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休日出勤をスシで流す??【キワモノ社長談話】

 私は底辺プログラマである。
 ある夏の晴れた日に、社長から土曜日の休日出勤を求められた。

 リリース間近にも関わらず全機能出来上がっていないどころか、バグが噴出する大炎上案件の火消しである。

 とはいえ休日出勤がある場合、当月中に代休・振休が取れるということになっている。私は当然、振休がもらえるものと思い、気は進まないが、まあいいかと休日出勤を承諾した。

プログラミングのイメージ

 行ってみると、周囲の焦りが私にも伝わって、プレッシャーのかかる作業だった。どんどん行数が増え続けるバグ表を、次から次へと潰し、潰しているときに新たなバグを見つけてはバグ表に追加して潰し……と繰り返した。

 上司がギシッとイスをしならせ、乾いた笑顔で話しかけてくる。
「YeKuちゃん、今どんな感じ?」
「今朝時点で起票されていたバグの5割は直しました」

 上司の絶望のまなざしにかすかな光が宿る。
「おっ! 早いね! さすが!」
「ですが並行して新たなバグを見つけているので、バグの総量としては……まだ7割はありますね」
「そっか……」
 上司の瞳はぬばたまの闇に戻っていった。

 17時頃になって、進捗がけっこう良いので今日はお開きにするかという話になった。社屋の一階に全員で集まり、夕飯でも食べに行くかという話になる。

 私は早く帰りたかった。しかしまあ、義理というものもあろう。
 それに社長が一緒に来るなら奢りになるだろうし、食費が一食分、浮くのは助かる。

 そんな考えで、お寿司屋さんに連れていってもらった。けっこう美味しかった。

お寿司の写真

 後日、LINEで社長に
『お寿司ご馳走様でした』
 と送りつつ、振休の日程について確認すると、

『振休は……ないよっ』

 と衝撃の返信が返ってきた。
『えっ? どういうことですか?』

『あれは有志の厚意という形でやってもらってるから。本当は休ませてあげたいけど、他の人も休ませてあげれないから、YeKuさんだけ休ませてあげるってことはできないんだっ』

 まあ、平日で足りないから休日出勤させてるわけで、この炎上の中、他のメンバーを休ませるのは無理だろうな。

 と思ったがそれは会社の都合で私には関係ない。

 というか厚意ってなんだ。
 仕事を命じておいて、厚意もミソもあるか。そもそも炎上してるのはそっちのマネジメントミスだろう。

 私はだんだんイライラしながら、さらにやり取りをつづけた。

『だったら、休日出勤手当をいただけますか?』
 仕方なく書いた。

 休日出勤手当なんて、スズメの涙だ。

 私は休日が好きだ。のんびりベッドで本を読んでいる時間が好きだ。自分のために使える時間を愛している。だから、私がもし休日に値段をつけるなら5万はくだらない。私の豊かな、麗しい休日を奪っておいて、些少な金銭で片をつけようなんて腐っている

『休日出勤扱いにはならないんだっ。あくまで自主的な厚意だからねっ』

 コイツは何を言ってるんだ。
 労基に駆け込んでやろうか。

 このキワモノ社長はこの手の屁理屈や誤魔化しが多い。中小企業とはこうしたものだろうか。

 私が怒りのあまりLINEで無言になっていると、ポンッという音と共に社長が追加のメッセージを送ってきた。

『お寿司、美味しかったでしょ??』

 ハァ~~?

 私は激怒した。

 寿司ごときで休日出勤を無かったことにしてんじゃないよっ。わたしゃ寿司なんてコンビニ寿司で十分なんだい。こんな扱いされると分かってたら、家でのんびり寿司食ってガリをノドに流し込んでた方がマシだったね。なんてぇふてぇヤツだ。( ゚д゚)、ペッ

(※寿司職人の方すみません。お寿司をけなす意図はありません。個人の価値観として、お寿司は好きですが休日出勤ほどの価値がないのです)

 私は数秒落ち着こうと努めてから、返事を打った。

『そうですか。次回休日出勤を求められたときは事前に振休や休日出勤手当について確認してから引き受けるようにいたします』

 数秒して、返事が来た。

『そうした方がいいねっ』

 ××××!!!

 テメェは信頼を裏切った。二度と信じない。

 そう、社内規定で定められた休日出勤についての定めを『厚意』とかいう訳の分からない理由で反故にされるので、何も信頼はできない。曖昧な点を性善説で流さず、何かするときは細かい点まで事前に確認しておくべきだ。

 しかし社長の行動、法的にどうかはさておき、「仲間なんだから苦しい時に助け合って当然」みたいな謎の人情論で考えているものと思う。

 一方、私にとって仕事は仕事だ。生きていくために仕方なく時間を割いて労働しているに過ぎない。社長の事業は社長個人の事業だし、会社が発展しようと衰退しようと私には関係ない。会社なんていくらでもある。潰れればよそに行くだけなのだから。

 このようにものの感じ方、考え方が全く異なる人物と接するときは、自分を守り、幸せに生きていくために、はっきり自分の意思を示していくことが重要だと感じた。


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