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エンゲージメントを高め、社員の多様性を活かす4つのポイント|聴き合う組織をつくる『YeLL』のnote

こんにちは。エール代表の櫻井です。
「エンゲージメントと聴く」について、いよいよ最後回となりました。

●第一回:「全体」を構成する「部分」が自らの役割を定義・認識できると、「部分」は「全体」の中でその役割を自然に果たそうとする
●第二回:個人のセルフ・アウェアネスが高まると、セルフと組織との重なりが増え、エンゲージメントが高まる

といったお話してきた中で、最終回の今回は

●セルフ・アウェアネスが大事なのはわかったが、具体的にどうすればいいのか。
●多様な人材が活躍するために押さえるべきポイントはなんなのか。
●なぜそのために「聴く」が必要なのか。

という問いに対して、書いていきたいと思います。

まず最初に、最近感じている2つの変化について書いてみます。
日本を代表する大企業や、成長著しいベンチャーをYeLLでサポートする中で、特に、ミレニアル世代が組織の中核を担うようになり、Z世代の割合が増えている組織ではより強く感じていることです。

1つ目は、「企業と個人の関係性」についてです。
これまでの制度や社会通念では「働く = 企業に『所属』する」という従属関係が前提であったように思います。

労働基準法や、終身雇用・年功序列といった制度はもちろん、社会に流れている通念が「所属」が前提になっているのではないでしょうか。
一方で、個人の価値観では「働く = 企業に『関与』する」というフラットな関係を望む人が増えてきているように感じます。
この傾向は、特にミレニアル世代やZ世代はより強いと感じています。

5年ごとに実施される総務省の調査(最新は2017年ですが)では、副業を希望する人、実際に雇用されている人は増えており、副業・フリーランスのマッチングプラットフォームへの登録者も増加傾向にあります。

企業側も、副業人材やフリーランスの人材を「作業の外注」ではなく、正社員と同等の仕事をする「パートナー」としての関わりを希望する会社も増えているのではないでしょうか。
一部のベンチャーなどでは、制度も含めて上下関係である「所属」からフラットな関係である「関与」ということが前提の制度設計をされているケースもききます。
例えば、全員が業務委託の会社であったり、副業OKではなく副業推奨、という会社も出てきています。

2つ目は、「多様性」についてです。
「多様性を大切にしよう」という意見に対して、あまり反対する人はいないと感じていますが、一方で、ここで言う「多様性」とは何なのか?ということが、人によって解釈が違っているのではないでしょうか。
要は「多様性とは何か?」という定義が曖昧なまま議論が進んでいる気がしています。

エンゲージメント視点で語る人も「お互いの違いを大切にしようね」と言うし、ダイバーシティ&インクルージョン視点で語る人は「多様性を認め合い、そして活かし合おう」と言います。
総論は賛成多数だと思いますが、実際に組織の現場に落とし込むのはとても難しいことではないでしょうか。

お互いの違いって、どうやって認め合うのか?その違いを活かし合うって現場ではどうやるの?に明確な解はまだないように感じています。
私としては、「多様性を活かし合う」という議論の前に、「多様性とは何か?」ということを明確にしないと議論が深まらないのではないかと思っています。

上記の感じていることを踏まえ、本題に入っていきます。
まずこちらの問いについて考えていきます。

●セルフ・アウェアネスが大事なのはわかったが、具体的にどうすればいいのか。
●多様な人材が活躍するために押さえるべきポイントはなんなのか。

セルフ・アウェアネスを促し、多様な人材が活躍するための仕組みって何だろう?と考えると、私はリクルートさんが生み出した素晴らしいフレームワーク「Will-Can-Must」が真っ先に頭に浮かびます。
リクルートさんのHPには、このようなことが書かれていました。

社会に新しい価値を創造していくために、個の尊重から始まる。
一人ひとりの好奇心が、抑えられない情熱を生み、それが価値を創る。
私たちは、個の情熱に投資をする。

この前提から一人ひとりのWiil-Can-Mustの3つの円が重なるところで働こう、という発想が生まれていると理解しています。
これは多様性を認め、活かしていくという意味で、とても素晴らしい仕組みだと思います。

一方で、このフレームワークは「働く = 企業に所属する」という前提の上で考え抜かれた制度であり、ツールなのではないかとも思っています。
時代が「所属」ではなく「関与」に移っていく今、より効果的にこのフレームワークを使うために、こうしたら良いのでは?というポイントを4つほど書いてみたいと思います。

1.会社とは関係のない1人の人間としての自分と、会社に関わる自分とを分けて考えること
2.Willは、事ではなく、価値観・信念・セルフイメージを扱うこと
3.Canは、できることはもちろん、できないことを明確にすること
4.役割(Role)を名詞ではなく動詞で考えること

Point 1.会社とは関係のない1人の人間として自分と、会社に関わる自分とを分けて考えること

「所属」という前提に立てば、会社と切り離した1人の人間について考える、なんていうことしなくても良いのかもしれません。

終身雇用が制度としても価値観としても薄れていく中、1つの会社で自分の全人格の様々な欲求を満たすことは、より一層難しくなっています。
であれば、この会社に関わることで、私のどの部分が満たされて、どの部分は満たされないのかに自覚的になることは非常に重要になるのではないでしょうか。

逆にそこが分からないと、会社に対して無駄に多くのことを求めることになるし、個人としても不必要な頑張りまでしてしまうことになりかねない。

一旦、会社を脇に置き、そもそも1人の人間としてのWillやCanが分かってくれば、この会社にどう関わるのが自分にとっても、会社にとってもハッピーなのかが見えてくるはずです。

最初に会社に関わる意味や理由が明確になった上で、次にこの会社の中で自分はどんなWillやCanがあるのか?を考えていくと、エンゲージメントが高まっていきます。

図A

Point 2.Willは、事ではなく、価値観・信念・セルフイメージを扱うこと

Willというと「自分は何がしたいのか?」ということだと考える人が多いと思います。
もちろん「何がしたい」が明確にある人はそれは素晴らしいことです。
ただ私がたくさんの働く人の話を聴く中で感じているのは、「何がしたい」がない人も非常にたくさんいるということです。
その時は価値観を考えると良いと思っています。

「何がしたい」がなくとも、「これを大切にしている」「仕事でこういう気持ちを得たい」という価値観は必ず誰にでもあるものだと思います。
「これをしたい!」というWillがある人が素晴らしいとされがちですが、「働く上でこれを大切にしたい」というWillがある人も私はとても素晴らしいと思います。

また、Willを考える際に抜けがちなのが、その人が持つ信念を考えることです。
信念というのは第二回でも書いたが、いわば思い込みです。
生きてきた中で持っている社会に対する思い込み、これを無意識バイアスと言ったりします。

ビジネスパーソンとしての信念は、新卒で入った会社の制度や文化に影響を受けることが多いです。
Willを考える上で、この前提にある信念を扱うことを忘れると、独りよがりのWillになったりします。

「あなたのWillは何ですか?」と言われると「●●がしたいです」と答えなければならないものだと思いがちですが、
● 大切にしている価値観
● これまで生きてきた中でつくった信念(思い込み、バイアス)
● 私はこういう人間であるというセルフイメージ
この3つを明確にすることが、Willを持つ、ということだったりするのではないか、と私は考えています。

図B

Point 3.Canを考える時は、できることはもちろんだが、できないことを明確にすること

成果を出していく上で「強みを伸ばすことが大切である」という意見には賛成です。

一方で「弱みを克服することが大切である」という意見には私は完全には賛成できません。
弱みの中には「克服すべき弱み」と、「諦める弱み」があるのではないでしょうか。魚に空を飛ばせようという努力は誰もハッピーにしません。

一般的にCanを明確にする際によくやってしまう失敗は、CanとCannotの間で境界線を引いてしまうことだと思います。
本当の意味で多様性を認め合い、活かし合いたいのなら、CanとCannotの境界を明確にするのではなく、「伸ばしたいCannot」と「諦めるCannot」の境界を明確にすることが非常に大切だと思っています。

図C

Point 4.役割(Role)は、名詞ではなく動詞で考えること

多様性を「認める」の次のステップである、多様性を「活かす」という意味では、ここが最重要なポイントだと考えています。

組織内での役割を考える時、どうしても名詞で考えることが多いと思います。
「営業」「経理」「エンジニア」・・・

一口に「営業」と言っても、非常にたくさんのプロセスで仕事が成り立っていますし、これは会社によっても違いが大きいと思います。
「広くに伝える」「資料をつくる」「話を聞く」「良さを語る」「足しげく通う」「調整をする」などなど。
これが全て得意な人などいないはずなのに、「営業」という名詞での役割を持つと、これら全てをやることを暗黙のうちに求めてしまいます。

例えば、ミーティングの開催について考えてみます。
「日程調整をする」「アジェンダを考える」「ファシリテーションをする」「意見を言う」「意見を引き出す」「議事録を書く」などなど。
多くの会社ではこれらの役割を卒なく全てをある一定レベルで行うことを求められるので、若手メンバーは一通り全部やることを求められます。

「資料をつくる」のが得意な人が、「私は営業だ」という認知をしていると、資料づくり以外のプロセスで非常に苦労をしたり、挫折をするケースはよくあります。
ミーティングの議事録が上手く書けない新卒は「そんなこともできないのか!」とそれだけで仕事ができないレッテルを貼られたりします。

ここで、役割(Role)を名詞ではく、動詞で考えてみると見える景色が少し変わってきます。

例えば、人に何かを「伝える」のが苦手な営業パーソンが、「調整する」のは非常に得意だったとします。
その方は「営業」のプロになれなくても、「調整」のプロにはなれるかもしれません。
「調整」のプロとして営業パーソンとして続けてもいいですし、いずれは「調整」がより活かされるポジションに移ってもいいかもしれません。

人事データベースに名詞ではなく、動詞の役割(Role)の履歴が残り、検索性が高まり、得意な動詞の多様性が活かされる、という未来は、本当の意味でのダイバーシティ&インクルージョンが実現している組織なのではないかと私は考えています。
※ここだけで1つの記事が書けるので、このあたりにしておきます。

図D(1)
図E


一般的に議論される「多様性」というと、性別・年齢・国籍・言語などが目に見えやすい表層的ダイバーシティが語られることが多いかと思います。

グラデーションをきちんと捉えて、その平均や中央値からの対応・対策を考えるという意味で、それはとても大切なことであると思うし、どんどんとこの流れは加速すれば良いと思います。

そして、さらに深く多様性を認め合い、活かし合うことを目指すのであれば、上記に加えて、目に見えづらい深層的ダイバーシティを扱う必要が出てきます。
その時に、上記の4つのポイントは考える上での参考になるのではないかと思っています。

多様な人材を活かす仕組みに、なぜ「聴く」が必要なのか。

ここまでの話は、個人に当てはめると、「そこまでやらないとダメ?」という内容にも見えますが、実はこれ「会社」という単位だと、どの会社もやっていることです。

ビジョン・ミッション・バリューを考えること、例えばドラッカーさんの5つの質問を考えることや、マッキンゼー7Sを明確にし言語化していくことなどは、形やフォーマットは違えど、どの企業でもとても大切にしていると思います。

これは言い換えると、社会における多様性の1つである自社の、Will-Canと役割(Role)を考えることと言っても良いのではないかと考えています。

自社のWill-Canと役割(Role) をより解像度高く言語化できればできるほど、全体である「社会」に対して、部分である「会社」が貢献できる存在になっていく、というのはビジネスリーダーであれば分かる感覚だと思います。
(全体と部分については、第一回で書いた内容をご覧ください。)

図F(1)

会社が社会で役に立つ存在であるために、自社のWill-Canと役割(Role)の解像度を高め、言語化していくことに非常に多くのリソースを割くことは、あまり議論のないことだと思います。

一方で、
個人がチームで役に立つ存在であるために、自分のWill-Canと役割(Role)の解像度を上げ、言語化していくことにリソースを割くことは、あまり重要視されていないように思います。
しかし、私は「チームと個人」という単位でもWill-Canと役割(Role)を言語化していく時代に入っているのではないか?と考えています。

そして、本当に本当に遠回りしましたが、これが「聴く」とどう繋がっているのか、という点について最後に私の意見を書いて、この記事を終わりとしたいと思います。

自社の理念やビジョン、行動指針などが言語化されている企業は多いと思います。
それらを言語化する際、ビジョン策定のためのコンサルを活用したり、経営幹部が合宿を行う企業も多いのではないでしょうか。
会社の中で言語化されていない、場合によっては自分たちでも当たり前過ぎて気づいてすらいない想いや願い、強みや組織文化など、目に見えない深層的な情報が大切だと分かっているからこそ、言語化に多くの時間・費用を費やします。

この時に「聴く」という行為が必須なのです。
「聴く」というのは、自分だけでは気づけない、気づいても言語化できないものを、外部の助けを使って、気付いて言語化していく時に不可欠な関わり方です。
経営コンサルなどの第三者から問われる(聴かれる)ことで、今まで自分たちでも気づいていなかったことに気がついていきます。
一度でもビジョンや理念、行動指針などを考えたことがある人は体感的に分かるのではないでしょうか。

この企業が当たり前としてやっている行為を、「チームと個人」という単位でもやる必要がある時代にきたのではないか?というのが私が提案です。

自分のWill-Canと役割(Role)を考える時には、自分の中で言語化されていない、自分でも当たり前過ぎて気づいていない想いや願い、強みや特性などが言葉になっていくことで、その人が本来持つ素晴らしい力を発揮するのだと思います。

「聴かれる」ということを通して、自分でも気づいていなかった自分に気づいていく。このプロセスなくして、長期的にブレないエンゲージメントを生み出すことや、多様性を認めて活かす、ということは実現しないと考えています。

ということで、非常に遠回りをしましたが、エンゲージメントと聴くというテーマで書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?

● 「部分」の役割意識が高まると「全体」への貢献意欲が高まる
● セルフアウェアネスがエンゲージメントに効果的であること
● セルフアウェアネスの解像度を上げていく時の4つのポイント
● これらになぜ「聴く」が必要不可欠なのか

長文、かつ、乱文でしたが、もしここまで読んでいただけた方がいて、何か少しでもヒントになっていたら、非常に嬉しく思います。

最後は、この三部作の冒頭にあげた松下幸之助さんの言葉で締めたいと思います。

みずからのすぐれた本質を自覚し、周知を集めるために素直な心(くもりのない心で物事をあるがままにみようとする心)を大切にする。

個人と企業がお互いに与え合う関係を築く時に参考になる、松下幸之助さんの叡智がつまった、大切なメッセージなのではないかと私は受け取っています。


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