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観光分野でも持続可能な発展ー 藤稿亜矢子「サステナブルツーリズムー地球の持続可能性の視点から」ー

観光と持続可能性というキーワードに興味があり、この本を読んでみました。
サステナブルツーリズムについて内容をまとめ、紹介します。
読んで字の如くですが、持続可能な発展(SDGsなど)の観光分野がサステナブルツーリズムにあたります。

サステナブルツーリズムの基礎知識

■サステナブルツーリズムとは?

旅行者、観光関連産業、自然環境、地域社会の需要を満たしつつ、現在および将来もたらす経済面・社会面・環境面の影響も十分考慮に入れた観光

小規模や大規模、地域観光、国際観光など形態に関係なく、地球および地域の持続可能性に配慮すること。
自然地域の観光であるエコツーリズムなどのみでなく、団体旅行などのマスツーリズムも含めてすべての観光が持続可能なものになるべきというものです。

■サステナブルツーリズム3つの基本要素

・経済的に成長できる
・社会文化的に好ましい
・環境的に適性である

■サステナブルツーリズム2つの意味合い

持続可能な経済システムを目指し、環境負荷を最小限にする観光
地域的な貧困や諸問題を解決し、持続可能な経済発展に寄与する観光

これだけをやればよいではなく、この2つの同時進行が必要で、 何を優先すべきかは国や地域によって異なります。
例えば、観光産業で温室効果ガス排出量が最大なのは航空機による移動ですが、その利用削減のみに注目していては発展途上国の観光による経済成長のチャンスを奪ってしまうことになり、これは持続可能な開発ではないということです。

■サステナブルツーリズム誕生の背景

マスツーリズムが世界各地で引き起こしてきた問題に対する解決策が必要だったこと
同時期に”持続可能な開発”の考え方が生まれたこと

この同時期に生まれた持続可能な開発の考え方が以下になると思います。

1987年『新・世界保全戦略:かけがえのない地球を大切に』持続可能な社会の実現のための9原則

1. 生命共同体を尊重し、大切にすること
2. 人間の生活の質を改善すること
3. 地球の生命力と多様性を保全すること
4. 再生不能な資源の消費を最小限に食い止めること
5. 地球の収容能力を超えないこと
6. 個人の生活態度と習慣を変えること
7. 地域社会が自らそれぞれの環境を守るようにすること
8. 開発と保全を統合する国家的枠組みを策定すること
9. 地球規模の協力体制を創り出すこと
引用:IUCN, UNEP and WWF (1987) | Caring for the Earth -A strategy for Sustainable Living

少し話は外れますが、この原則が以前紹介した本の内容であるSDGs(持続可能な開発目標)の起源であるように感じました。

■サステナブルツーリズムの立ち位置

・グリーンエコノミー

環境的リスクと生態系の劣化を著しく削減しながら、人々の幸福と社会的公平を実現するような経済システム
引用:UNEP (2010) | Driving a Green Economy thorough public finance and fiscal policy reform

 ・10YPF(持続可能な消費と生産10年計画枠組み):「持続可能な消費と生産への転換」

・SDGs(持続可能な開発目標)

これらの3つに貢献できるような観光がサステナブルツーリズムであるとしています。 

サステナブルツーリズムの具体的な内容

■サステナブルツーリズム12の原則
経済の存続:長期的な利益を生み出せるように、観光地と企業の存続性と競争力を確保する
地域の繁栄:観光による経済的利益を、受け入れ地域とその地域で過ごす観光客に最大限還元する
雇用の質:性別や人種、障害などによって差別をせず、地域における雇用の数と賃金を含む質を上げる
社会の平等:観光から得られる経済的、社会的利益をコミュニティに平等に分配し、特に貧困者の収入やサービスを改善する
観光客の満足:性別や人種、障害などによって差別をせず、観光客に対して、安全で満足のできる経験を提供する
地域の管理:さまざまなステークの意見を取り入れながら、観光計画と受け入れ地域の管理に関する意思決定の場に当該地域コミュニティに参加してもらう
コミュニティの福祉:地域コミュニティに対する社会的悪影響や搾取を避け、彼らの生活の質を維持強化する
文化の繁栄:受け入れ側のコミュニティの、歴史的遺産、本来の文化、伝統、独自性などに敬意を払う
自然界の完全性:都市および田舎いずれにおいても景観の質を保持し、環境の物理的、視覚的劣化を避ける
生物多様性:自然環境、生息地、野生生物の保全を支援し、それらへの悪影響を最小限にする
資源の効率:観光施設とサービスの開発と運営において、希少または再生不可能な資源についてはその使用を最小限にする
環境汚染の回避:観光客および観光業者による空気、水、土地の汚染と廃棄物の生成を最小限にする

■認証制度
サステナブルツーリズムに貢献するには、名ばかりでなく具体的な基準による評価が必要となってきます。事業者からはその認証が差別化できる材料となり、利用者はその認証を判断基準にできることになります。

グリーングローブ認証
対象:ホテル、旅行会社、レストラン、ワイナリー、ゴルフ場など対象が多岐にわたる

GSTC認証
対象:ホテル、ツアーオペレーター、観光地

トラベライフ認証
対象:ホテルと宿泊業、ツアーオペレーター

持続可能性に関する様々なキーワード

■エコロジカルフットプリント
人間に消費される資源を生産するため、およびそこから発生する廃棄物を吸収するために必要な生物生産性を土地面積に換算したもの
=人間の生活を支えるのに必要な土地面積

耕作地フットプリント:食物、飼料、油脂など
牧草地フットプリント:肉、乳製品など
漁場フットプリント:水産物など
森林フットプリント:薪、パルプ、木材など
カーボンフットプリント:海洋に吸収されないCO2の固定化に必要な森林の需要など

■カーボンオフセット
人間の生活や経済活動によりある場所で排出されたCO2を、他の場所での植林や森林保全、再生可能エネルギー事業などに投資することで、排出量を相殺すること

■カーボンラベリング
電気製品、自動車、航空機など使用によって発生するCO2排出量を明記すること

■ライフサイクルアプローチ
製品などが、原料調達、生産、輸送、利用、リサイクル、廃棄など関わる全ての過程を通して発生する直接的および間接的な環境負荷を評価すること

 観光だけでなく、持続可能性についても詳しい説明があり、「持続可能な発展」を学ぶこともできる本だと思います。

引用表記のない場合の本記事内で引用:藤稿亜矢子著「サステナブルツーリズムー地球の持続可能性の視点から」より

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