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錬金術とグラフィックアーツ発展の関係 ドラクエのような世界

私のカラーマネジメント人生の中にも、大きな影響を受けた本がいくつかあります。その中でも、印刷業界向けに色彩学を解説した、

印刷のための色彩学/一見 敏男著/日本印刷新聞社

は、発行が2003/2/1と古くとも、そこに解説されている色彩理論は、今も色褪せることなく知識や洞察を与えてくれます。

色彩論以外でも、色彩の歴史物語を楽しむことが出来ます。

その中でも、錬金術がグラフィックアーツ業界に与えた影響が興味深いので、今日はそれについて書いていこうと思います。

現在、私たちは多くの色に囲まれ豊かな生活を営んでいます。空や花や木などの自然の色だけでなく、歯ブラシや・車や・洋服や建物などの人工物にも鮮やかな着色がされています。

このカラフルな生活が当たり前のように思えますが、このようになるためには科学・技術の発達・経済的発展等、さまざまな豊かな要素により成り立っています。

昔の白黒写真を見ながら、私は父に「昔は街がどんな色していたのかな?知りたいな」と言いました。

父は、「いや、白黒写真とそんな変わらないよ、街に色がそんなになかったから。」

父の子供時代はまさに、戦後の貧しいまっただ中、そんな時代にカラフルな生活なんて贅沢だったんでしょうね。

私は、その父の言葉が忘れられません。

人類が色を使い始めるのは、2万年以上も遡ります。フランスラスコーやアルタミラなどの地方の洞窟から、壁画が発見されました。

引用:サイト 世界遺産・海外旅行ガイドより

これらはほとんどが褐色・黒色で描かれていますが、有色の土壌を獣の油と混ぜて壁に塗りつけたものでした。

これは金属を主成分とする「無機顔料」と呼ばれる化合物であり、色が丈夫で、耐久性・耐熱性に優れるが、粒子が粗く着色も限られているので、安定した発色を得るには何度も塗り重ねる必要がありました。

紀元前1000年頃、動物や植物から色を抽出し、染めものに使うことが考え出され、地中海の沿岸付近の海にすむ巻貝から、紫色の分泌液を取り出し布に染める技術が発見されました。

「染料」に分類されるもので、水・油・アルコールなどに入れるとよく溶けて均一に着色、布や紙につけると繊維の間にしみこんで染まりつく性質をもち、「無機顔料」に比べて鮮やかな発色をする特徴があります。

ここまでの歴史では、色彩の元となる色料は自然にある成分から採取していましたが、入手が困難で一部の貴族や王族など最高位の人しか使うことが出来きませんでした。

例えば、巻貝の分泌液は、2,000-10,000個もの貝からやっと1グラムの染料がとれるだけでした。そのため「帝王の紫」と呼ばれ、今に至るまで紫色は高貴さをイメージさせる色となります。

下の絵は、王族がお抱えの絵描きにうやうやしく、色材を渡している絵です。この王様の表情がこの色材の高価さを物語っていると思います。

引用:印刷のための色彩学/一見 敏男著/日本印刷新聞社より


私たちが色を自由に使うためには、人工的な色料の開発・製造を待つことになります。

その一方、ギリシャ時代より、色の本質を論理付ける試みが始まりました。

自然を、火・気(空気)・水・土の四元素としてとらえ、その混合で様々な物質が構成され、色もまたこの混合から作られていると考えられるようになりました。

アリストテレスは、空気と水は白であり、火は黄、土は本来白であるが着色されているので様々な色をしている、またこれが混合することにり沢山の色がうまれると考えられました。

例えば、火の燃焼で水と空気がなくなれば黒が出来る、植物は土の中から生じることで緑色になり、水分を吸収し、空気に触れ、太陽の火を受け、花や果実に様々な色を発生させる等の理論が出てきました。

時は中世に移り、色が自然の四元素から成り立っているのであれば、その組み合わせにより様々な色を自由に作り出せるのではないかとも考えられるようになってきました。

そのような考え方が発展し、鉄や鉛などの価値が低い金属から、高価な金や銀に自由自在に変化させる試みとして、紀元前300年くらいから「錬金術」が始まりました。

(黒色の土)-黒=(白色or黄白色)=金となるとの仮説の元、無数の実験が開始されます。

金属にも生命があり、鉛など値打ちの少ない卑金属は、病気を患っており、その病を治してやれば、健康な貴金属として金色になると考えられました。

さらには、健康な金属のためには「賢者の石」が必要であるなど、思考・実験は繰り広げられました。

もはやドラクエの世界のお話ですね。

そのうち、貴族、僧侶、医者、職人、平民などあらゆる人が参加し財貨が散在されて、結果として社会全体で生活が困窮するようになり、各国で錬金術禁止令が発令されるに至ります。

結局錬金術は、紀元前300年からスタートし1400年代までの間、熱狂的に行われたにも拘わらず、健康な金属を手に入れることは出来ませんでした。

しかし、錬金術はその大きな目的を達成出来きませんでしたが、その歩みで、各種の金属がさまざまな薬品と煮たり焼いたりされる中、その過程で多くの人工無機顔料を誕生させました。

その結果として、1700年代の無機顔料の製造という素晴らしい業績としてよみがえることになります。

その後人類は、合成染料→有機顔料等の技術を手に入れ、現在のグラフィックアーツに至り、色が生活を彩るようになりました。

ものすごい歴史です、錬金術がなかったら私のカラーマネジメント人生も違ったものになっていたでしょう。この矮小でつまらない私の人生も、この大きく偉大な歴史に影響されていたのですね。
デッカいやら、ちっさいやら、訳が分からなくなってきました。
そして、ドラクエのストーリーを読み返したくなってきました。

ドラクエ音楽を手がけたすぎやまこういちさんが、先日亡くなりました。ご冥福を心よりお祈りいたします。

今日はこのあたりで!お読みいただきありがとうございました。

PS.私はこの本でカラーマネジメントの基礎を学びました。もうボロボロになってしまいましたが、大きな影響を与えてくれた大切な本です。

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