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帝王切開の傷跡をみて感じる気持ちの変化。

 私にはおヘソの少し下から縦11センチの傷跡がある。

 それは、3回の帝王切開でできた傷だ。

 どうやらケロイド体質のようで3回とも見事に赤く膨れ上がっている。手術の経験はお産がはじめてだったので、自分の体質を知ったのもそのときだった。

 そのケロイドはお腹の上でかなり堂々と主張している。縦は11センチ、横幅は1〜4センチ下に行くほど幅が広くなっている。なかなか立派なものに仕上がった。

 妊婦健診のときにそれを見た先生たちは、決まって「このケロイドすごいね」と口にするのでなかなかなものがお腹にあることを感じた私がいた。

 

 2014年12月。1回目の出産は双子妊娠中で切迫早産で管理入院中だ。帝王切開の手術をする日がようやく決まり、先生にその日を告げられてしばらくしてまさかまさかの陣痛がだった。前のめりな娘たちの行動に今となっては、私の子だなと笑ってしまう自分がいる。

 突然の陣痛、出産で気持ちもついていけず看護師なのにめちゃくちゃびびってしまった。怖くて不安でこの先どうなるのか…二人が産まれたことの感動より、漠然とした不安が押し寄せた出産だった。1557グラムと1152グラムの32週で産まれた娘たちだった。

 産後しばらくしてできたお腹のケロイド。それを見るたびにあのときの緊急帝王切開が思い出された。ひとり不安だった気持ちとこれから先のよくわからない不安、そんな本音を飲み込んだ気持ちが色濃く残った。

 

 2017年7月。2回目の出産は、予定帝王切開での出産だった。双子じゃないお産はスムーズにいくんだとビックリしたものだった。
でも、いざ手術となると3年前の嫌な記憶が蘇り、急に不安が押し寄せてきた。ひとりで手術台に横たわりめちゃくちゃ不安だった。看護師だし弱音吐くのはダメ…そんな思い込みがあって、感じていることを言えずにいた。

 そんな私の表情を見て、ベテラン助産師さんが「手握ってようか?」と声をかけてくれた。ものすごくものすごくその言葉に救われて、「お願いします」「2回目だからやっぱり怖いです」そうシンプルに伝えて挑んだお産だった。

 産後しばらくして双子の保育園送り迎えがはじまった。息子を抱っこ紐にいれて一心同体であちこち動き回るそんな生活が当たり前だった。そんなときお腹の傷の違和感に少しずつ気づきはじめた。ケロイドにならないといいな…そう思っていたけれど、嫌な予感は的中した。1回目よりもだいぶ膨れ上がっていた。

 
 やっぱりダメか…

正直そう思っていたし、怖かった手術をまた思い出してなんとも言えない気持ちになった。


 傷を見て何度も思うことがある。
手を握っていて欲しかった相手は「夫」だということ。繰り返すケロイドを見て、私はそんな想いが奥底にあることに気づいた。

 産み方は経膣分娩か帝王切開の2つがある。帝王切開は家族の立ち会いがなかなかないものである。だから、経膣分娩の人が正直羨ましくて、私には叶えられないお産なんだとどこかで思っていた。立ち会ってもらいたいその理由は、我慢強いクセにめちゃくちゃビビリだからだ。夫が私にとってめちゃくちゃ安心する存在だからだ。


 ケロイドを見るたびに「夫に立ち会って欲しかった」「ひとりで不安だった」という気持ちが湧き上がってくる。それが私の言いたくても言えなかった言葉だった。
そんなことに気づいたのだ。


 もう一人産みたい!
 夫に立ち会ってもらいたい!


 その願いを叶えたい自分がいた。そんな自分にも驚きを隠せなかったけれど、こうする!と決めたらエイッとやってしまうタイプなので3回目の妊娠でそれを叶えた。
 
 保健センターに電話をして、立ち会える病院を探した。わりと近くにその病院が存在して、ようやく私の思い描いている出産が叶えられることがわかった。ホッとした。

 

 2020年3月。3人の子どもと夫に見守られながら無事に4人目の子どもを出産した。へその緒は夫と当時2歳の息子が切ってくれた。


 大好きな家族が総勢5人見守るなかで安心感に包まれながらのお産は、この上ない幸せだった。これが私の求めていたお産だ!と確信した瞬間でもあった。

 
 しばらくしてお腹にケロイドかまた登場した。なかなかのしつこさだ。それを見て、過去2回感じた気持ちは自然と薄れているのを感じたのも事実だ。ただの傷という認識だった。トラウマはそこに存在しなかった。

 
 よく頑張ったね!

ようやく自分に声をかけることができたし、その傷に愛おしささえ感じる私がいる。


 ケロイドは炎症だからときにかゆかったり、痛かったりする。今まではそれが嫌で嫌で仕方がなかったけど、過去3回の出産を振り返られるそんなものへと変わっている。


 我慢することはよくないこと、それをケロイドが何度も教えてくれる。我慢はトラウマになることがある。

 だからこそ、自分の感覚を信じたり、それを言葉で伝えることは自分のためにしていきたい。そう強く思う私がいまここにいる。


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