知らない音楽との出会い方
音楽に関するテキストを「書く」理由は様々ですが、一般リスナーが「読む」理由は大きく2つに集約されると思っています。
1.知らない音楽と出会う
2.知っている音楽をより深く知る
他に研究者、業界人、演奏者向けのテキストもありますが、今回は除外
普段、この2つのどちらかに関する文章を書いているつもりですが、今日は「知らない音楽と出会う」方法について書きます。どこで音楽と出会っているか。僕が音楽と出会っているさまざまな方法を紹介していきます。
1.webメディア
普段見ているwebメディア3つです。
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Allmusic ー 全ジャンル網羅のレビューサイト
USの音楽レビューサイトです。★5段階で評価。複数のレビュアーがいますが全体的にけっこう趣味(レビューする感覚)が合うので、ここで★★★★☆以上のものは一聴してみるようにしています。ジャンルが広いのが特徴。ロック/ポップだけでなくクラシック、ジャズ等、幅広いジャンルのレビューが乗ります。メタルとワールドミュージックは弱め(レビューは載らない)ですが、ディスコグラフィーは載ることが多いのでデータベースとしても重宝しています。
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https://www.albumoftheyear.org/
AOTY(Album Of The Year) ー 各種メディアレビューの集計サイト
60以上の各種メディア(AllMusic、Classic Rock、Kerrang!、Metal Hammer、Metal Injection、Mojo、NME、Pitchfork、Q Magazine、Rolling Stone、The Guardian、The Independent、The Telegraph、Uncut他)を網羅したメディアレビューのポータルサイト。各種メディア評価とユーザー評価の平均値が出ます。似たサイトにMetactiricがありますが、AOTYの方が使い勝手が好みなのでこちらを使っています。AOTYとMetacriticで微妙にスコアが違うのも面白い。参照しているメディアや計算方法(各メディアの重みづけ)が違うのでしょう。単なる平均値ではなく、メディアの影響力で重みづけをしていると思われます。メタル系も網羅しているのが特徴。PitchforkやNMEはあまり単体ではチェックせず、AOTYでまとめてチェックしています。「年間必聴アルバム」というのがあって、メディアレビューの平均値もユーザーレビューの平均値も両方80を超えたアルバムが対象。これはあまり外れがないので重宝しています。
ちなみに2021年の現時点でのベストアルバムはこんな感じです。
https://www.albumoftheyear.org/ratings/6-highest-rated/2021/1
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RYM(Rate Your Music) ー マニアによる投票サイト
こちらはメディアというよりレビュー投稿サイトですね。マニアが集まる場所。メタル系が強いんですよ。えらくマニアックなアルバムが上位に来たりしています。日本のアルバムもけっこう取り上げられていて、このサイトだと日本のアーティストはフィッシュマンズが圧倒的高評価。「The Top 100 Japanese albums」という企画があって、なかなか面白いです。
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2.ストリーミングサービスのレコメンド
ストリーミングサービスのレコメンドも知らない音楽と出会う手段です。3つのストリーミングサービスを使っています。Spotifyは使っていません。CD音質になるSpotify Hi-fiが出たら試してみる予定。
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TIDAL
普段、メインで使っているストリーミングサービスはTIDALです。日本ではサービス未提供ですが海外サーバーを通せば契約できます。もともとはハイレゾを提供しているストリーミングサービスはここだけだったので使い始めたんですが、Amazon Music HDやApple Musicもハイレゾ音源提供を始めた中でなぜ使い続けているのかというと(Apple Musicの月額980円に比べてTidal Hi-fiは月額19.99ドル=約2700円と高い)、不思議と音がいいんですよね。同じくハイレゾ音源のはずなんですが、音の密度が濃い。ラジオ局やラジオ番組でも音がいい番組ってあるじゃないですか。たとえば山下達郎のサンデーソングブックは音がいい、とか。配信するシステムでも音は変わるのでしょう。Apple Musicのハイレゾ化で喜んで乗り換えてみたんですが、3ヶ月使ってみてやっぱり契約し直しました。
もう一つ、レコメンドがけっこういいアルバムを出してくるんですよ。おススメのアルバムが自分の好みに合いつつもけっこうマニアックなところを攻めてくる。聞いている履歴からパーソナライズして自分の好みの音源を出してきてくれるんですが、Tidalはこれが強い(比較するとApple Musicはレコメンドが予想外に弱いです)。TidalはもともとJay-Zが経営していたのでイメージ的にヒップホップが強そうですが、実際にはけっこうメタル系も強い。レコメンドが多いです。それから、Apple MusicにはないのにTidalにはあるアーティスト(たとえばDevin Townsend)も結構います。多分、Tidalの方がストリーミングあたりのアーティスト単価は良いのでしょうね。そんなTidalの弱点なのが邦楽。日本でサービス提供していない分、日本人アーティストが少ないです。
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Apple Music
ストリーミングサービス2つ目。主に邦楽を聞くのに使っています。あとは国別ランキングが見れるのは面白い。以前国別ランキングで記事にもしました。
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YouTube (Music)
ストリーミングメディアというか動画メディアですが、YouTubeの動画レコメンドは良くできています。広告が出なくなるYouTube Premiumに入ると音楽ストリーミングサービスであるYouTube Musicがついてくるのでこちらも使用中。音楽を聴くより動画(MVやライブ映像)を見るのがメインの使い方ですね。非英語圏(たとえばインドなど)のユーザーも多いので、ワールドミュージックのMVが多いのも特徴。YouTubeの世界ランキング巡りは刺激的です。一つ、知らないアーティストをクリックするとそこからどんどん関連ビデオがレコメンドされるのも素晴らしい。googleのレコメンドエンジンだけあってレコメンドの質も量も高い。
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3.note
noteも重要な情報源です。基本的に音楽系しかフォローしていないので、僕がフォローしているすべての方が「知らない音楽を教えてくれる人」「音楽についての新しい視点を与えてくれる人」なのですが、その中でも「知らない音楽に触れる」という視点で情報密度と更新頻度が高いnoteをいくつか紹介します(あとで追記するかも)。
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まずはLatina。老舗のラテン音楽マガジンが現在はnoteにお引越し。
ここに出てくる月1回の「最新ワールドミュージック・チャート紹介」はワールドミュージックの貴重な情報源です。
より伝統的なワールドミュージックを紹介しているのがみんおん(民主音楽協会)のnote。旅行気分も味わえます。僕のプロフにも書いていますが「音楽はバーチャルな旅でもあると思います」ということをまさに具現化しているnote。僕もときどき世界各地の音楽紹介を仮想旅行の形式で書きますが、みんおんさんのはより本格的で楽しめます。
高橋アフィさんのnote。幅広いジャンル。ご自身もドラマーであり、音楽ライターでもあるので、プレイヤーとしての視点も踏まえた簡潔でツボを押さえた文章も素晴らしい。
KPPC-Mさんのnote。こちらも幅広いジャンルで音楽愛を感じます。クラシックがポップスやロックと並列に並んでいるのが特徴。最近すっかり離れていたクラシックが時々聞きたくなるようになりました。やっぱりいいんですよね。演奏者は上手いし、音楽も考え抜かれているし、生き残るものは凄味がある。
boonzzyさんの今週の全米アルバムチャート事情。メインストリームど真ん中ながらなかなかチャートって追わないですからね。たまたま「全米1位」とかだと「そうなんだ」とは思いますが。あと、チャート100位までだとけっこうマニアックとか通好みのアーティストも入ってきます。こうして丁寧に追ってくれるのはありがたい連載。最近US、UKのチャートアクションにも意識が向くようになったのはこの連載のおかげ。
sgswさんのnote。エッセイと音楽紹介が溶け合ったようなスタイルで、スッと入ってくる文章が素晴らしい。紹介されている音楽はアンビエントや、穏やかで静謐な表情を湛えた音楽が多めです。
よりジャンルに特化したnoteだと、verylongunagiさんの月刊Synthwave生活。このジャンル、それほど深く掘っていないので勉強になります。揺蕩う心地よい音楽。
HOLIDAY! RECORDSの「日本の最新インディーズバンド。このバンドがすごい。」タイトル通り、インディースレーベルによる日本のインディーズバンド紹介。フレッシュなギターポップ、ギターロック系が多い印象です。
〈to'morrow music〉の「NEW ARTISTS OF THE MONTH」。こちらは日本に限らず世界中のニューカマーを紹介しています。SXSWに出そうな、日本で言えばフジロックの小さなステージで演奏していそうなバンドが多め。
あたりは情報密度が濃い記事を書かれていて、かつ、定期的に更新されています。
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僕自身がやっている、プレイリスト形式で多くの曲をまとめているマガジンはこちら。
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アルバム単位でのレビューだと、次の方々。
𐭌𐭓𐭌𑁦𐭌𐭓𐭌𐭓さん。少し古めの名盤を紹介しています。ロック、ジャズ系。ものすごいメジャーどころじゃなく、メジャーなアーティストも関わった隠れた名盤、みたいなものを丁寧に掘り起こしている印象。勉強になります。
アボかど(にんじゃりGang Bang)さん。ヒップホップ系多め。あまり聞かないジャンルなので勉強になります。
内山 結愛さん。オルタナティブ、インディーロックの名盤系多め。「聴いてみた」ということで新鮮で面白い感想。回を追うごとに知識が繋がっていく感じがするのも面白いです。
Kt.Fmkさん。オルタナティブ、インディーロック系多め。レビュー内容に「なるほどそうだよなぁ」と思うこと多し。10点満点の採点もあります。
五辺宏明さん。「アルバム紹介」というよりは「レコード(という物理的なメディア)」と、その思い出に紐づいたアルバム紹介といった内容で、様々な音楽を紹介しています。
戸嶋 久 hisashi toshimaさん、ワールドミュージック中心。独自にひたすら好きな音楽を掘り下げている印象。他に出てこないアルバムが多くて勉強になります。
音楽の杜さん。クラシックロックの名盤が中心で、「いい音楽」という視点でレコメンドされています。
”アルバム”ではなく”アーティスト”単位ですが、さまざまなアーティストを紹介しているmasa@themusicさん。最初のうちはメジャーどころが多かったですが気が付いたらだいぶマニアックになってきました。「知らない人向けに、新しいアーティストに出合ってほしい」というコンセプトが徹底していて素晴らしいnote。
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僕がやっているアルバムレビューはこちら。
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4.紙メディア
紙メディアは雑誌と本。まずはメタラーご用達のBurrn!ですね。
なんだかんだ今も読んでいます。100点満点のディスクレビューあり。
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次いで、メディアというより出版社ですが、パブリブから出る本はマニアックで勉強になります。
世界中のマニアックなメタルのサブジャンルを集めたシリーズは分量、熱量ともに圧倒されます。
デスメタル・アフリカ。デスメタルとありますがデスだけでなく、メタル、ラウドロック全般。そんなに細かく分かれていません。今、いかにもなメタルというとデスメタルっぽい激烈な音像が主流。
デスメタル・インドネシア。インドネシアってデスメタルバンド多いんですよ。
デスメタル・チャイナ。こちらはメタル全般。そんなに激しくないバンドも多めです。中国の音楽シーンって巨大な割にあまり情報が出てきませんから貴重。
デスメタル・コリア。こちらは結構激烈。日本のシーンに近いですね。
他にもいろいろな本を出しているのでおススメの出版社です。
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他、ミュージックマガジンは時々読みます。
紙メディアで定期的に読んでいるのはこれぐらいです。他はディスクガイドなどですが、ディスクガイドや音楽本のおススメはまたの機会に。
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5.ライブ
知らない音楽と出会う方法、逆に言えば「アーティストが自分の音楽を知ってもらう方法」ですが、一番歴史があるのはライブです。実際に聞いてもらって知ってもらう。現代の有料興行ライブだといきなり知らないアーティストのライブにチケットを買って行くことは少ないでしょうが、フリーライブやフェス、イベントの対バン(目当てのアーティスト以外にも出るアーティスト)などで知らないアーティストに触れることはあるでしょう。友人とのカラオケで知るアーティスト、というのもある意味同じかもしれません。
昔は「好きなアーティスト」だけのライブに行っていましたが、ここ数年は「知らないアーティストでも面白そうなら行く」という風に変わりました。ライブ見ると一発で新しいバンドと出会えますからね。コロナでライブが減ってしまっていますが、フェス形式のライブは知らないバンドに多く出会える良い機会です。「あまり知らないバンドとライブで出会えた」系のライブレポートはこちら。
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以上、「知らない音楽と出会う方法」というか、「僕が知らない音楽と出会うためにしていること」でした。皆さんは知らない音楽とどこで出会っていますか?
それでは良いミュージックライフを。
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