

ひとりで宇宙を旅する。ひとりだけど独りではなく、先を歩んだ誰かがのこした「軌跡」を探して、辿って、自らの手がかりにして道を照らす。

そんなイメージをアウトプットする。

starydata_3アートボード 1

天体図と星々、そしてその中心で光を放つ、リンゴと論文。それを求める、或いは支えるヒトの手。

完成。

starydata_2アートボード 1

これが、わたしのアウトプットする、STARRYDATAである。

まとめようとした割に長すぎる文章になってしまったので、結びは短く、かんたんに。

素晴らしいプロジェクトを主催してくださった高井伸さん
そして、革新的な研究を進められていらっしゃる桂ゆかりさんに、
心より御礼を申し上げます。

貴重でおもしろく、学びのあるプロジェクトに参加させていただき、
ありがとうございました。

他の方々のクリエイティブは、随時高井さんのTwitterにてご紹介いただけるとのこと。ぜひ、フォローとチェックをお忘れなく。

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