見出し画像

連載小説《アンフィニ・ブラッド》第7話

前話はこちらから↓


 北影通りの路地裏に積まれた木箱の上に腰掛けて、久利生エリは溜め息をついた。時刻は午前零時。血まみれの白いノースリーブから伸びる細く白い腕や手もまた、赤黒い血に塗られていた。
 エリが座る木箱の周りには、5人の死体が転がっている。スーツ姿のサラリーマン、ガラの悪そうな男、水商売の女、制服姿のふたりの男女。全員が身体を刃物でズタズタに切り裂かれ、肌の色も服の色も見えなくなるほど全身が真っ赤に染まり切っていた。
 エリの身体に付着したその血は、もはや誰のものなのか分からない。何人分の血なのかも分からない。それらが複雑に混ざり合い、エリの体を汚していた。
「はぁ……意外と退屈ね、人間界って」
 呟くようにそう言ったエリは、手にしたフルートを見つめる。吹き口の先端部分が鋭利な刃物に変形したそれもまた、エリ同様に血まみれだ。
「ちょっと休憩しようかしら」
 エリがそう言うと、血まみれのフルートは黒い光を帯び出した。その光が消えた時、刃物の部分は元のフルートの吹き口へと戻っていた。エリが今持っているのは、ただのフルートだ。ただ演奏するための楽器だ。それが血まみれであるということを除いては。
 退屈そうにまたひとつ溜め息をついたエリは、その吹き口を薄い唇に宛てがう。そして、細く、長く、息を吹き込んだ。
 
 *
 
 自宅マンションへ帰る途中だった阿武野ニルは、遠くから美しいフルートの音色を聞いた。その音色を、ニルは知っている。自信と誇りに満ち溢れた、美しいだけじゃない、色鮮やかな音色。
「シオンさんのフルート……?」
 その音色のする方へと、ニルの足は勝手に進んでいた。
 
 *
 
 なおもフルートの演奏を続けるエリだったが、その視界の先に人影を見つけた。白と黒を基調としたゴスロリワンピースに身を包んだ、可愛らしい顔立ちの女だった。
 そして、ピタリ、と演奏を止める。
 
「こんばんは、お嬢さん」
 そう言った久利生エリの口元は、不気味なほどニヤリと歪んでいた。

所属するムトウファームのお仕事にもっと専念するため、男鹿市へ移住したい! いただいたサポートは、移住のための費用、また、ファームの運用資金にも大切にあてさせていただきます🌱💓 サポートよろしくお願いします☆