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70.アングラ音楽けもの道:サンプリングの深い森

ネットに転がる奇妙奇天烈、ヘンな音楽。そんなアングラ音楽を紹介していきます。新しいおもちゃ(楽器)を手に入れた時の初期衝動。そもそも音楽の始まりってそうですよね。音が出るものを見つけて、それで遊んでいるうちに楽しくなっちゃう。そんな初期衝動を十分に感じられつつ、ちょっとクラクラくる音楽を探していきましょう。じっくり聴くというより揮発性、瞬間風速の面白さ。今回はそんな初期衝動が爆発しているサンプリング主体の音楽紹介。レッツリッスン。

1.MashUp

まずはサンプリングの王道、MashUp。異なる複数の曲を混ぜ合わせて1曲にしたもの。魔改造曲ですね。聴いていただく方が早いでしょう。

「思いついたからやっちゃった」的なノリが最高ですね。一時期MashUpにハマっていていろいろ曲を集めていたことがあります。その中でもお気に入りの1曲。Lady Gagaの「Judas」とJudas Priestの「Painkiller」と夢のコラボ。作成者の「Wax Audio」はけっこう力技の魔改造が多い人で、好きなMashUpperです。多少無理やり感があった方が面白いんですよね。MashUpは5曲ぐらい紹介しましょう。

こちらもWax Audio。メタリカmeetsパンジャビMC、バングラビートですね。インド北部、バングラデッシュとか、北インド音楽とメタルの融合。これこの時はジョークでしたが破壊力が高い。新しい音楽ジャンルの創出でもあります。2015年の作品なので、その後のBloodywood※1にも影響を与えている、かも。HIP HOPだっていろんな音ネタを組み合わせて遊んでいたら新しいムーブメントが生まれていったわけで、こうしたアングラシーンは新しい音楽の発生~孵化(インキュベート)シーンでもあります。誰かの思い付き、初期衝動からシーンは始まっていく。

意外とMashUpで多く見るのがSlayer(というかSlayerばっかり作ってる人がいる)、他にもシャンソンとコラボとかあるんですが、これはABBAとSlayerのコラボ。なんというか、独特すぎる激情。切々と訴えるボーカルが妙にドラマティックで演劇的。面白い組み合わせです。これなんか元ネタの組み合わせの面白さを超えて、ひとつ新しい音楽表現とも言える。(音だけだと)ミュージカルみたいですよね。

続けてMichael Jackson × Metallica。こちらは映像も沁みます。

曲の持っているメッセージ性をサウンドと映像で強化していますね。サウンドを担っているMetallicaの曲名は「Sad But True(悲しいけれど現実)」。これはMashUpの中から生まれた真のクリエイティビティー。歌詞の意味はこちら。こういう「もともとの持っている曲の意味をさらに深める」マッシュアップもありますね。後述するプレイリストに入れてある、Bee Geesの「Stayin' Alive」とPink Floydの「Another Brick In The Wall」の組み合わせも歌詞の意味が深まっています。

ラスト1曲。

Gloria Gaynorの「I Will Survive」×DIOの「Rainbow in the Dark」。メタル界随一と言われたDIO様の歌唱力も堪能できます。熱唱系のデュエット曲として普通に完成度が高い。ちょっとジーンと来ます。

その他、オススメMashUpを少し集めてプレイリストを作りました。気に入った方はこちらもどうぞ。どれもニヤリ(時々ホロリ)とします。

2.音MAD/NerdCore

続いて、MashUpに近いといえば近いのですが、もっと元ネタが変なもの。非音楽も組み合わせ、音楽的にどうこうというよりは「音ネタ」に近い。ただ、響きが純粋に面白くて癖になる魅力もあります。音MADから1曲どうぞ。

情報の洪水、いやぁ、音楽としても尖鋭的だし初期衝動というか衝動の塊ですね。勢いがある音。アンダーグラウンドテクノとか、ハードテクノもこの辺りの音に近いものも感じます。音MADについては「みんなで決める!平成の音MADベスト100」という企画があり、この曲が1位。

で、似たものとしてNerdCore(ナードコア)というものがあります。世界的にはこっちの呼び方かな※2。どちらもニッチでマニアックなものなので呼称は何でもいいのですが、見つけるときの検索キーワードとして。Nerdというのはまぁ日本語の「オタク」に近いニュアンス。世界的に見ればナードコアの一種としての音MAD、ということになるのかな。まぁ、日本でナードコアというと結局音MAD的な世界。ナードコアで代表的な方がこちら。

なんと、noteにご本人がいらっしゃいますね。ナードコア、音MADの世界を深堀したい方はぜひどうぞ。さすが「なるほどー」という内容。

「安眠ヘルス磁気まくら」というワードをループ再生しているうちに、グルーヴ感を見出して、そこにビートを入れたくなった、というのが高野政所の創作の出発点だった。面白いポイントとしては、ビートやトラックがあって、そこにボイスを乗っける、というのではなく、まずはボイスのグルーヴありきでビートを乗っけたという事だ。

ここで書かれている「言葉を分解する」というのはとても面白い効果を生みます。これとか素晴らしいですね。

言葉も含むすべての音をリズムとして扱う、というのはそもそもファンク~ヒップホップの文脈だ、と上記の記事にもあります。その影響はロックやテクノ界隈※3にもありますね。フランクザッパもいろんな人の話し声だとか、非音楽的な音をカットアップして音楽を組み立てようと追求※4しました。

3.VaperWave

続いてはVaperWave(ヴェイパーウェーブ)です。これけっこう分かりづらいムーブメントですね。基本的にはカットアウトした素材を集めて作るサンプリングミュージック、サウンドコラージュ的な音楽なのですが、音MADとは違ってアンビエントというか、落ち着いて聞ける、音楽的な側面も追及しています。もともと、デザインとかアート界隈からスタートしている模様。80年代、90年代、IT化やインターネットの黎明期のモチーフを組み合わせて心地よい音楽、音像を提示していて、その流れで日本のシティポップなんかも「ノスタルジーのアイコン」のひとつとして取り入れられたりしました。長尺のミックスが多いのも特徴。作業用BGMみたいな感じで聴かれることが多いのでしょう。

見ての通り、日本のアニメや日本語が記号的に扱われています。VaperWaveについての特集記事はこちら。

このムーブメントが生まれたきっかけは、2010年頃からはじまった実験音楽家たちのプロジェクト群だ。
1980〜90年代の楽曲を中心にサンプリングし、チョップド&スクリュードという手法を用いてピッチダウンさせたり、特定のフレーズをループさせるのが主な特徴だった。
けっこう不気味な音楽なのだけど、ある時期にいくつもの名前を使って同時多発的にリリースをしたアーティストがいて、音楽ファンの間で話題になった。それらがいつしかヴェイパーウェイヴと呼ばれるようになった。
名前の由来は、それ以前に流行していた「Chillwave(チルウェイヴ)」や、未完成のソフトウェアであることを示す「Vaporware(ヴェイパーウェア)」という言葉に似ているからだと言われている。

けっこうデザインと密接に絡みついたムーブメントという印象を個人的には持っていて、まずはwebデザイン、2017年ぐらいから言われた「ブルータリズム」はこの流れと歩調を合わせていた気がします。

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どちらが先かわかりませんが、「90年代的なモチーフ」が使われて、ネット黎明期にあった「斬新なデザインだけれど使い勝手が分からない(当時はまだサイトごとにボタンの位置とかもバラバラで試行錯誤していた)」を再現したようなデザインのサイト群がブルータリズムと呼ばれました。このあたりのビジュアルはVaperwaveで使われるビジュアルにも近い感じ。

Vaperwaveの中心メンバーにはデザイナーもいたので、表裏一体なのかもしれません。映像とかデザインとかと結びついた音楽ムーブメントは多いです。で、ストリートファッションにもこの流れが来て、もともと当時トレンドだったメタル、ハードコア的なモチーフ(パッチワークとかデスメタルっぽいとがった字体とか)に、このVaperwaveで多用される「ランダム(っぽく)配置されたシンボル」「ところどこに入る日本語(またはオリエンタルな)文字」みたいなデザインが2017年あたりから出てきました。

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Dieselの2017秋冬のパーカー。

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Supremeの2020春夏。

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こちらは原宿系のLonley論理。

こんな感じで、デザインやファッションを巻き込んだムーブメントだった気がします。音的にはこの流れがインディーロックには受け継がれていて、Vaperwaveの文脈で語られることがあまりないアーティストですが、2020年話題になったKing Kruleなんかも音像はVaperwaveに近いものを感じます。もともと源流にあるチルウェイブからの流れもあるのでしょうけれど、ちょっと不穏な感じとかチープな音を混ぜてくる感じとか。全体としてつかみどころのない感じがVaperwaveっぽさもある※5。ムーブメント以降、ポップスの表現語法に「Vaperwave的なもの」が組み込まれたのでしょう。

4.Chiptune

これもVaperwaveに近い、ノスタルジックな電子音なのですが題材がファミコンとか、いわゆる8-bitマシンのゲームミュージック。テクノミュージックの原風景というか、ファミコンの音源で「電子音楽」に触れた人って多いわけで、そういうノスタルジーを刺激する音楽。これもBGMとして心地よい系(というか、集中してずっと聞くような音楽でもない、そもそもゲームミュージック自体BGMなので)で、ミックス集とか、ずっと流れっぱなしのラジオ局とかがたくさんあります。例えば代表的なものを一つ。

ロック/メタルテイストもあるアーティストもいて個人的にはなかなか好きです。そうしたアーティストたちはNintendoCore(ニンテンドーコア)とも呼ばれたりする様子。次に紹介するアーティスト名が「MASTER BOOT RECORD」で、アルバム名が「FLOPPY DISK OVERDRIVE」、曲名が「ANSI.SYS」「EDIT.COM」等々、、、。この音と相まってPCの部品やプログラムたちが意思を持ってドラマを演じているような気分になります。センスがいい。

なかなか壮大でドラマティックですね。なお、Chiptuneはサンプリングミュージックということではなく、当時の8-bitの音を再現するムーブメントです。音の系統が近いので流れで紹介。「生身の演奏がない音楽」という括りで。

5.ボカロ

「生身の演奏がない音楽」ということではこのジャンルを外せません。まずは衝撃を受けた曲を。

2000年代初頭、ボカロがちょっと盛り上がってきた頃にこの界隈をDigったことがあったんですが、その時はあまりハマらなかったんですよね。そこまで惹かれる曲に出会えなかったというか。この曲は「おおー、ボカロ進化してる!」と個人的に感じた曲。声ではありますが楽器なので、こういう「サンプリングしたリズム楽器としての使い方」みたいなのをボカロの世界観、ポップさとうまく組み合わせるとすごく輝くなと体感。製作者のココアシガレットP(GYARI)は小林幸子さんとコラボもしていたりして面白いですね。

で、他にも聴いてみて魅力的だったのはこちら。ボカロ曲らしい歌詞と人間には歌いづらいメロディ。

今はボカロ曲もさらにすそ野が広がっていますね。製作者が多いのでなかなか自分の気に入る曲と巡り合うのが難しいですが、そんな扉を開いてくれるのがこの記事。こちらから知りました。

6.SpeechCore

知る限り一番新しいムーブメント、昔からあったのかな。実際の演説などを曲に合わせて切り貼りしたり、あるいは演奏を合わせて音楽化してしまうムーブメント。ここ1~2年でよく見るようになった印象です。ムーブメント名を仮題でSpeechCore(スピーチコア)としましたが、こういうものの正式名称なんていうんだろう。あるのだろうか。

ではまず、もっともよく音ネタにされるトランプ氏から。

Queenだって歌います。プーチン氏もゲスト参加。夢の豪華コラボ。

こちらはサンプリングではなくスピーチに演奏を合わせて音楽にしてしまう人。何気に凄い。完成度も高い。Andre Antunesという人で、オリジナルアルバムア出しているもののそれほど知名度のなかったアーティストのようですが他にもスピーチの音楽化をいろいろアップしていてYoutubeで人気上昇中。センスが良くて独特な中毒性があります。

後は以前紹介したグレタさんの演説※6なんかもありました。

おまけ.空耳Flash

ネットミーム的な音ネタって色々ありますが、けっこう古いムーブメントがこちら。のま猫の「マイヤヒー」にはじまり「もすかう」など、いろいろな曲が出てきました。サッカー中継の空耳なんてのもありましたね。最後に1曲、これからの世代のために語り継ぎましょう。

■終わりに

さて、アングラ音楽けもの道いかがだったでしょうか。「知ってるよ」というものも、「へー」というものもありましたか。驚きがあったらいいなぁと思います。「好きだからやってます」なアングラ感。ネットによって、そんな深い森に超メインストリートなアーティストと並列に、ワンクリックでたどり着けるというのは凄い時代ですね。ネットが生まれたからこうしたさまざまな表現衝動がアウトプットされるようになった面もあるのでしょう。またそのうちネタが溜ったら続編をやろうと思います。

それでは良いミュージックライフを。

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■脚注

※1 ガチで北インド音楽とメタルを融合させているBloodywoodですが、彼らもバングラビートやっているんですよね。このマッシュアップから着想を得た気もします。彼らについては当ブログの最初の記事でも取り上げているのでどうぞ。

※2 もともとNerdCoreという言葉はラッパーのMC Frontalotが最初に使ったとされています。オタクっぽいネタでヒップホップをカマすミュージシャン。なので、NerdCoreで検索するとサンプリングミュージックだけでなくヒップホップもたくさん出てきます。マッチョでワルなHipHop以外にもいろんなテーマがあるんだぜ、と。日本(J-HipHop)の場合、黎明期(1990年代初頭)から脱力系、日常系、文化系(スチャダラパーとか)だったのでHipHopのテーマもNerdCore的だったかも。

ただ、音的にはこうしたHipHop的なものよりハードコアテクノとか、ロシアンハードベースとかにより近い気もします。ロシアンハードベースってこんなの。

こっちの方が音MAD感はありますね。ゴプニキはニコ動でもキャラクターとして人気もあったそうで。こちらの記事に詳しいです。良記事。

※3 テクノでボーカルのグルーブをリズムとして使う試みはいろいろとあるんですが、一番プリミティブかつ個人的に衝撃的だったのがOrbitalのこの曲。こんなにシンプルなのにきちんと成り立つというか。最小構成のまさにミニマルミュージック。

左右で同じフレーズが繰り返され、ずれていくだけなのに面白い効果が生まれています。サンプリングの原始的な面白さが分かるいいトラック。

※4 ザッパは言葉とか非音楽的なものを音楽、ロック音楽に取り入れることに意欲的でした。Lumpy Gravy(1968)とか、Thing- Fish(1984)とか、Civilization Phaze3(1995)とか、「話し声」が主体の実験的なアルバムを何枚も出しています。一曲どうぞ。

※5 King Kurleはアルバム全体を通してみるともっと暴虐性とか肉体性も感じます。アルバムの中にVaperwaveの要素も入っている、という感じ。アルバムを聴いた時はVaperwaveとの流れに気が付きませんでしたが、全体として「つかみどころがないけれど心地よい」という効用がVaperwaveに通じるものを感じます。クリエイティブな作業のBGMにも良い感じ。

※6 グレタさんの演説メタルを紹介した記事はこちら。他にも奇天烈音楽(激しめ)を紹介した記事です。今回の記事はこの続編と言えるかも。



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