鈴木偏一

マインドが大学生。 https://twitter.com/ichi_hen?s=09

鈴木偏一

マインドが大学生。 https://twitter.com/ichi_hen?s=09

マガジン

  • 小説 開運三浪生活 #6 開運橋

    大詰めを迎えた、元・優等生、田崎文生の浪人3年目。「県大在学」という退路を断って臨んだ10月の記述模試で、まさかのE判定を叩き出した失意の淵から、いかにして巻き返しを図るのか。深まる盛岡の冬、いろいろありながらも一見淡々と続く図書館浪人生活……。その結末やいかに。

  • 小説 開運三浪生活 #5 寒風、北上川

    広島の予備校・川相塾での一年間をもってしてもなお、届かなかった広大合格。それでも諦めきれないタサキフミオは、県大復学から1ヶ月が経ったGW、3年目の浪人生活をスタートした。もはや予備校に頼れる資金もない中、彼は今度こそ広大への切符を手に入れられるのだろうか・・・?

  • 小説 開運三浪生活 #4 太田川憧憬

    数学も化学もからっきしなくせして理系に憧れ続ける懲りない男・田崎文生(19)。「県大」に籍を置きながら挑んだ広島大の受験に失敗した彼は、「ならば」と東北を飛び出し、広島の地で予備校に通いながら浪人2年目の生活を始める。

  • 小説 開運三浪生活 #3 イーハトーブの冤罪

    プライド高く理系に憧れ続ける元・優等生にて現・劣等生のタサキフミオ(20)。せっかく滑り込むことができた「県大」のキャンパスライフに飽き足らない彼は、相変わらず理系への憧れを捨てきれず、仮面浪人を決意する。

  • 小説 開運三浪生活 #2 モノクロ時代

    プライド高く理系に憧れ続ける元・優等生にて現・劣等生のタサキフミオ(20)。東北南端の農村に生まれた彼は、いかにして優等生としてのプライドを育み、その後劣等生に落ちぶれていったのか。その生い立ちから「県大」に滑り込むまでを描く。

最近の記事

第88話をもちまして、小説『開運三浪生活』完結でございます。ここまでお読みいただきありがとうございました!

    • 小説 開運三浪生活 88/88「二度泣き橋」

      盛岡に帰ると、文生は合格の報告をするために県大の源田の研究室を訪れた。県大に足を踏み入れるのは、退学の手続きをした去年の九月以来だった。 「おおー。よかったじゃないか」

      ¥300
      • 小説『開運三浪生活』、ついに明日最終話です!

        • 小説 開運三浪生活 87/88「カレーライス」

          「ああ。よかったぁ」

          ¥150

        第88話をもちまして、小説『開運三浪生活』完結でございます。ここまでお読みいただきありがとうございました!

        マガジン

        • 小説 開運三浪生活 #6 開運橋
          6本
        • 小説 開運三浪生活 #5 寒風、北上川
          19本
        • 小説 開運三浪生活 #4 太田川憧憬
          20本
        • 小説 開運三浪生活 #3 イーハトーブの冤罪
          15本
        • 小説 開運三浪生活 #2 モノクロ時代
          19本
        • 小説 開運三浪生活 #1 三浪前夜
          9本

        記事

          小説 開運三浪生活 86/88「走馬灯」

          三月八日の正午近くに、文生は広大西口のバス停を降りてキャンパスに入った。合格発表まではま二十分ほどの時間があった。 春休み中でもあり、キャンパスのなかでも外れの南西端のエリアだけあって、学生の数はまばらだった。時折り西図書館を出入りする学生が目につく程度だった。文生は総科棟と学食の間に配されたベンチに腰掛け、その時が来るのを待った。

          ¥150

          小説 開運三浪生活 86/88「走馬灯」

          ¥150

          小説 開運三浪生活 85/88「乾坤一擲」

          広大の二次試験を翌日に控えた二月二十四日、文生は広大がある東広島市内の旅館に泊まった。一昨年前、一浪生として初めて広大を受験した時にも泊まった西条荘という、家族経営の小ぢんまりした旅館だった。宿の女将さんは文生のことを憶えてくれていたのかどうか怪しかったが、「今度こそ受かりんさいよ」と温かく励ましてくれた。

          ¥150

          小説 開運三浪生活 85/88「乾坤一擲」

          ¥150

          小説 開運三浪生活 84/88「北上川雪景色」

          二月二十五日に行われる広大の二次試験まで、六週間あった。ここからは、追い込みである。やるべきことは明確で、試験科目の数学と化学に集中するのみだった。赤本と過去に受けた記述模試の問題を繰り返し解けばいいのである。 センター試験であの点数が取れたのなら、二次でよほどのヘマをしでかさない限り合格はカタいはず——。過去に文生が経てきた広大受験のように、二次で大逆転をかまさない限り合格できないような窮地ではなかった。よくしたもので、あともう少しで合格という好況が、かえって文生のモチベ

          小説 開運三浪生活 84/88「北上川雪景色」

          小説 開運三浪生活 83/88「-12℃」

          二〇〇二年の一月十二日、盛岡の最低気温はマイナス十二度を記録した。センター試験の初日だった。数日前に積もった雪が道端のそこかしこに残っていた。文生は転倒防止のスパイク付きのスニーカーを履き、バス停への道を粛々と進んだ。吐く息がいちいち白かった。路肩の側溝からも白い蒸気が上がっていた。白に近い灰色をまとった空が街を覆っていた。 舘坂橋という停留所でバスを降りると、文生は北上川を渡って東へ進んだ。たまに使う市立中央図書館への道を途中で左に入ると、岩大の工学部棟である。ここが今年

          小説 開運三浪生活 83/88「-12℃」

          いつも小説『開運三浪生活』をお読みいただきありがとうございます。明日からは最終章「開運橋」。誇り高き主人公・タサキフミオの浪人3年目もいよいよ佳境です! どうぞ最後までお付き合いください。

          いつも小説『開運三浪生活』をお読みいただきありがとうございます。明日からは最終章「開運橋」。誇り高き主人公・タサキフミオの浪人3年目もいよいよ佳境です! どうぞ最後までお付き合いください。

          小説 開運三浪生活 82/88「野田の慶事」

          十二月ともなるとさすが雪国だけあって、雪の日が増えた。文生が育った地は同じ東北の最南端にあったが、十二月の降雪はどちらかと言えば珍しく、ある程度の積雪は一月と二月に、それもシーズンで四、五回しか発生しないレベルだった。 十月の記述模試でE判定が出て以来気落ちしていた文生だったが、親知らずのおかげでいい具合に気がまぎれたのか、再び気力は充溢してきていた。やはり、川相塾広島校で学び直してから積み重ねは確かにあったし、去年よりも自信を持って問題を解けるようになっていた。十一月に受

          小説 開運三浪生活 82/88「野田の慶事」

          小説 開運三浪生活 81/88「教材としてのタサキフミオ」

          タツヒコの悪夢以降、文生は十二時台には床に就き、極力考え事をせずに眠りに入るよう努めた。その甲斐あって生活リズムをなんとか持ち直し、朝から県立図書館に通う日々が再び続いた。さすがに浪人三年目ともなると、生活リズムの修正能力には一日の長(?)があった。進捗という意味では、受験勉強は順調であった。不安を抱えながらもとにかく苦手分野の克服にエネルギーを傾けることで、受験に対する前向きさを再び取り戻そうとしていた。 ところが同じ頃、困ったことに頭痛がさらにひどくなった。左のこめかみ

          小説 開運三浪生活 81/88「教材としてのタサキフミオ」

          小説 開運三浪生活 80/88「悪夢」

          岩手山がすっかり雪をかぶった十一月中旬の月曜の昼頃、文生が出がけにアパートの集合ポストを覗くと、オレンジ色の封筒が届いていた。タイミング的に、前月に受けた川相塾の記述模試の結果に違いなかった。 図書館が休館日のため一切の勉強をせず休養日に充てていたこの日、文生は雑用のため盛岡の街なかに行く予定があった。大通りのドトールでじっくり見ようと、文生は川相塾からの封書をカバンに入れて駅に向かった。 春に受けた年度最初のマーク模試以来、田崎文生――もとい太田興大の名が再び成績上位者

          小説 開運三浪生活 80/88「悪夢」

          小説 開運三浪生活 79/88「秋の砂嵐」

          十月、文生は受験に必要とされる健康診断を受けに、県立図書館の近くにある病院を訪ねた。去年は在籍していた川相塾で健康診断を受診できたが、自宅浪人となった今年は自ら病院に赴く必要があった。 待合室で英単語帳を読んでいると、隣に座っていた壮年の男性が話しかけてきた。 「えらいな、病院で勉強か」 (だったら、話しかけてくんなよ)とばかりに、この自分勝手で青白い顔をした青年は、憮然と無視を決め込んだ。受験生活が思い通りに行かないここのところ、文生としては必死のつもりだった。寸暇を

          小説 開運三浪生活 79/88「秋の砂嵐」

          小説 開運三浪生活 78/88「神経過敏」

          無事退路を断ったが文生だったが、不覚にもその後生活のリズムが崩れた。 同じようにリズムを崩した六月のように、寝坊して県立図書館を諦め、午後からバスで市立中央図書館に向かう日が増えた。季節的なものなのかもしれないし、あるいはどこにも籍を置かない歴とした素浪人の身分に堕したことで、いよいよ受験を失敗できなくなったプレッシャーによるものかもしれなかった。 さらに悪いことには、この頃から頭痛に悩まされる日が増えていた。左のこめかみ辺りが鈍く痛み出すと、いくら机に向かっていても能率

          小説 開運三浪生活 78/88「神経過敏」

          小説 開運三浪生活 77/88「源田先生Vol.2」

          九月の上旬、文生は四カ月ぶりに東北本線の下り列車に乗り、退学手続きのために県大を訪れた。岩手の夏は短い。滝沢駅から県大へと続く坂を上っていくと、秋草の匂いがした。ひさびざに足を踏み入れた県大の構内は、まだ夏休みということでかなり閑散としていた。 同学年で唯一連絡をとり続けていた貫介には、前日の晩にメールで退学を報告していた。普段からしょっちゅう帰省していた貫介は、夏休みもその大半を岩手県南部にある実家で過ごしているとのことだった。 〝覚悟決めたんだな〟 文生の決断に対す

          小説 開運三浪生活 77/88「源田先生Vol.2」

          小説 開運三浪生活 76/88「橋を焼く」

          文生が母親に県大を退学する意志を伝えたのは、八月の末のことだった。 「ええ⁉ んじゃフミオ今県大かよってないのけ?」 「そうだよ」 「いつからかよってないの……」 「五月」 「んじゃ、そっからずっと広大の勉強してたのけ」 「そう」 「知らなかったぁ……んじゃお父さんとお母さん、何のために学費払ってんの……」 「そうだよ、無駄なんだよ!」 我が意を得たりとばかりに文生は力を込めた。 「もう県大に戻る気はないから。だったら、籍置いてる意味もない」 「休学でいいんじゃないの。

          小説 開運三浪生活 76/88「橋を焼く」