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レガシーどころか、古典と言うか、化石みたいなマーケティングの話

マーケティングの原点はどこにある?

この10年ほど、いえ20年ほどでしょうか。ウェブでのビジネスが広く普及し始めたあたりから、「マーケティング」が知名度を得てきた気がします。90年代に「マーケティングって知ってます?」と聞くと、

「ああ、調査のこと?」
「広告宣伝のこと?」
「通信販売のこと?」

なんて言う人もいたくらいです。

なので、「マーケティングって、比較的歴史が浅い、新しい概念」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラーが「マーケティング原理」の初版を出版したのが、1970年代であり、一説には現代のマーケティングにつながる概念は1900年頃には存在したと言います。産業革命がマーケティングを生んだという話もあるようです(大量生産が可能になったことで、マーケティングが求められたそうです)。

ということはさておき、実は、我々がマーケティングを学んだ頃、最初はダイレクトマーケティングから学んだのですが、「これ、ものすごく伝統的な概念じゃないのか?」と思ったことがあります。

今回はその話をしていこうと思います。

富山の薬売りはデータベースマーケティングをやっていた

いきなり、日本の話になります。アメリカ起源っぽいマーケティングで日本です。それも江戸時代。

富山の薬売りという言葉はご存知でしょう。「置き薬」「配置薬」という商法が有名です。
いろいろな薬が入った薬箱を各家庭に置かせてもらい、何かあったらその薬を使う。半年や1年毎に薬売りがやってきて、「使った分だけ、料金を請求」して、中身を補充して帰っていくという仕組みです。

「先用後利」(Use First, Pay After)

と呼ばれるビジネスモデルであり、もしかしたら、現在のサブスクの原型に近いのかもしれません。

しかし、ここで注目したいのは、そこではありません。

「懸場帳(かけばちょう)」です。

それは徹底的に詳細な「顧客情報」が記されています。実際に、富山市民俗民芸村にある売薬資料館で現物を見てきました。事細かに、家族構成からその家の商売の内容、病歴まで記載されています。

誰にどの薬が効いたか

そんな情報も記載されています。

子どもが腹痛を繰り返すなんて話を相談されて「ああ、この子の母方のいとこに似た症状の子がいましたよ。この薬が効いたので置いておきますね」などというやり取りがあったという記録がありました。

今で言うところの「CRM(Customer Relationship Management)」にほかなりません。ダイレクトマーケティングの父と言われる、レスター・ワンダーマンは、この話を聞いて「まさしくデータベースマーケティングだ」と言い、感銘を受けたそうです。

いわゆるコンテンツマーケティングだって、100年前からある

いま「コンテンツマーケティング」に取り組む企業が増えています。個人的には、別記事で書いたように「コンテンツマーケティングなんてマーケティングはない」と考えているのですが、世の中でそう呼ばれているものがあるのは仕方がありません。

あえてコンテンツマーケティングを定義するなら

「顧客に有益な情報を提供することで、関係性を深め、自社の製品やサービスの購入検討に導く活動」

とでもなるでしょうか。

SEOで集客したり、オウンドメディアを運営してナーチャリングしたり、だけではないのです。

富山の薬売りのように、マーケティングは実のところ、歴史はとても古い。マーケティングという概念がなかった時代からでも、「いやこれって、立派なマーケティングじゃん?」と思うことが多々見つかります。

昭和の時代の八百屋だって、データベースマーケティングをやっているのです。

「奥さん、あんたのところ、昨日はサンマだったろ。今日はいい感じの鯵が入ってるよ、子どもたちの分と合わせて5尾で、4尾分の値段でいいよ、まけとくよ」

店主の頭の中のデータベースがぶん回しです。

さておきコンテンツマーケティング。いろいろと調べていくと、コンテンツマーケティングの起源と言われる2つの事例が見つかりました。

・農家向けの雑誌「THE FURROW」
1895年に発行された農家向けの雑誌。農機具メーカー・ディア・アンド・カンパニーの発行。自分たちが販売する農機具のカタログではなく、農家にとって役立つ情報を提供することに特化していた。

https://seawayprinting.com/  より

・ドライバー向けガイドブック 「ミシュランガイド」
いまや、高い知名度を誇る。もともとはドライバー向けの情報誌だ。ミシュランは言わずとしれたタイヤメーカーだが、「自動車を運転して遠出してもらう」という考えから、「車で遠出したくなる情報提供」が出発点だ。いまでは、権威あるグルメガイドになっている。

ほかにも、航空機会社が発行する機内誌なども、立派なコンテンツマーケティングの実例になるでしょう。知育玩具のLEGOも「LEGO Club」という雑誌を発行していますし、P&G社も同様の雑誌を発行しています。もしかしたら、ギネスブックもその一つに分類できるかもしれません。1990年代以降は、WEBを中心としたオウンドメディアを活用したコンテンツマーケティングが主流になってきていますが、紙メディアのメリットも頭の隅に置いておきたいところです。

意外な先例を知れば、学ぶ機会が増えるはず

四半世紀ほど前、初めて富山の薬売りの「懸場帳」を見た時、「そうか、データベースは何もデジタルに限らないんだ」と目から鱗が落ちた記憶があります。
技術革新により、より精密に大規模に実行できるようになったとしても、「マーケティングの根っこ」は案外古くからあるのかもしれません。

最新のものを追うことも大事です。同時に、古きレガシーを知り、最新と比較することで、興味深い発見があるはずです。


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