自作小説『君の笑顔ができるまで』第1話

きっかけ


久々に学生時代の中国人の友人アイアイと池袋で飲んだ。
その際、彼女の従兄弟を飲み会が終わり帰宅したあと、SNSを通じて紹介された。

都内の大学に通う2年生の李傑くん。日本語に苦手意識がまだあり、中国人コミュニティ以外には社会的繋がりがほぼなく、日本人の会話練習相手が欲しいらしいのだ。

やりとり


LINEでは

シャオリー「李傑です。私のことは、小李(シャオリー)と呼んでください。」

私「私は玉子といいます。オタマと呼んでください。」

シャオリー「わかりました。オタマに質問があります。私は簿記が嫌いです。どうしたらいいですか?」

私「私の使わなくなった簿記の教科書あげるよ。」

シャオリー「じゃ、新宿の海底捞に行きましょう。火鍋の店です。とても美味しいです!お礼にご馳走します。」

待ち合わせ

新宿駅で待ち合わせすることになった。
シャオリーを探し出すのは至難の業だった。
顔を見たことがなかったからだ。
アイアイの従兄弟だから、美男子に違いないと変な期待を膨らませながら待っていると、市川染五郎のような顔で、全盛期の高倉健のような髪型のひょろながい青年というより少年が立っていた。
「オタマ、オマタセシマシタ。走吧(行きましょう。)」
アイアイが私の写真をシャオリーに送っていたらしく、相手はたやすく見つけられたそうだ。

店に着くと、いきなり、
「ワタシノナマエハ、ニホンゴデヨムトミンナワラウ。デモゼッタイオタマハワタシノコトヲ『オケツ』トハヨバナイデ。トテモトテモキズツイタ。ワタシノナマエ、トテモトテモステキナノニ。」

日本人も残酷な民族である。人の名前で揶揄うのは御法度である。
期待していた学生生活ではないらしく、エンジョイしているわけではないらしかった。
美しい顔の少年だが、顔の表情を微動だにしない。かなりナイーブなようだ。

私が、おどけてみせても、冗談を言っても笑わないのだ。声を大にして言えないが、学生時代、私はムードメーカーだったはずだ。老若国籍関係なく人間なら誰もが私のネタで笑ったはずだ。

しまった。現在の世の中のギャグセンと私の笑いの感覚はズレているのか!
思い返せど、先日親戚の集まりで、私が祖母の妹をいじり倒した時も、みんな抱腹絶倒だった。

シャオリー、なぜ笑わないんだ?やはり傷つきやすいのだろうか。

火鍋にどんな美味しいエビだろうが、肉だろうが、マンゴージュースが来ても笑わない。

「オイシイデスネ。チュウゴクハイロンナタベモノガアリマス。ナンデモタベマス。トコロデ、ワタシホントウノトモダチガイマセン。オナジモクヒョウヲモツナカマホシイ。モットベンキョウシタイ。」

いい終えるとまた無表情で食べ出す。

「そうか。現状に不満があるんだね。今日は学校のことを一旦置いて楽しもう!」

それでもまだ顔の筋肉がかたいままだ。

疑問


最後にシャオリーがトイレに立った隙に、アイアイにLINEした。

私「アイアイ、シャオリー笑わないんだけど、どうしよう。嫌われてらぁ。」

アイアイ「あの子、笑わないの。昔から。内向的で自分のことなかなか話さないの。まだオタマに話してるだけ、あなたに心開いてんだよ。」

なるほど、内気なのか。

決意

私はどうしてもシャオリーの笑顔が見たくなった。

つづく。

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