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ローカル・モビリティの本質に迫る、7つの視座

現在、岡山・西粟倉で、地域おこし協力隊を活用した「モビリティセンター」立ち上げに向けた取り組みをしています。

モビリティセンターの事業化と並行して、ローカル・モビリティに関する調査・研究を並行して進めていく予定です。あくまで在野研究者としての活動がメインにはなりますが、私が住む西粟倉村には、2020年に立ち上がった(一財)西粟倉むらまるごと研究所があり、企業との実証事業をすすめています。また、「みんなでつくる中国山地百年会議」の主に中国地方5県の地域ネットワーク、それ以外の各地域でのプロジェクトなどを通じて、ここにあげるような7つの取り組みの研究をしていきたいと持っています。その経過やそこまでの成果は、次に出す『ローカル・モビリティ白書』などでも伝えていければと考えています。(出す出す詐欺になっていますが、来夏には必ず出します!)

あくまで現段階での7つの視点です。

テーマ1 定時社会だからこそ、マイカーを使う。この地方の現実にどう立ち向かう?

中山間地域でも企業雇用者が増え、「定時」という概念が当たり前となっている現代においては、(渋滞はあれど)マイカーは確実に時間が読める乗り物である。カーナビゲーションシステム(今やスマホ)のみで生きている中山間地域のモビリティ。ただそれだけに頼るのが良い姿だとは、私は決して思いません。この現実に、いわゆる公共交通MaaSの業界やプロジェクトはどう立ち向かっていくとよいのか。ある意味哲学的なポイントから議論を整理していく必要があるのではないかと思っています。

テーマ2 運転時間の経済的な価値とは?


最低賃金が上がるということは、ハンドルを持つことで奪われる時間の価値も当然高まっているわけです。今後もこの傾向は続いていくと思われますし、人口構成からするとハンドルを握れる人の比率も確実に下がっていきます。マイカーで動かざるを得ない中山間地の現実をどうとらえるか、中長期スパンの各種データにフォーカスしていく必要が急務ではないでしょうか。また他方、観光等で中山間地域を動くときなど、「非日常な今に、お金を使ってもいい!」と思えることは誰しもあります。そのような時に価値を感じられ使われる“ヒーリング・モビリティ”“ラグジュアリー・モビリティ”の可能性も、単なる観光需要という枠を超えて、時間価値の観点から考えたいところです。

テーマ3 モビリティには「役割」としての価値もある。(特に運転免許返納と関連)


高齢者に運転免許返納を勧めても、自分が運転する役割が家族や地域にあるから免許返納ができない、という意見を聞くことが増えてきました。荷物輸送や送迎といったヒト・モノのモビリティに紐づく「役割」論を整理し、地域コミュニティにおけるモビリティのしくみを設計することが必要だな、と考えています。なぜデマンド交通だけだとうまくいかないのか。もしかすると、その地域や人の「役割」や「関係性」を奪ってるからなのかもしれません。

テーマ4 モビリティとジェンダー論(母親への過度な「送迎」負担への警鐘)


子育て世代(地方の場合は高校まで)をはじめとして、子どもの移動は保護者に依存するケースが極めて大きいのが地域の現実です。特に母親は、自らも効率的に収入を得るため、(時給の良い)都市圏に近いところで働きキャリアアップも目指したいと思うのが現実。自ら&家族の移動や送迎に、多くの時間を割くことが多いこの「母親」の時間的という観点だけでは片づけられない社会から背負わされている負担感をどう減らしていけるか。特に当事者の方々と考えていきたいところです。

テーマ5 モビリティに対するその発言、地域の「困り感」か、あなたの「心配ごと」か?


中山間地域で地域の課題についてヒアリングをすると、ほぼ間違いなく出てくるのが「うちの地域は移動が課題で…」という言葉。私もそう思い込んでいました。ただ、よく聞くと、地域ではなく単なる個人の話しを地域の課題に勝手に(良かれと思って)発言しているケースも多いのが現実です。さらに、「困り感」と「心配事」では、よく似た話だけども、解決に向けた設計のレベル感や働きかける機関が大きく異なります。困ってないけど心配な人が多いのが地域社会の特徴。そのあたりに留意した解像度の高い整理が必要で、このあたりは交通と福祉、双方への制度的な理解が必要です。想いと思い込みだけでは整理できないことが、地域に住み活動する経験からわかってきました。

テーマ6 ローカル・モビリティの理論的整理と「臨床交通学」の提唱へ


交通に関する施策類を整理し、工学理論とエビデンスに基づいた新たな交通体系の仕組みを作る人たちへのリスペクトは、当然忘れていません。そのうえで、対人援助が専門の福祉専門職(社会福祉士・キャリアコンサルタント)として、一人ひとり(地域)のモビリティに対する困り感をもった暮らしを「臨床現場」としてとらえることが重要だと考えます。福祉職は、一人ひとりの困り感を「アセスメント」し「ケース会議」を行うことが仕組み化されています。また、さらに専門職も「スーパーバイザー」に自己研鑽として相談することで多面的に理解を深めています。このようなしくみを交通施策にも導入することで、福祉・心理学的観点からモビリティの課題を解決する「臨床交通学」のような体系づくりを共にできないか、そんな妄想も持っています。

テーマ7 「モビリティファースト」な社会をめざすには?


精神医療の分野で『ハウジングファースト』ということが言われています。これは、ホームレス支援や精神保健福祉の分野において、支援が必要な人たちに公的な連携支援策を考えるより先に、まずは「個室を確保する」ことを最優先し、安心安全を確保するという考え方です。私は自分自身のソーシャルアクションのひとつとして、『中山間地域で暮らすには、まずは安心できる安全な移動手段の確保が最優先』という『モビリティファースト』な地域社会をどうやって作っていけばよいのかを、常に頭に置くようにしています。そのための仲間づくりをどうしていけばよいかを、ともに考えて進めていきたです。

これからの予定

あくまでも狼煙をあげた段階ですので、まだまだご意見を頂いたりしていきながらブラッシュアップしていく予定です。西粟倉でのモビリティセンター立ち上げが一つ最優先としてありますので、実際の研究プロジェクト化については、2023年度に進めていければと思っていますが、予算取りやチームビルディングの時期でもありますので、このタイミングで挙げています。ぜひ、興味関心のある方は、個別にご連絡ください。


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