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連載小説《魔法少女えりっこ×りょっこ》第3話:少女達の決意と恐怖心(2)

 《前回のあらすじ》
 全校集会の後、担任に呼び出された恵璃子達。
 危険な事に身を投じている恵璃子達を責める稜子の担任の雄貴をなだめたのは、恵璃子達の担任の修だった。
 恵璃子達の話を真剣に聞き、恵璃子達を信じることを決めた修に、世界を守る決意をさらに固めた恵璃子達だった。


 その日の放課後。恵璃子と由希と茉弥、そして稜子は、誰もいない3年B組の教室に集まっていた。
「北村先生と井川先生の前でハッキリ決意表明したからなぁ……ホンマ頑張らなあかんな、ウチら」
 腕組みをする茉弥。そこに恵璃子が続ける。
「そうね、みんなを守れるくらい強くなりたいわよね」
 そう言った恵璃子の後に、由希が続ける。
「確かにー。私達、魔法少女になったばっかだもん。塔子さん達からもっとアドバイスもらいたいな」
「あっ! それと、夜の街の見回りもした方がいいと思います!」
 3人が話している中に、稜子が右手を挙げて入ってきた。
「ノワールは、もしかしたら夜も活動してるかもしれません。無防備な夜の街をノワールにめちゃくちゃにされたら大変ですよ!」
「稜子ちゃんの言う通りね。基本、塔子さん達は人間界にいないし、これからは夜の巡回も始めましょう」
 恵璃子が言うと、茉弥と由希もそれに乗る。
「せやな! さっそく今晩から始めよか!」
「さんせーい! じゃあ夜の9時、学校の東門集合ね!」
「了解ですっ!」
 稜子は元気に敬礼のポーズをする。それを見て微笑んでいた恵璃子が急に声を上げた。
「あっ、稜子ちゃん! バイト!」
 教室の時計を見た恵璃子は慌てて立ち上がる。
「あーっ! 4時半過ぎてます!」
 そう言われた稜子も時計を見て慌てる。時刻は4時40分。
「店長さんに怒られちゃうよ! 急ごう!」
「えっ、あんたらバイトって何や?」
 茉弥が首を傾げて恵璃子に尋ねる。
「詳しい話は後でするわ! じゃあね!」
「由希さん茉弥さん、また後で!」
「ちょっ、ふたりともー!」
 由希の声を背に、恵璃子と稜子は鞄を抱えて急いで教室を飛び出した。
 
 *
 
「15分遅刻っ! 初日から何やってるの!」
 恵璃子と稜子が猛ダッシュで喫茶店『Charme -シャルム』に着いたのは4時45分だった。絢子は腕組みをしてふたりを叱る。
「はぁ、はぁ……す、すみません……」
 恵璃子は息を切らしながら絢子に謝った。稜子も続けて「すみません……」と謝る。
「今日だけだからね! 今度からは気をつけてよ!」
「は、はい……」
 弱々しく返事をする稜子。
「ほんと、すみませんでした……」
 恵璃子はそう言って頭を下げた。
 
 その後、更衣室で店の制服に着替えた恵璃子と稜子。白のシャツと黒のパンツに、黒い腰エプロン。シンプルな制服だ。
「うん、ふたりとも似合ってるよ!」
「えへへ……」
 絢子に褒められ、稜子は頭を掻いて照れ笑いをする。つられて恵璃子もはにかんだ。
「さて、自己紹介しましょうか。私はこの喫茶店『Charme -シャルム』の店長、伊織絢子!」
「私は、四祈高校3年の椿野恵璃子です」
「四祈高校1年、関口稜子です!」
「ふたりともよろしくね!」
「よろしくお願いします!」
 恵璃子と稜子は絢子に向かっておじぎをした。
 
 夕方5時から夜6時までのバイト。恵璃子と稜子は接客を行った。客がいない時に店内の清掃をしたりと、ふたりは初めてのバイトをこなしていった。
 
 そして6時。
「ふたりとも、お疲れ様!」
 絢子がふたりにニッコリと微笑みかける。
「はぁ……接客緊張したぁ……」
 力が抜けた稜子は壁にもたれかかった。
「私も緊張したよ。ちゃんと笑顔で元気に接客できたかなぁ」
 少し心配そうに恵璃子が苦笑いを見せる。
「大丈夫! ふたりとも初めてとは思えないくらい自然な笑顔で接客出来てたよ」
「ほ、ほんとですか?」
「きっと、恵璃子ちゃんも稜子ちゃんも、人と関わるのが好きなのかもね。そして、この街が好き……きっとそうでしょ?」
 絢子はふたりを見つめた。
「はい……好きです」
 くすぐったいような笑みを浮かべ、稜子が答える。
「私も好きです。誰かとふれ合うのが好きですし、この街も好きです。みなさん私の守るべき人達で、ここが私の守るべき街だと思ってますから……」
 恵璃子は少し俯き、胸のあたりをギュッと握り締める。制服の内側に隠してある、首からかけた変身用の鍵をギュッと握ったのだ。
「そう……」
 絢子は深くを聞かず、優しい微笑みで恵璃子を見つめていた。
「そうだ、帰る前にちょっとゆっくりしていきなよ! そこ座って!」
 そう言って絢子はカウンター席を指す。恵璃子と稜子は並んで座った。絢子はカウンター裏に回り、何かを作り始める。
「はい、これ! 初バイトお疲れさま!」
 恵璃子と稜子の前に絢子が差し出したのは、グラスの縁にリンゴのスライスを1枚飾った黄金色の飲み物だった。
「ありがとうございます!」
 ふたりでお礼を言って、グラスに口づける。
「美味しい……!」
「ほんと……美味しいですね! 恵璃子さん!」
 顔を見合わせ、目を輝かせる恵璃子と稜子。
「ふふっ、ありがと! 特製のシナモンアップルジュースよ」
 ちょっと自慢げに、絢子が言った。
「リンゴの優しい甘さに、シナモンの香りがふわっと香ってきて……すっごく美味しいです!」
 そう言って恵璃子はシナモンアップルジュースをもう一口。
「これは通常のメニューには出さない裏メニューだよ。これからもバイト頑張ってくれたら、ふたりにだけ出してあげる!」
「わあっ、嬉しいです!」
 満面の笑みを見せる稜子。
「ありがとうございます! 絢子さん!」
 恵璃子も嬉しそうに微笑んだ。
「どういたしましてっ」
 絢子はそんなふたりに微笑み返す。

 しかし、美味しそうにジュースを飲む恵璃子を見つめながら、絢子はひとりまた含みのある笑みを浮かべるのだった。



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