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連載小説《Nagaki code》第6話─未来の郵便にーちゃん

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 男が倒れていた場所には、僕のリュックが雑に捨てられていた。僕がそれを拾い上げると同時に、男に殴られ倒れていた少年が唸り声を上げながら目を覚ました。
「うぅ……あれ、あいつは……?」
「もういないよ。それより……さっきはありがとう」
 僕は、学ランを着たその少年に手を差し伸べた。
「ううん、俺はただ人助けがしたかっただけなんだ。でも、逆にやられちまった……情けねぇ」
 俯きながら、僕の手を握った少年の手は少し震えていた。
「そんな……僕、嬉しかったよ? それに、郵便屋さんも助けてくれたし……」
「郵便屋さん……」
 ゆっくりと立ち上がった少年は、ウェイヴのかかった髪を指先に巻き付けながら何かを考えているようだった。
「あぁ! 眼鏡の郵便にーちゃんか!」
 少年は、殴られて腫れ上がった顔をパッと明るくさせた。急なテンションの変化に、僕はちょっとびっくりする。
「うん、眼鏡かけた人だったよ。知り合い?」
「知り合いではないけど、街中でよく見かける! あのにーちゃん、蹴りがすごいんだよな!」
 少年は拳を握りしめ、興奮気味で話す。
「さっきみたいなひったくりとか、あのにーちゃんがみんな倒してるんだよ! 俺、見たもん!」
「そ、そうだったの……!?」
 何てとんでもない人なんだ……。さっきの、照内さんの笑顔を思い出す。
「俺もあんな風に人助けしたい! やべぇ超カッケー!」
 どうやら照内さんは、この街の正義の味方らしい。少年はそんな照内さんに強い憧れを抱いているようだ。照内さんの話をする彼の目はキラキラしている。
「で!? にーちゃんはあの郵便にーちゃんに何か言われたの!?」
「あ、うん。あのね、」
 僕は、自分の事や、照内さんに言われた事を話した。
「よかったじゃん! 俺、にーちゃんの事応援するぜ!」
「へへっ、ありがとう」
「てか俺もそのバイト応募したんだ! 学校で毎年募集かかってんだよ! もしかしたら、にーちゃんとまた会えるかもな!」
 そう言ってニカッと笑うと、少年は表通りへ駆け出した。
「俺っ、加茂綾聖! また会おうなっ、未来の郵便にーちゃん!」
 殴られたことが嘘だと思えるほど元気に手を振って駆けていく少年──加茂綾聖君。彼が見えなくなる直前、僕も大きく手を振って彼を見送った。
「変な子だったなぁ……。でも──」
『これはお前宛ての郵便物じゃない』
 さっき出会った郵便配達員──照内さんの、呑気な声がリフレインする。
「あの人も不思議な人だったな……」
 そしてふと、気づく。僕は今『ひとり』になったけど、決して『独り』じゃない。きっとそうだ、と自分に言い聞かせ、僕は再び音楽で耳を塞ぐ。

 日の射す表通りに出た時にはもう、僕は決心していた。眩しすぎる日差しも、少なすぎる人通りも、何だか無性に心地よかった。

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