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企業へのSDGs導入ー沖大幹他「SDGsの基礎」ー

前回はこの本を、SDGsの基本という視点で紹介しました。
その中で本書以外の情報も含め、SDGsの基礎知識まとめとしました。
SDGsの基本的な内容については、まず前回の記事を見ていただければと思います。

今回は本書の趣旨である企業へSDGs導入について紹介します。
この本は世界のSDGsというよりは、特に日本の情勢にあわせた内容を書いているように感じました。

本書の目的

この本は市民向けというよりは企業や自治体など専門機関向けという印象で、書き方も学術的な記述がされているように感じました。

この本の目的としても、

以下の課題に対し解決策を示すこと
・企業がSDGsに取り組む意義を整理したい。
・環境やCSRに関するセクション以外への理解度を高めたい。
・社内へのSDGsの浸透を進めたい。
・経営への統合、経営計画やビジョンへの連動を進めたい。

とされていますので、企業向けだと思います。

SDGsについての市民・コミュニティ向けであれば、こちらの本がより合っていると思います。

以前の記事でこの本を紹介していますので、読んでみて下さい。

SDGs導入のメリット

日本の企業にSDGsの導入を促すために、企業活動にどのようなメリットがあるかを詳しく説明しています。

日本企業へのSDGsのメリットとして、

・新事業の開発
・企業価値の向上
・ステークホルダーとの関係強化

が挙げられています。

新事業の開発については、SDGsの目標という「課題」に、自社の経営資源という「ツール」を用いて取り組むことで、新しい分野を拓くことができます。
企業価値の向上については、SDGsを経営に組み込むことがそのまま企業のCSR(社会的責任)につながります。
ステークホルダーとの関係強化については、SDGsは人や事象の「連携」を強く意識しています。
そのため、経営課題をSDGsに照らし合わせて進めることで、顧客や従業員といった企業に関わる人とのパートナーシップを強めることにつながると考えられます。

優先課題の決定

SDGsを導入するにしても、17の目標は幅が広すぎるように感じます。

日本企業が導入する際にはSDGsの目標よりも、それを受けて日本政府が設定した次の8つの優先課題が参考になると思います。
※()内は対応するSDGsの目標

①あらゆる人々の活躍の推進(1, 4, 5, 8, 10, 12)
②健康・長寿の達成(2, 3)
③成長市場の創出,地域活性化,科学技術イノベーション(2, 8, 9, 11)
④持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備(2, 6, 9, 11)
⑤省・再生可能エネルギー,気候変動対策,循環型社会(7, 12, 13)
⑥生物多様性,森林,海洋等の環境の保全(2, 3, 14, 15)
⑦平和と安全・安心社会の実現(16)
⑧SDGs実施推進の体制と手段(17)
 出典:首相官邸|SDGsアクションプラン2018(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/pdf/actionplan2018.pdf)より

SDGs17の目標

1. 貧困をなくそう
2. 飢餓をゼロに
3. すべての人に健康と福祉を
4. 質の高い教育をみんなに
5. ジェンダー平等を実現しよう
6. 安全な水とトイレを世界中に
7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに
8. 働きがいも 経済成長も
9. 産業と技術革新の基礎を作ろう
10. 人や国の不平等をなくそう
11. 住み続けられるまちづくりを
12. つくる責任 つかう責任
13. 気候変動に具体的な対策を
14. 海の豊かさを守ろう
15. 陸の豊かさも守ろう
16. 平和と公正をすべての人に
17. パートナーシップで目標を達成しよう
 出典:公益財団法人地球環境戦略研究機関|持続可能な開発目標(SDGs)(https://www.iges.or.jp/jp/sdgs)より

企業としては、ターゲットを8つの優先課題から定め、それに付随するSDGsの目標を意識した経営方針を進めるといった形になるように思います。

導入ガイド

実際に企業がどのようにSDGsを活用していくかについては、環境省が「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」というものを公開しています。

このガイドでは現在企業が置かれている状況やSDGs導入の意義を説明した上で、先進的な事例を挙げるとともに具体的な取り組みの進め方を紹介しているようです。

また「SDGsコンパス」というSDGsの企業への導入指針があり、以下のステップで示されます。

ステップ1:SDGsを理解する
ステップ2:優先課題を決定する
ステップ3:目標を設定する
ステップ4:経営へ統合する
ステップ5:報告とコミュニケーションを行う

SGDsとその先

この章は企業へのSDGs導入から少し話が外れますが、本書で印象に残った部分です。

■SDGsによる転換
問題が発生したら解決をはかる、という従来の問題追従型(フォワードキャスティング)から、目標を設定してその実現をはかる、という目標追求型(バックキャスティング)への移行が、SDGsが求める大きな転換だとしています。

■SDGsに欠けている視点
SDGsは万能というような印象を抱く記述が書籍やWebサイトでは多いように思います。
そんな中、SDGsに欠けている視点をしてきしているのは本書です。
それは会議に参加し、成立までの流れを見てきた人物が著者に加わっているがゆえの特色だと思います。

例えば、野放図な宇宙開発の抑制や核の平和利用、地雷除去、宗教、LGBT、人口動態に関する目標など、価値観によって意見が異なるような問題は避けられている、と指摘しています。

また、社会的利益の追求に関する目標が多く、精神的な豊かさに関する目標は少ないことも指摘しています。
例えば、知的好奇心の充足、スポーツ、アート、エンターテイメントなど、より良い未来社会に不可欠な要素は含まれていないとしています。

そのあたりがSDGsの先にあるような、今後の国際的な目標になるのでは、と指摘されています。


SDGsに関する書籍は実践する側のものが多いと思いますが、立案に関わった人の目線で書かれている部分もあり、より深い理解につながると思います。

表記のない本記事内のすべての出典:沖大幹他著|「SDGsの基礎」

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