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脱炭素社会・グリーン経済への可能性ージェレミー・リフキン「グローバル・グリーン・ニューディール」ー

気候変動への影響を受けて、脱炭素社会への転換が必要だとされています。
しかし、太陽光や風力といった再生可能エネルギーへの転換が実際どこまで現実味があるのか、疑問は多いと思います。
この本はそんな疑問に対する可能性を示してくれる本です。

著者の伝えたいこと

市民や投資家の気候変動への危機感の高まり
アメリカ政府は2016年のパリ協定を離脱し、気候変動対策へは消極的でした。しかし、そのアメリカでも、2018年の意識調査では73%が温暖化が実際に起きていると答えるとともに、ここで紹介する「グリーン・ニューディール」は、どの党の支持層にも60%以上支持されるなど、気候変動に対するアメリカ国民の意識が変化してきていることを示しています。
また、世界的に機関投資家などが化石燃料業界からの投資撤退(ダイベストメント)を進め、再生可能エネルギーへの投資へシフトが加速していることも示しています。このように金融分野でも気候変動に対する姿勢が変化しています。
このように、単なる理想ではなく人々や金融に意識変化があったことで、改革が進む状態になったことを著者は示していると思います。

再生可能エネルギーへの転換の実現可能性
再生可能エネルギーというとコストが伴うというイメージでしたが、そのイメージはすでに過去のものであるということを著者は示しています。2018年の調査では、均等化発電価格※1は太陽光では$36/MW、風力では$29/MWと、ほとんどの石油や石炭、原子力発電所のコストを下回っているとしています。つまり、今後はコスト面でも再生可能エネルギー導入のほうが有利になったということです。
※1発電施設の建設から運転、廃棄といった全てのコストを発電できるエネルギー量で割ったもの

新しい経済・社会へのロードマップ
上記で説明したように、人々や金融の意識が変わり、実用的な問題もクリアしつつある。あとは、どう実現し、どの運用していくか、が残る課題です。そこに明確な道筋を示すというのが本書の役割だと思います。

グリーン・ニューディールはスマートインフラ構築

グリーン・ニューディールとは?
2019年にアメリカ議会に提出された

10年以内に、アメリカの全電力を再生可能エネルギーに転換すること、エネルギー供給網・建造物・交通インフラの改善、エネルギー効率の増大、グリーン技術の研究・開発への投資、新しいグリーン経済部門における職業訓練

などを盛り込んだ決議案。これと同様の政策がEUや中国でもスタートしつつある。

目的は?

気候変動に対応するために経済を抜本的に方向修正し、同時に新しいグリーンビジネスと雇用を創出してより公正な富の分配を図ること

スマートインフラとは?
IoT(Internet of Things)インフラのこと。

コミュニケーション・インターネット(通信):これまで通常インターネットと呼ばれていたもの。
エネルギー・インターネット(電力):再生可能エネルギーのスマートグリッド。
ロジスティクス・インターネット(運輸):おそらくMaaS(Mobility as a Service)がこれに著者が示すものに近いと感じました。

インフラ構築が再生可能エネルギー社会と強靭な循環型経済に
生産や流通の効率が極限まで高まることで限界費用※2がゼロに近づき、財やサービスの利益率が縮小し、資本主義としてのビジネスモデルとして成り立たなくなってくる。つまり、新しい経済システムが必要となる。
現在のインフラでは総合エネルギー効率※3を上げることができず、生産性の増加につながらない。スマートインフラの構築が雇用機会と従来に替わる新しいビジネスを創出するとともに、再生可能エネルギー社会と強靭な循環型経済への移行を可能にする。
※2限界費用:固定費を別にして、財やサービスを追加的に1ユニットうみだすのにかかる費用
※3総合エネルギー効率:投入されたエネルギーから実際の有用な仕事に転換される部分の割合

化石燃料資産が座礁資産になる可能性

はじめに書いたようにコスト面でも、再生可能エネルギーは化石燃料と競合できるレベルになっている。
経済学の経験則で経済学者シュンペンサーが提唱した「想像的破壊」では、挑戦者(この場合再生可能エネルギー)のシェアが市場の3%を占めたとき、既存のプレーヤー(化石燃料)はそれを境にピークから下降に転じ、やがてゼロに近づくというもの。これはガス灯と電気照明の転換時にも当てはまっていた。
エネルギー需要の伸び率を1〜1.5%、太陽光・風力による供給の伸び率が15〜20%の範囲内だと予想され、そこから化石燃料需要のピークは2020〜2028年と予想される。
化石燃料の需要が低下することで、成長を見込んで投資していた資産が座礁資産となる。EUでは再生可能エネルギーの市場規模がまで14%のときに化石燃料をベースにした電力会社が崩壊し、5年間で1480億ドル以上の損失が生じた。これと同様の損失が世界で起きる可能性があることが指摘されている。  

年金基金をスマートインフラへ投資

座礁資産を抱える化石燃料産業に投資し続けては、労働者の退職年金を失いかねないとして、ニューヨーク、ロンドン、ワシントンDC、コペンハーゲン、パリ、サンスファンシスコ、シドニー、ストックホルム、ベルリンなど世界150の都市・地域で年金基金の化石燃料産業からの投資撤退が進み、再生可能エネルギーなどスマートインフラへの再投資されている。このように年金基金からの投資を行うことで、スマートインフラに必要な資金を調達することができる。
年金基金がインフラ投資に参入することで、年金基金受託者は加入者や労働者の声を受けて、民間企業よりも社会的責任投資(ESG投資)を選択する傾向が強い。インフラを民間企業に渡すと事業として利益面が優先されてしまうが、年金加入者や労働者といった市民が管理できるシステムとすることでサービス面が重視される。
このようなシステムを構築することで、従来中央集権型だったインフラがそれぞれの地域における分散型のものとなる。これは風力や太陽光といったどこでも発電できる再生可能エネルギーのスマートグリッドととても相性がよく、生産性を高めるとともに、レリジエンス(強靭性)も備えたインフラにすることができる。

ロードマップとしては

1. 再生可能エネルギーはコスト面でも化石燃料に勝るように
2. 化石燃料への投資は座礁資産に
3. 化石燃料業界へ投資されていた年金基金をスマートインフラへ投資
4. 新しい雇用やビジネス創出
5. 気候変動に適応し、持続できるような経済・社会システムを構築

というような流れになると思います。
本書では直接触れていませんが、SDGs(持続可能な開発目標)も同時に満たすようなロードマップではないかと思います。
SDGsについては前回の記事で少し紹介しています。

各国政府高官や経済界トップにアドバイスを行っているような人物が、今後の社会のかたちをどのように描いているのかを知ることのできる、とても面白い本です。

本記事内のすべての引用:ジェレミー・リフキン著|「グローバル・グリーン・ニューディール」

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