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<第2章:その2>妻から離婚届を突き付けられて

 お墓参りで人生が好転したはじめのエピソードに入る前に、ひとつ考えていただきたいことがあります。
 それは、私たちがふだん、家庭や社会、学校、地域などで集団生活を送っていますが、 そのような中で人が人に対して誠意を見せる、いちばんよい方法はなんでしょうか、ということです。
 これは、けっこう難しい課題です。言葉も重要ですが、必ずしも言葉が信頼されているとは限りませんし、むしろ軽いと受け取られる可能性もあります。
 やはり、行動で気持ちを示すしかありません。
 その行動の中で、とくにお墓参りとお墓そうじというものの持つ意味。これはかなり重いものがあります。
 このケースは、奥さんから離婚届を突き付けられた夫が、奥さんの実家のお墓そうじを一生懸命にすることで一発逆転。みごとに関係の修復をしたという事例です。
 離婚したいと奥さんのほうから言われる夫の立場というのは、現代では何も浮気が原因ばかりではありません。景気がこれだけ悪く、リストラなどが進んでいる現状ですと、むしろ職場を失って、働きたくても働けない男性、生活費を稼げない夫に迫る危機です。
 むろん、夫のほうでも離婚やむなし、あるいは離婚したいと考える場合ならば、妻からの申し出はありがたく受け取ってしまうでしょう。しかし、離婚したくない、何とか結婚生活を続けたいと夫が考えるケースならば、妻を翻意させる必要があります。
 人の気持ちを変えることはたいへんな難事です。

 私の知り合いですが、勤めていた会社が倒産してしまいました。
 むろん彼も就職先を必死に探すのですが、この不況の今、やすやすとは職場は決まりません。時間がたつごとに蓄えのほうも心配になります。彼の家に嫁いだ奥さんは、舅や姑との関係も煩わしいと、日ごろから思っていたところに、旦那がこういう状態ですから、次第に、夫婦関係も険悪になってきました。
 で、とうとう奥さんが、
「私、実家に帰ります。離婚してください」
 離婚届を彼に預ける事態にまで発展してしまったのです。
 むろん夫である知り合いの方は、奥さんを愛していますし、責任感も強い人ですから、離婚したくありません。何とか思いとどまってほしいと頼むのですが、奥さんも強硬です。
「困ったよ。おれは離婚したくないんだが」
 と、その段階で私に相談があっていろいろと話したのですが、どうやら実家の両親とも話し合いをして、理解も得ているようだというのです。向こうは実家も離婚に賛成しているらしいということで、
「これは奥さんの意向を変えさせるには、容易じゃないな」
 と思いました。
 しかしここで考えたのが、かつての私自身のことでした。


前回まで
はじめに
・序章
 母が伝えたかったこと
 母との別れ
 崩れていく家
 止むことのない弟への暴力
 「お母さんに会いたい!」
 自衛隊に入ろう
 父の店が倒産
 無償ではじめたお墓そうじ
 お墓は愛する故人そのもの
・第1章
 墓碑は命の有限を教えてくれる
 死ぬな、生きて帰ってこい
 どこでも戦える自分になれる
 お墓の前で心を浄化する
 祖父との対話で立ち直る
・第2章
 心の闇が埋まる 

矢田 敏起(やた・としき) 愛知県岡崎市生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊する。配属された特殊部隊第一空挺団で教育課程を首席で卒業後、お墓職人となるため、地元有力石材店で修業をする。1956年に創業された家業の石材店を継ぎ、「人生におけるすべての問題は、お墓で解決できる」ことを見出し、「お墓で人間教育」を提唱する。名古屋の放送局CBCラジオで、平日午前の番組『つボイノリオの聞けば聞くほど』に2012年から出演を続けており、毎週火曜日に「お墓にかようび」というコーナーを持ち、お墓づくりや供養に関する話を発信している。建て売りで永代供養の付く不安の少ないお墓を提供する「はなえみ墓園」を2020年に始め、愛知県内28カ所(2024年5月現在)となっている。2022年にお寺の本堂を使った葬儀をサポートする「お寺でおみおくり」を始め、2023年にはお墓じまいなどで役目を終えた墓石の適正な処分や再利用を進める「愛知県石材リサイクルセンター」を稼働させた。

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