地方に起業を増やすべき理由
はじめまして。私は、福岡でローカルベンチャーグループという会社を経営しています。地方中堅企業やベンチャー企業への経営コンサルティングに取り組みつつ、地方都市での起業および地方問題を解決するための起業を考えている方に対して起業支援を行っています。
そんな私ですが、もともと起業するつもりなど、一切ありませんでした。当時働いていた会社は自分にとって最高の環境であり、運と縁もあって若くして経営に携わることもでき、非常に充実していたものです。きっかけは、熊本地震。いろいろな要因が重なって、私自身は起業するとかを考えるよりも先に、「退職して九州へ戻る」ことを決めたことからいまに至っております。
このような経緯だったため、起業への意欲など、当時は皆無でした。ただ無職期間にぼんやりと将来を考えるうちに、「転職したい会社がない」ことから起業するしかないと一念発起した次第です。この時の思いが、タイトルにある「地方に起業を増やすべき」という原体験になっています。
では、なぜ地方に起業を増やすべきか。これをいくつかの理由で説明したいと思います。
「人口増減と起業率は相関関係にある」
「中小企業白書(2016)」に、都道府県別の開業率が掲載されています。これを見ると分かりやすいですが、人口増減と開業率の相関がはっきりと出ています。これは「魅力ある都市に人材が集中し、その人材が挑戦することで、さらに魅力が増す」という構図になっていると思われます。この現状を見て、私はニワトリ・タマゴを逆に捉えて、「起業する人が多い都市は、挑戦しやすい環境にあるので、若い人が居続けたい街になるのでは」と考えています。
もちろん起業するためには市場規模が大事な要素であり、この多くは人口やユーザ数に影響するため、大都市が有利であることは間違いありません。でも事業モデルによっては場所を問わないものもありますし、そもそも地方都市で起業する人の多くは、IPOなどのEXITを目指してなどおらず、その地で一定規模に成長することをまずは目標にしています。
このVCが得意とするユニコーン的発想ではなく、地域密着型の地場企業を数多く増やすという発想なくして、地方での生活利便性は維持できないですし、人口流出も避けられないと思えるのです。
「人件費を上げるためには、新陳代謝が必要」
続いて、厚生労働省が出している「都道府県別に見た賃金(2020年)」を見ると、違った特徴が見えてきます。全国の平均賃金は「307.7万円」になっていますが、ここで着眼したいのは「平均を上回っている都道府県」です。
なんと平均を上回っているのは、「東京・神奈川・愛知・京都・大阪」のみです。そして東北、北陸、九州などは、平均を大きく下回っているのが分かります。
これは人口減による市場縮小などが要因である面もあると思いますが、私自身はそう捉えていません。このような状況下でも確実に成長している企業はありますし、平均を上回る賃金を出す企業も多くあります。つまり本質的な理由としては、「賃金を上げ続けるだけのイノベーションを起こせていない」こと、もっというと「イノベーションを起こしていない人材に対して賃金を出し続けている」構造にあると考えます。
ここで雇用法制について語ることはしませんが、地域同様に企業内でも少子高齢化が進んでいることは事実で、この年功序列型による賃金カーブの影響を受けているのは、間違いなく若者層です。にも関わらず、労働現場においては若者層に期待される要件は高いため、「見合わない」「フェアでない」と感じている声を多く耳にします。
こうした現状を打破するためには、「新しい受け皿を多くつくる」ことが非常に重要だと考えられます。そのひとつとして、起業を増やすことは非常に重要な政策だと、私は考えています。
そしてその重要な考え方として、「少人数×高生産性」型の企業を数多く増やすことにあると思います。かつて地域人口が右肩上がりに増加していた時代であれば、対面サービスなどを行う人材を雇用するという選択肢もあったのですが、いまやユーザはもとより、地方都市で従業員を雇用することは非常に難しい状況であります。そのためにはITを活用した高生産性を実現しない限り、高報酬のジョブをつくることはできません。つまるところ、DXなどのIT恩恵は、実は地方ほど影響が大きいのではないかと思うのです。
「住んでいる場所でキャリアが決まることを打破する」
そして私自身がなによりも変えるべきだと思っているのは、「住んでいる場所によってキャリアの成長が決まってしまう」現状にあります。人口減や賃金などといったマクロ政策との連携も必要な部分については、私ごときができることは限られており、実効性を出すこともなかなか難しいものです。
でも国にも行政にもできないこと、それは「地方で働きながら、東京やグローバルレベルでのキャリア成長とやりがいを感じることができる仕事機会の提供」にあると思っています。
私自身のキャリアとしては、東京生活が長く、グローバル展開している企業でもあったため、様々な視察や交流、業務機会にも恵まれていました。こうした視野で仕事をしていると、日々の仕事だけでなく、業務外での研鑽機会や社外交流にも当然触れることになるため、圧倒的に成長できる機会に溢れていました。
しかしこうした環境は、東京本社だから作られたものではありません。会社のカルチャーとして根付いているので、全国各地の支社勤務メンバーも海外で勤務する外国人も共通しており、まさに場所を問わず機会を創造することに全員が立ち向かっていたのです。
その経験をヒントに、私自身が地方に貢献できることを追求すると、それは「起業への挑戦と失敗を寛容できる環境を提供するとともに、高度な経営レベルを求めることで、住む場所やこれまでのキャリアを問わず成長できる機会を提供する」ことにあると考えています。
当社が主催するLOCAL VENTURE ACADEMYでは、これまで150人程度の修了者がいます。保育士を辞めて保育業界の発展のためにtoB支援を行っている人、看護師を辞めて美容業界を変革することに挑戦している人、主婦から趣味であったDIYを起点に女性の生活を豊かにしようと考えている人。こうした「普通」の人たちの「本気」の思いを形にする、そしてその企業をともに成長させることが、地域未来の発展に必ずつながると考えています。
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